「島の真実」

『私の命の灯火が消えかケ、

 生命維持装置の箱に入れられた時、

 すでニその意識は機械の中へと入りこんでいました。』


ロボット姿の『ルナ』は淡々と語ります。


『もともと、惑星で生まれたために体の弱かった私は、

 重力の影響下が少ないために身長が伸びやすク、

 その反面、惑星の鉱物による影響からか幼い頃から

 老化の速度まで早い人間となっていましタ。

 両親はそれを嘆き、必死に治療法を探したのでス。』


ジョン太は老婆姿の『ルナ』を思い出します。

彼女の姿は惑星で生まれたがために起こったものでした。


『そこに、もともと協力的だっタ

 青少年学習機構の理事長デあるサカモトが、

 医療の一環として私の意識を肉体から切り離し

 機械ニ移して保存することで別の人間の器…

 つまり私のクローンに意識を移せる案を出したのです。』


うつむくロボットの『ルナ』。


『私の両親は非合法でありながらもそれに同意シ、

 交換条件として彼を最高責任者でしか行けない、

 ワームホール装置のエリアへの入場を許可しましタ。』


そのワームホール装置は今も床に転がっていました。


『しかし、サカモトはその時点で装置の一部のシステムを書き換エ、

 本来砂が入り込めないはずのワームホールを逆操作したのです。

 …そして私が装置に入りクローンのルナが送り届けられた日、

 サカモトが事前に仕掛けた通りワームホールが暴走したのです。』


そうして、『ルナ』がシステムに繋がれながらも島の異常に気づいた時、

すでに島の半分以上が砂に覆われ、助かった人は皆無でした。


『私は、とっさにクローンの私だけでも助けようと、

 砂の流入する装置の部屋から看護ロボットヲ操作し、

 一番安全な図書室へと彼女を避難させたのでス。』


それから、ルナが物心着くまで、

『ルナ』は島じゅうのロボットを使って、

島の中の砂をできるだけ搔き出し、

なんとか生活できるだけのスペースを確保しました。


『ですガ、その時にはこの島にもともと住んでいた人も、両親も、

 もう、生きている人間はルナ以外いませんでしタ…』


すると、床であぐらをかいて

話を聞いていたクロサキが立ち上がり、

元理事長のサカモトを靴でつついて起こします。


「ねえ、なんであんたそんな大それたことしたのよ?」


するとサカモトは床にペッと唾を吐き、

鼻で笑いました。


「あいつらは恩知らずだ。こちらが優秀な人材も資材も提供したのに、

 政府から提供される宇宙開発の研究費用を半分にするとぬかしたからな。

 若造どもは少しでも先進的なことができると自分が優位だと威張りちらす。

 だから、少しお灸を据えてやるつもりだったんだ。」


「人材と資材?あんたの送り出したスパイの間違いでしょう?

 近年まで、あなたが発表した宇宙開発の研究内容は、

 一人で行うには不自然なほど大規模なものだった。

 その大部分が実はこの島で行われた実験の産物だったんじゃない?

 あんたはそれに気づいた夫妻の行動を逆恨みしてワームホールに

 遠隔操作で細工をして…結果、大量殺人を犯したんじゃないの?」


カマをかけるクロサキ、

それにくっくっと笑うサカモト、


「…殺人だと?あれは偶発的な事故だ。

 ワームホールが誤作動を起こしたのは単なる事故。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 今後、私はそれを法廷で証明するつもりだよ。」


クロサキはそんなサカモトに冷たい目をしてから、

ゆるゆると首を振ります。


「…まあ、いいでしょう。どうせこの機械と

 あんたの手袋の操作履歴を調べれば証拠は上がるはずだから、

 もうその時点で、あんたのムショ行きは確定で、

 懲役も軽く900年は突破するはずだけど。」


その言葉にほんのわずかに眉をひそめるサカモト、

…そんな中でもロボットの『ルナ』は話を続けます。


『空間から漏れた出した砂は次第に島の機械を侵食シ、

 ルナが10歳になるころには私の意識モ

 ほとんど保てないほどニシステムの大部分を

 壊してしまイました。』


それでもルナをひとりぼっちにさせたくなかった『ルナ』は、

自分のすでにいない生命維持装置に映像を映し、

彼女が将来的に一人で生きていけるように教育を施しながらも

ずっと彼女を生かし続けていたのです。


『私は、もう実際は死んでいる人間でス。

 意識だけが壊れかけたシステムの中にいる状態。

 だからこそ、今回イデア・アイランドの助けを借りた時に

 昔の情報につなげ、イデア博士の姿を模すこともできタ。』

 

ジョン太はまだ床に映ったままの

イデア博士の姿に気づきます。


そう、このイデア博士を操っていたのは『ルナ』でした。


彼女がイデア博士のデータを使い、

ジョン太とルナを助けてくれたのです。


『…もう、私に残された時間はあまり残っていませン。

 機械のシステムが寿命を迎えようとしていまス。

 私の記憶を別のシステムに移せる技術はマダこの世界にありません。

 だからこそ真実を話すことができてよかっタ。

 生きているルナに会えてよかっタ。』


そういうと、ロボットの『ルナ』は

自分のクローンであるルナを見つめます。


ルナは泣いていました。


ワンピースにいくつもの涙のシミをつけて、

あれほど気丈に振る舞っていた姿は今はどこにもなく、

『ルナ』に抱きつき子供のように泣いていました。


「ごめんなさい、本当は分かっていたの。

 あなたが元に戻れないことはスキューマの言葉から気づいていたの。

 あの箱を直しても意味がないって、本当は知っていたけど、

 どうすれば良いかなんて分からなくて…」


そうしてしゃくりあげるルナを、

『ルナ』はそっと抱きしめます。


『あなたは私の存在に縛られズ、

 あなたとして生きなさイ。

 自由に自分の人生を生きて下さイ。』


ルナはそんな『ルナ』の言葉に必死に首を振ります。


「でも…!私は、あなたのために生きていたのに、

 あなたのために学んで知識を身につけてきたのに、

 …なのに、あなたのいない世界で、あなた無しで、

 私はどう生きていけばいいなんてわからない…!」


その時、ジョン太は気づきます。


ロボットの『ルナ』。

その首筋の隙間からわずかに漏れ出る砂の粒を。


床から下のガレキの先にある

穴へと向かう砂つぶの移動を。


『大丈夫、あなたは賢イ。それに友達もできた。

 その友達のために誰かのためにあなたは生きなさイ。

 もう、この島の時間は動き出してイルのだか、ラ…』


…『ルナ』とルナがつぶやきます。


そこには、首を垂れたロボットの姿。

もう動かない『ルナ』の姿がありました。


いいえ、これは『ルナ』ではありません。

『ルナ』のいなくなった抜け殻でしかありません。


そうして、ルナは一粒涙をこぼすと砂つぶの向かった先、

ロボットの積み上げられたガレキと閉じられた穴へと目を向け、

こう、静かにつぶやきました。


「ありがとう、『ルナ』。」


その時、ぐらりとした大きな揺れが、

ジョン太たちの足元を襲いました…

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