8.冒険者時代のアロマ

「魔物滅唱」という今のアロマからは想像もつかない単語にサヤは驚いていると


「お前は「歌手」が歌に想いを乗せる事で様々な効果を与える事は知っているな?」


と、ディアスに尋ねられたのでサヤは黙って頷いた。


「歌手」は、その人の想いを「歌」にすることで、その「歌」に様々な効果を与える事が出来るのである。例えば、傷ついた仲間を癒したいという想いを「歌」にすれば、傷ついた仲間の傷を徐々に癒す「歌」に出来たりするのである。


「実はその事を発見したのアロマなんだ」


またしても新たな新事実発覚に驚くサヤ。詳しい説明を聞いてみると


「アロマは元々「歌手」ではなく「戦士」か「魔剣士」になりたかったらしい」


アロマは元々、剣を持って戦う冒険者に憧れを抱いていた。しかし、冒険者適正職業に選ばれはしたものの結果は「歌手」という支援重視の職業で酷く落ち込んだという。

基本、剣で戦う事の出来る職業は「戦士」や「魔剣士」である。その適正職業でないものが剣を持って魔物に挑んでも、良くて中級クラスの魔物をどうにかして倒せるといったレベルである。これは、鍛えこんだ国の騎士達も同様である。


「だが、どうして諦められなかったアロマはやけになって剣で戦う自分をイメージしながら歌って魔物と剣で戦ったそうだ」


それはほとんど自殺行為に近いのでは?とサヤは思った。「歌」を歌う事でさえ体力を使うのに、更に剣を振って戦うなんて不可能に近い。しかし……


「ところが、これが見事に上手くいってな。「歌」を歌いながらだと、いつも以上に軽やかに剣を振るえていて、適正職業でしか倒せないはずの上級魔物まで一人で討伐したとも聞いている」


これは本当にとんでもない話である。「歌手」は基本歌う時はその場を一歩も動かない。先程も言った通り歌うだけでも体力を使うので、仲間に守ってもらいながら歌うのが「歌手」の基本スタンスだ。しかし、アロマはその基本スタンスを見事にぶち壊したのである。


「こうして、アロマは冒険者としての知名度を上げていき、冒険者の間で彼女を「歌」を聴いた先は魔物の死体が転がっているという意味で「魔物滅唱」という二つ名が付けられらしい」


あのなんとも恐ろしい感じのする二つ名はそうやって誕生したようである。まぁ、サヤが付けられている「スタンピードクラッシャー」も十分恐ろしい二つ名だが……


「が、彼女は他の冒険者からは煙たがれていた。というのも、彼女の「歌」は仲間を支援するものでなく、自分を支援する「歌」だった。「歌手」でありながら自分達を支援出来ないなんて出来損ないだとな」


ディアスの話を聞いたサヤは、勇者パーティーに所属していた時を思い出した。あの時の自分は、まともに前線で戦えず、支援魔法しか使わなかったから散々批難されたなと……もしかしたら、アロマも昔の自分と同じ気持ちだったんだろうか?とサヤはそう考えていた。


「だから、彼女に付いて行こうとするのは、彼女の「歌」に聞き惚れていた俺だけだったな」


なんだかまた惚気話になるのか?とサヤは若干引き気味になってディアスの話を聞いていたが


「が、あまりに聞き惚れすぎたせいで、俺は彼女の冒険者としての道を断念させてしまった……」


ふと、ディアスは悲しげな表情でそう呟いたのだった……

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