「欲なんてかくものじゃない」

「え、ちょっと、なにこれ」


 ジョン太は興味津々で近づいてみます。

 宝箱の蓋はしっかりと閉じており、誰かが開けたような形跡もありません。

 

 ためつすがめつ眺めまわし周囲をキョロキョロ見渡しますが、誰もいないことを確認するとジョン太の口元がゆるみました。


「よし、掘り出そう」


 そう言うなり、先ほどまでの不安はどこへやら。

 ジョン太は落ちていた木の板で周囲の砂をガリガリと掘り始めます。


「ふ、うふふふ。宝物、宝物」


 砂はゴリゴリと掘り出され宝箱の周りに隙間ができていきます。


 その様子を遊びに飽きたパトリシアが冷たい目で見ていましたが、ジョン太は気にするでもなく掘り進めます。


 …そうして、小一時間後。


「やった、これでいいかな」


 膝丈ほどの深さまで掘った穴。

 その中でジョン太は汗をぬぐうと満足そうにうなずきました。


 そこには、完全に姿を現した宝箱。

 ぴっちりとしまった口はジョン太の腰ほどの高さにあります。


 箱の周りには奇妙な文様が刻まれていましたが…気になるのはその中身。


 ジョン太はワクワクしながら箱の周囲をペタペタ触っていましたが、ふとあることに気づきます。


「あれ、鍵穴がないや」


 …そうです、本来宝箱には鍵穴が不可欠です。


 そうでなくても閉まっているのだから錠を入れる場所がなければおかしいはず。

 でも鍵穴のある場所はどこを探しても見当たりませんでした。


「なにこれ。細工物とかかな?」


 以前、おじいさんがお土産に買ってくれた細工箱は箱の周囲の模様を合わせるとフタが開くものでした。


「でも、あの模様も何度合わせようとしてもダメだったんだよね。その度におじいさんがため息をついて開けていたし…」


 基本的にジョン太はパズルが苦手です…と言うか、勉強全体が苦手です。


 宿題だってどれほど真面目に解いたとしても、なぜだかペケばかりがついてしまうのですから。


「ゲー、こんなのただの開かない箱じゃん。もうやめた、さっさと出よう」


 そうして、飽きっぽいジョン太が穴から出ようとすると不意にその頭上を何かが飛び越えました。


 それは、ジョン太の愛犬パトリシア。


 彼女は穴の中に降り立つと、宝箱の前でふんふんと匂いを嗅いでちょうど鍵穴の位置にある宝箱の蓋にある溝…縦長になっている溝の一番上にちょこんと手を置きました。そして、シュッと上から下へと手を滑らせます。


 ガコン


 その途端、勢いよく宝箱の蓋が開きました。


「え?」

 

 …沈黙する、一人と一匹。


「ま、まあ開いちゃったならしょうがないよねえ」


 そう言いつつ、ジョン太はヘラヘラしながら中を覗き込みますが…すぐにこうつぶやきました。


「…ない。何にもない」


 箱の中は空っぽ。コイン一枚ありません。


「いや、待って。中身が砂金だとしたら隙間に挟まっているかも」


 みみっちいことを言いつつ、箱の中に上半身を入れてゴソゴソと探るジョン太でしたが、無いものはありません。


「えー、なんでー?」


 ジョン太は必死になるあまり、前のめりになって底をペタペタ探ります。


「絶対なんかあるって…」


 底の底まで手を伸ばし、もはや宝箱から足だけが出ている状態。


 …その時でした。

 不意にお尻に衝撃が走り、ジョン太はバランスを崩します。


「え?」


 そしてジョン太はしたたかに箱の底に頭を打ちつけ…

 目の前に火花が散ったかと思うと、何もわからなくなってしまいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る