6.マグナスの悩み

マグナスは1人、客のいない酒場に入った。勝手知ったるの我が家のように、マグナスがいつものカウンター席に座り、やたらと強面のマスターに注文する。


「マスター。いつのものを頼む」


「あぁ」


マスターはそれだけ言うと、テキパキとした動作でいつもマグナスが飲む酒と、今日のおススメのつまみをマグナスの前に差し出す。マグナスは出されたお酒をグイッと一口煽るとすぐに溜息を吐いた。


「イケメンが繁盛しない酒場で溜息をつくのは絵になるが、余計にこの酒場が繁盛しなくなるぞ」


そう言って新たに来店した客は女性だった。女性は確認もとらずにマグナスの隣の席に腰かけ、「マスター。いつもの」と言って注文を始める。


「繁盛してないは余計だ」


マスターは女性にそう言って、これまたすぐに女性がいつも頼むお酒、女性が好んで食べるつまみを女性の前に置いた。


「それを言うなら、「烈風の勇者」の称号を持つアリシアがこんな酒場にいる方が問題じゃないのか?」


マグナスは苦笑しながら女性にそう言った。

彼女はギリアスと同じ「勇者」称号を得た冒険者のアリシア。適正職業は「魔剣士」で、数々の「迷宮」攻略と、いろんな人からの依頼を多数こなしている事からも、ギリアスよりも人気の高い人物だ。


「私は「烈風」の名前をいただいているように、風だからな。どこに吹こうが自由なのさ」


アリシアはお酒をグイッと煽り、ニカッと笑ってそう答える。こういう人柄の良さも人気の高い理由の一つだろうなとマグナスは思い、思わず悩みの種の人物と比べてしまい溜息をつく。


「お前のその溜息の理由……ギリアスの事か?」


「…………当たりだ」


マグナスは苦笑してそう言った後、再び溜息を吐いた。


最近、ギリアスは苛立ってパーティーに八つ当たりする事が多くなってきていた。というのも、最近思うように「迷宮」を攻略出来なくなってきてるからだ。

前までは簡単に倒せていたはずの魔物も、以前より苦戦を強いられるようになっている。どうにか「迷宮」や魔物退治が出来てるのは、マグナスが的確な指示をしているおかげだ。故に、パーティー内でも民衆からも、マグナスの方が人気が高い。それが更にギリアスの苛立ちを加速させているのだが、ギリアスもバカではないので、今マグナスを追放すれば自分達のパーティーが終わるのが分かっていた。だから、ギリアスがマグナスを追放するマネはしないのだが、その苛立ちを他にぶつけていて、それが最近マグナスの悩みの種となっていた。

そもそも、何故こうも昔より攻略が上手くいかないのか?その原因はマグナスにもよく分かっていた。分かっているからこそ、マグナスもギリアスにキツく言えなくなっている。何故なら、攻略が上手くいかなくなったのは10年前のあの日から始まっているのだから……


その事を思い返してマグナスは何度目かの溜息をついた。


「もういいだろう。マグナス。お前は十分貢献したんだから、そろそろギリアスの所を離れたらどうだ?」


「それは……」


「離れられないのは追放した弟子の事があるからか?」


マグナスはアリシアの問いに何も答えないが、その沈黙が肯定の意を示していた。



「そこまで気にしてるんならその娘の情報教えてやろうか?」


「えっ?クロード……!?」


この酒場に来店した3人目の客。それは、いかにも遊び人風な格好をしたクロードだった。

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