「ボトルの中身は増やせるのか?」
津波のような砂が
通路を縦横無尽にかけぬけます。
空中に散った砂はまわりの砂やロボットを巻き込み、
さらに大きなうねりとなって先へ先へと押し寄せます。
「もう、ダメ…これ以上は追えないよ。」
走り疲れてハアハアと息を切らすジョン太に、
通路に手を当てて近道を作ろうとするルナも
泣きだしそうな顔になります。
「どんどん早くなっていく。
もう箱の形すら見えない…!」
そして二人が息を切らしながらたどり着いたのは、
2時間ほど前にジョン太が登録を受けようとしていた
エリア3の階段部分。
しかし、本来吹き抜けであるはずのフロアは
もはや柱が見えないほどに砂に埋もれ、
あちこちで壊れたロボットが流されていくのが見えました。
『どうやら島に広がっていた砂が
全体的に集まりつつあるようですね。
ロボットが巻き込まれたのは計算外でしたが、
この島にある機械がイデア・アイランド製である以上、
これも仕方のないことかと…』
そのスキューマの言葉に
あごにしたたる汗をぬぐいながら、
ルナが顔を上げます。
「思い出したわ。イデア・アイランドの創業者は、
青少年学習機構の初代学長でもあったはず、
じゃあ、ここに配置されたロボットやシステムはみんな…」
『多分、砂といっしょくたになると思います。
無事なのはここにいる私たちぐらいですよ。』
にべもないスキューマの言葉に、
ジョン太はボトルをにぎりしめながら聞きます。
「ねえ、これ元に戻せないの?
もう一度砂に戻すとかさ。」
それに対し、スキューマはシブい顔をします。
『うーん、別にいいですけど、
今度はボトルを押さなきゃいけなくなりますよ。
数でいけば…ざっと200回ほどですかね?』
「200回!?」
その言葉に、ジョン太は目を丸くします。
「どっからそんな数字が出てくるのさ?」
『簡単ですよ、今は砂全体が
一つのシステムになりつつありますからね。
構築していく側から崩していくんですから、
その砂もさらに湧き出している分を吸収すれば、
まだまだ回数は増えていきますよ。』
ジョン太は目の前が真っ暗になりそうでした。
何しろ200回なんて数字、
残り50回しかないボトルから
ひねり出せようはずがありません。
しかし、ルナはその言葉を聞くと、
どこか冷静な様子で聞き返します。
「じゃあ、もし砂だけを元あった惑星に戻せるとしたら、
どれくらいの回数が必要なの?
ついでに空間も閉じられると理想なのだけれど。」
すると、スキューマは『えーっと』と
言ったあと、ぽちぽちと電卓をたたきます。
『ま、これから先の分も計算して、
ざっと5,000回は必要ですね。
…それにしてもお嬢さん、
ずいぶんと難しいことをおっしゃる。』
5,000回!?
それを聞いて、ジョン太は
足元がガクガクしてくるのを感じます。
そんなのジョン太の残り50回のボトルが
100個もなければ叶わないことです。
無理難題にもほどがあります。
「…そう、だったらよかったわ。」
そう、めずらしくジョン太も
正確に計算できるくらいにそれは難しいことで…
と、ジョン太はそこでルナに聞き返します。
「え、よかった?」
ルナはそれにうなずきます。
「ええ、まだこのアイテムを
使える範囲を超えていないもの。」
そして、取り出したのは太陽のような羅針盤。
ジョン太はそれに見覚えがあります。
「あ、それ。確か学習装置とかいう…」
ルナはその羅針盤をちらりと見ると、
ジョン太の首にかけ、腕をとります。
「多分、私の考えが間違っていなければ、
砂の問題はこれで解決するわ。」
そう言うと、ルナは上の階へと
ジョン太の手を引きます。
「急いで上に行きましょう。
私にしたがってボトルを離さないように。
この
「え、だからどういう…」
その時、ザザザッというせり上がるような音が聞こえ、
ジョン太は足元を見てギョッとします。
どうやら先ほどよりも砂の量が増えたらしく、
明らかに先ほど見た時よりも砂の高さが変わっています。
「ともかく外に出ないと。
このままじゃあ私たちも砂に飲み込まれかねない。」
パトリシアを抱えながら、
ルナが階段をかけ上がりジョン太もそれに続きます。
それにしても、
ルナは何を思いついたのでしょう。
ジョン太はルナの考えていることを推測しようとしますが、
足元に迫る砂に追いつかれそうになり、あわてて走ります。
そして、二人と一匹を追う砂はさらに勢いを増し、
エリア3のほとんどが砂に埋もれていったのでした。
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