「泡の妖精・スキューマ」
『こんにちは、わたくしは泡の妖精のスキューマと申します。プッシュする回数によって叶えられる願いが変化しますが、何をお願いされますか?』
手の平の上で可愛らしくあいさつする妖精にジョン太は驚きます。
「わ、本当に出てきた。えっと、君はこのシャンプーボトルから出てきたの?」
その質問にスキューマと名乗った妖精はうなずきます。
『はい、そうです。わたしは、~人はいずともモノはできる~人工知能運営会社:イデア・アイランド製の人工妖精です。一応妖精というのは設定上のものでして、本来の姿は泡の形に見えるナノマシンが集合したものであり、構造としては…』
言うなり、スキューマは泡に設計図のスクリーンを映し出しながら自身の構造についてベラベラとしゃべりますが、内容はジョン太にとってチンプンカンプン。
頭がこんがらがりそうになったジョン太は悲鳴をあげます。
「…ごめん!その説明、分かりにくいかも」
するとスキューマは話をやめ、ジョン太をしげしげ見つめます。
『ああ、大変申し訳ありませんでした。何分、17才女性で登録購入された商品でしたので、それに合わせた会話レベルに設定していました。情報をインプットし直しますのでお名前と年齢をどうぞ!』
泡で出来たマイクを向けるスキューマ。
ジョン太はそれに答えます。
「えっと、僕はジョン太。年齢は10才です」
『うわーお、10才!お若いこと』
その言葉を聞くなり、頬を手を当て大袈裟に驚いた身振りをするスキューマ。
これが年齢設定の結果だとしたら、ずいぶんバカにされた感じがしなくもないですが、とりあえず話しやすくなったのならなんでもいいとジョン太は考えます。
『では、続けて質問をどうぞ』
言われたスキューマの言葉にジョン太は戸惑いながら答えます。
「えっと、じゃあさ。押す回数によって叶えられる願いごとが違うってどういうこと?」
すると、それを聞いたスキューマはエッヘンと胸を張ります。
『要は、願いの価値によってプッシュ回数が変化するということです』
「…うーん、まだよくわかんないかも」
頭を掻くジョン太。
すると、スキューマは手の上に泡で出来たネジ巻きネズミを取り出します。
『例を挙げますと、もし、ジョン太さまが高性能のおもちゃのネズミが欲しいと言った場合、ボトル1回分のプッシュで願い事が叶います』
続いてネズミがダンプカーへと変化したかと思うと泡のビルを次々と壊します。
『ですが、その次に近くのビルを壊して欲しいとお願いした場合、プッシュ1回では叶えられる分の量が足りませんので、最低5回のプッシュが必要なのです』
ついで、泡の妖精はマイクを向けます。
『はい、ここで問題です!今のお願い2つ分を叶えてしまうと100回分あったボトルの残りプッシュ回数はいくつになるでしょうか?』
「えっと、えっと…」
突きつけられた問題に焦るジョン太。
「きゅ、97回!」
泡の妖精はそれに『ブブーッ』と答えます。
『はい、ざんねーん。1回目は1回、2回目は5回分を使ったので、1たす5で合計6回。100から6を引けば94回分が残る計算です』
ついで、スキューマは疑わしそうな目をジョン太に向けます。
『…あなた10歳ですよね。これくらいの算数の問題出来ないんですか?』
ぐ…と言葉につまるジョン太。
文章問題と口頭問題、とっさの判断ができないのがジョン太です。
泡の妖精の言葉にぐうの音も出ません。
『…まあ、いいでしょう。あんまり文句を言って商品を使ってくれなくなっても困りますし、残り回数についてはこちらも正直に答える義務はありますから』
そう言って、偉そうに天をあおぐスキューマ。
『あ、そうそう。「遊んで暮らせる大金持ちになりたい」といった月並みな願いも叶えられますが、その場合100回すべてをプッシュしていただく必要があります。まあ、一生遊べるかどうかは本人の消費具合によりますけれど…せいぜい、用意できるのは40億クレジットが限度と思ってください』
さらっと出てきたその数字にジョン太は目を丸くします。
「え、すご…」
とっさの引き算は苦手でも、40億と言う数字がとんでもない桁数なことは、流石のジョン太でも理解できます。何しろ、おじいさんと見ていたテレビの宝くじのCMでは10億円当たれば一生遊べるとうたっていたのですから。
ですが、驚くジョン太をよそに、チッチと泡の妖精は指をふります。
『いえいえ、このボトルの値段と同じですよ。それほど価値のあるものだと理解していただければ結構なんで…では、今回はあくまで説明。0回としてカウントとさせていただきます。残りプッシュは100回分、ご入用の時にいつでも呼んでくださいまし…』
そう言い残すと泡の妖精は消え、後にはジョン太一人が残されます。
しかし、興奮したジョン太にとってはどこ吹く風。
「40億クレジット…僕、すごい額を手にしちゃった」
ウキウキしてステップを踏むジョン太。
…その足元からカツコツというかすかな音が聞こえます。
それは床に取り付けられたハッチの階下から聞こえる音。
ですがシャンプーボトルにすっかり魅せられてしまったジョン太は、ボトルの今後の使い道に存分に妄想を膨らませ、床の下の奇妙な音などまるで耳に入っていなかったのでした。
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