「遺跡で多数と犬一匹」

 …四人のジョン太は『パトリシア捜索班』からはぐれたジョン太たちでした。


 広場で地図を作成する『情報班』のジョン太は、なにぶん地図を描いたり書き写すのが下手くそでしたので違った道や記号がつけられた失敗作も数多くあり、その地図を手にしたジョン太はもれなく道に迷ってしまったのでした。


「まあ、迷ってしまったのは仕方がない。手分けして出口を探そう」


 隊長となったジョン太は仲間の三人のジョン太を見て言いました。


 …と言っても、彼がグループの隊長になったのはとびきり頭が良かったとか、知識があったとかではなく、ただ単にじゃんけんに勝ったからです。


 それでも隊長というものは威厳を持って人に命令をする役割だとジョン太自身信じて疑わなかったので、隊長である以上は道に迷って困っている今の状況でもとりあえず偉ぶっておこうと考えていました。


「歩いた感じだと遺跡も雨が降らない限りは快適そうだし、パトリシアも同様の理由で逃げ込んでいる可能性もある。ここで僕らが先に彼女を見つければ手柄なこと間違いなしだ」


 それに対し、パトリシア優先である残りの三人のジョン太もうなずきます。


「そうだ、まちがいなしだ」


「迷ったなんて関係ない。先にパトリシアを見つければいい!」


「でも、ここどこだろう…」


 そんな不安なことを口にしながら地面にくりぬかれた遺跡の通路を進んでいく四人でしたが…そこにばったり二人のジョン太と出くわします。


「わわ!き、君たちはどこのジョン太だ」


  あわてて隊長のジョン太がたずねた言葉に、ヤリと地図を持ったジョン太はお互いに顔を見合わせ、怪しいほどに顔から大量の汗を流しながら答えました。


「ぼ、僕たちは現在、この迷路のような遺跡の地図を作っていまして…」


「そ、そうです。僕らは『情報班』で地図を作っていたジョン太なのですが、歩き回っている最中で道に迷ってしまったようで…」


 ごにょごにょと言葉を濁す二人。

 しかし、隊長のジョン太は誤魔化されません。


 ヤリを持つのは魚を捕るジョン太ですし、『情報班』は『採取班』のジョン太の話を聞きとりながら地図の更新をするので、ここにいるはずがありません。


「こら、ウソをつくな。ヤリを持ったジョン太は魚を捕えなければならないし、地図作りも広場に待機して地図を拡張するのが仕事のはずだ。二人とも、こんな場所でウロウロしているジョン太ではないぞ…お前たち怪しいな」


 ジリッと距離をつめる隊長のジョン太。

 ついで二人のジョン太は顔を見合わせ「わっ」と逃げ出しました。


「追え!逃がすんじゃあない。捕まえたら僕のところに連れてくるんだ!」


 隊長のジョン太は部下のジョン太に素早く命令を出します。


 それは以前、ジョン太がおじいさんと一緒に見たサスペンスドラマのセリフでしたが、なんとなくこの場面にあっているような気がしてつい口に出してしまったものでした。


 確か、悪者のボスのセリフだった気もしますが…まあ、ジョン太はそのような細かいところは気にしないタチです。


 それに、自分の元に連れてこいとは言ったものの、こんな寂しい迷路のような遺跡で一人待つのは嫌なので、隊長のジョン太は言った側から三人のジョン太の後を早足で追っかけていきます。


 こうして二人のジョン太がこけつまろびつ逃げて行き、後ろを四人のジョン太が追う…何も知らない人が見たら、かなりしっちゃかめっちゃかな状況ですが、それから数分もすると、ほぼ全員が迷路の中でスタミナ切れになりかけて、遺跡の中でヒイヒイいう声が唱和していきました。


 …そうして、全員が汗だくで倒れそうになった時。

 ふいに彼らの頭上を、小さな生き物が跳んでいきます。


 それは、ふこふこの毛並みにつぶらな瞳。

 小さな四つ足は遺跡の石から石へととんでいき…


「「「「「「パトリシア!」」」」」」


 瞬間、その場にいた六人のジョン太全員が声を上げて叫びました。


 そうです、多少泥で汚れ、枝や葉っぱが毛に絡まっていますがそれはまごうことなきパトリシア。ついでパトリシアは遺跡の石の上を右に左に軽快にジャンプし、六人のジョン太には目もくれず、遺跡の中を跳び回ります。


「待って!」


「パトリシア!待ってよ!」


「僕だよ、ジョン太だよ!」


「お願い、足を止めて!」


 六人もいるのですからどのジョン太でも同じなような気がしますがパトリシアの足はいっこうに止まらず、ジョン太たちは逃亡も追いかけるのもそっちのけで、必死にパトリシアの後を追いかけます。


「「「「「「パトリシアー!」」」」」」


 そうして、彼ら全員がパトリシアを追っている頃。


 広場に集っていたジョン太たちは日の傾きに気づき、ようやく完成しつつある大きなボロボロの平屋建ての家へと、疲れた表情でポツリポツリと入っていくのでした…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る