22.ステータス0

2人は思うように身体が動かせない現象に戸惑っていた。最初は鈍足か何かの魔法をかけられたのかと思ったが、それとも違う何かを感じていた。ただ、ひたすらに身体が重くなり立ち上がれないのだ。


「お前は……!?一体……!?何をしたんだ……!!?」


2人の内の1人がそう尋ねると、サヤはニッコリと笑ってこう答えた。


「別に大したことはしてないわ。ただ、貴方達のステータスの全てを0にしただけよ」


「全てのステータスを0にだと……!!?」


サヤの答えに驚いて目を見開く2人。2人が驚くのも無理はない。サヤはたった一瞬で、全てのステータスの数値を0にしたというのだ。しかも、2人共だ。そんな事が出来るなんて誰も思わないだろう。


しかし、現に2人が今起きてる現象はそれが原因である。冒険者が着る防具は特殊な金属や布や糸を使っている為、一般人では重くて着れない。稀に、鍛え抜かれた人や、人間より力がある獣人達などが、初級者用の防具を着る事は出来るが、上級者・中級者用の防具となれば、もっと特殊な金属等が使われる為、それ相応のステータスがないと着る事が絶対に出来ない。

そして、彼らが装備している防具は中級者向けの防具ばかり。それを装備した彼らのステータスが0となればどうなるのか?下手したら一般人よりも低い数値となった彼らは防具の重さに耐えられず立ち上がれないというのが今の現象である。


だが、彼らは頭では何となくサヤの言ってる事が正しいと思っていても、そんな事出来るはずないという気持ちが強く、未だに疑いの眼差しでサヤを見つめている。そんな彼らの眼差しを察したサヤは再びニッコリと笑い


「私の言葉が信じられない?だったら試してみる?」


サヤはある方向を指差す。その方向から……


ポヨンポヨンポヨンポヨン!!!


という、なんとも形容しがたいリズミカルな音が聞こえてきた。が、彼らはこの音の正体をよく知っていた。何故なら、この音は足音で、冒険者が最新の頃に、自分のレベル上げにいつも世話になっているあの魔物の足音だからだ。


「聞き覚えがあるわよね。スライムよ。それも足音から大群で来てるわね。まぁ、スライムなら別に珍しくもないか」


基本、魔物はスタンピードでなければ、襲いかかってくる時はだいたい1匹で、多くて2、3匹。もしくは、上位種がたまに下位の存在を連れてやって来るぐらいであり、基本大群で来る事はない。

しかし、スライムだけは違う。スライムは、一体の身体から次々と分裂する特徴があるせいか、他の魔物と違って群れで行動する事が多い。


「まぁ、って言っても相手はスライムだもの。数が多くても、私に勝てる自信がある貴方達なら楽勝よね」


「い……いや……!?それは……!!?」


スライムの倒し方は、接近戦の場合、核と呼ばれる部分を破壊すると倒せる。まぁ、スライムの特徴上、かなりぬちょぬちゃなのであまりやりたくない冒険者が多いが、スライムだったら、頑張れば一般人でも倒せる魔物である。ましてや、魔法が使える者ならば、魔法で一気に焼き尽くせばいいだけなのだから楽勝である。

しかし、サヤの言ってる通り、彼らのステータスが全て0になってるなら話は違ってくる。魔法を使う為のステータス数値がある程度ないと使えない魔法が多い。彼らが現在使える魔法は「ファイヤーボール」ぐらいであろう。しかも、魔法の威力を上げる数値も0になっている為、その「ファイヤーボール」もライターの火程度だろう。流石のスライムでもその程度の火では倒されたりはしないだろう。


ポヨンポヨンポヨンポヨンポヨン!!!!


だんだんとスライムの足音が近づいて来ている。しかし、彼らは逃げる事が出来ない。自分達が着ている防具の重さで動けないのだから。いや、そもそも防具を装備してなかったとしても、速さのステータスも0になっていれば、スライムよりも足は遅くなっているはずだ。

防具はそれなりに質の高い物だ。いくらかのスライムの攻撃を受けても耐えられるだろう。しかし、防御の数値も0になっている為、下手に直撃を受けたら即死間違いなしだ。いや、もしもやって来るスライムがポイズンスライムのような毒攻撃を持つ物だったら、抵抗値も0になってる2人は、毒をアッサリと受けて死んでしまうかもしれない。


ポヨンポヨンポヨンポヨンポヨンポヨンポヨン!!!!


『ヒイィィィィ〜ーーーーーーーーーー!!!!?』


スライムの群れの足音が、自分達の死を告げる足音のように錯覚した2人は……目を真っ白にし、口から泡を吹き、股間をぐっしょりと濡らして気絶した。

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