16.トロフィーが一つしかない理由

「はぁ〜……やっぱサヤさんは最強だな!」


「だね!もう勝てる人いないんじゃない?」


「もし探すなら別世界の人物から探さないと」


サヤのエピソードを聞いたマルシア達はそれぞれの感想を述べる。ラナは3人の言葉に嬉しそうにうんうんと頷いている。サヤは、ラナとシア以外に面と向かって褒められるという経験がない為、若干恥ずかしそうに頰を染めて俯いていた。


が、シアだけは何故か首を傾げてサヤに問いかけてきた。


「けど、それなら何でうちには「武闘祭」のトロフィーが一つしかないの?」


シアとて、サヤが最強だとは思っている。故に、「武闘祭」の優勝トロフィーが一つしかないのは不思議に思っていた。

が、それを問われたサヤは、ビクッと肩を震わせ、先程とは別の意味で顔を俯ける。


「あの……それは……」


「確かにそれは変だな。殿堂入りして出場出来なくなったとしても、普通は3年連続優勝のはずだから、トロフィーが3つないとおかしいな」


「うぐっ……!?」


殿堂入りという言い訳を、マルシアによって封じられてしまったサヤは、更に動揺した様子で、脂汗をダラダラと流し始める。そんな母を見て、ラナとシアはジト目で見る。


「……お母さん。私達に何か隠そうとしてるでしょう?」


「うっ……!?そ……それは……!?」


「お母さん。私達はお母さんの娘。隠し事は不可能」


「……分かりました……お話します……」


サヤはようやく観念したのか、トロフィーが1つしか存在していない理由を話し始めた。




あれは9年前、サヤは再び「武闘祭」にラナとシアを背負って出場した。しかし、昨年度の事もあり、出場者はサヤの対策を必死に考えたが、何も思いつかなかった。

が、1人だけアホな作戦を考えた愚か者がいた。その愚か者が考えた策は、ラナとシアを人質にすれば、サヤは無抵抗になるだろうというものだった。

そして、その愚か者に絶好のチャンスが訪れた。なんと、サヤが2人のオムツのストックを忘れてしまったのである。サヤは「すぐに取りに行く」と2人に行って、2人を控え室に置いて出て行ったのだ。この時しかチャンスがないと愚か者はすぐに行動に移したのだが……


「何をやってるんですか?」


秒速の速さで走ってオムツを取りに戻ってきたサヤに呆気なく見つかり、その愚か者は半殺しに近い目にあわされたのだ……


しかし、サヤのこの行動は問題視される事になってしまった。何故なら、対戦者は、ステージ以外で他対戦者を攻撃してはいけないというルールがあったのである。よって、サヤの行動はルール違反だと、これ幸いと対戦者達が訴えてきたのである。そして、エイーダはこのサヤの行動に関してある裁きを言い渡した。


「事情としてはだいたい分かったし、サヤが悪くない事も分かっておる。しかし、流石に半殺しはやりすぎじゃ。よって、過剰防衛のお咎めは無しにするが、サヤはワシが認めるまで「武闘祭」の出場を禁止とする!!」




サヤは何故か正座しながらその事をきちんと2人に説明した。説明を全て聞いたラナとシアは溜息をつき


「お母さん……私達の為にしてくれるのは嬉しいけど……」


「流石にやり過ぎ」


「はい……すいません……」


最愛の娘2人の言葉を受け、ガックリと項垂れるサヤ。そんな2人を意外そうな表情でマルシア達は見ていた。

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