7.マグナス、サヤの事を知る
突然現れたクロードに、マグナスは驚いているが、アリシアと酒場のマスターは特に驚いていない。クロードはアリシアとは反対側のマグナスの隣の席に腰かけ
「マスター!俺にいつもの!」
「全く……第三王子ともあろうものがこんな酒場に来るんじゃねえよ。騒ぎになるだろうが」
「ハハハ!大丈夫大丈夫!こんなボロ酒場に第三王子が来るなんて誰も思わないって!」
「ボロは余計だ」
マスターは文句を言いながらも、やはりテキパキとクロードの注文通りの物を差し出した。
「……クロード。先程サヤの情報がどうとか言っていたが……」
マグナスはクロードの出現に驚いたが、よく考えたらコイツがちょくちょく城を抜け出してくるのはいつもの事だったと頭を切り替え、マグナスにとって1番気になる言葉を尋ねる事にした。
「実は今、城ではサヤちゃんの事が話題に上がっていてね。まぁ、正確に言ったらサヤちゃんの娘なんだが……」
「ぶふっ!!?む!?娘ぇ!!?」
一旦落ち着く為に水を一杯飲んだ時に、そんな言葉を言われ、マグナスは驚いて水を吹き出してしまう。
「む……娘という事は……サヤは誰かと結婚して……その……」
明らかに動揺しまくってる親友に、おかしくてからかいたい衝動にかられるクロードだったが、目的は情報収集の為、一旦マグナスに落ち着くように言って、クロードはムスカから聞いたサヤの情報をマグナスに話した。
10年前に、サヤが崩壊したエルフの里で双子のエルフの赤ん坊を拾った事
その双子のエルフを育てる為に今でも冒険者を続け、今やCランクで「スタンピードクラッシャー」と呼ばれている事
サヤが追放されてからの事を聞いたマグナスは、驚きつつも、わずかな安堵感を覚えていた。追放した後も、元気でやっているようで師として安心したからだろうとマグナスは自身の気持ちをそう解釈する。
「ところで……サヤのその娘達が話題になっていると言ったが……?」
「悪い。そっちに関しては国家機密ってやつだから話せないんだ」
「ふむ。となると、父も話してはくれないだろうな」
アリシアは実はムスカの娘で、アイワーン公爵家の一人娘である。アリシアには、2人の兄と、1人の弟がいる為、自分が家を継ぐ必要がないので、元々公爵令嬢が肌に合わなかったアリシアは、冒険者適正職業が発覚したら、これ幸いと
「私は冒険者になってこの国に貢献します」
と言って家を出たのである。しかも、実際に国に貢献しているだけあって、ムスカにとってこの一人娘は頭痛の種だった。
「あの人は特に厳格な人だからな。恐らく、息子らにも話してないだろ。それで、話は変わるが……俺はお前を通してサヤちゃんに数回しか会ってないんだわ。だから、サヤちゃんについて教えてくれないか?」
「……まさかとは思うが、サヤの娘に何かする為に情報を聞きたいって訳じゃないだろうな?」
「俺の母親の名に誓ってそれはないと宣言する」
サヤへの被害を考慮し、訝しげな表情でクロードを睨んでそう言うマグナスだったが、クロードにアッサリとそう返され、しばし睨んだが、すぐに溜息をついた。
「……俺が教えられるのは追放される前のサヤの話だけだぞ」
クロードが母親を大事に想っているのを知っているマグナスは、クロードを信頼して情報を話す事にした。
「あぁ、構わない。俺が知りたいのは、本当にサヤちゃんがこれぐらいの実力者かどうかだからな」
「サヤの実力についてか……まだ冒険者を続けていた事には驚いたが、あのトラウマを、娘を育てたい一心で乗り越えたなら、Cランクぐらいまでいく可能性はあるだろうな……」
マグナスはサヤを鍛えた日々を思い出しながらそう答えた。サヤは本当に物覚えのいい子だった。自分が教えた技はほとんど吸収していったので、あのトラウマさえ無ければ高ランクの冒険者になるだろうとはマグナスも思っていた。
「だが……流石に……スタンピードを何度も潰したという話は……信じられないな……」
マグナスはサヤの実力は認めていても、やはり超災害級の自分でもどうする事も出来ないスタンピードを、サヤが潰しまくっている話は信じられなかった。
「……ふむ。やはり……直接会ってみるか……」
「ん?直接会うだって!!?」
「あぁ、これでな」
驚いて立ち上がるマグナスに、クロードはイタズラっぽい笑みを浮かべてマグナスに一枚の招待状を見せた。
それは、もうすぐテリュカで行われる「武神祭」の招待状だった。
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