王宮工房の変人

 王城を出たルークスとフォルティスの前にゴーレム車がやってきた。

 引いているゴーレムは全金属製でガシャガシャ音を立てている。

「フェクトム工房のスティールゴーレム『オリオネム』だ!」

 国一番のゴーレムメーカーの作品にルークスは興奮する。

 腕や足の関節部を注意深く観察し、苦笑した。

「王宮工房のは試作型と聞いていたけど、関節は改良されていないか」

 車内には先客がいた。

 短めの髪をなでつけた細身の女性である。

 ゴーレム構造学の教師ムンディティア・コンパージだ。

「どうして先生が?」

 問いかけるルークスに、彼女は教室での口調で答える。

「それは私が王宮工房の元研究員で、ゴーレム班長の通訳に必要だからだよ」

「通訳? 他の大陸の人なんですか?」

「会えば分かる、とだけ言っておこう」

 訝るルークスに、後から乗り込んできたフォルティスが説明する。

「ゴーレム班長のデリカータ女伯爵は、かなり個性的な人物と聞いています」

「個性的って、変人に対して使われる表現だよね?」

 過去に何度となくそう言われてきたのがルークスだ。

「さあ、そう聞いただけですので」

 とフォルティスが顔を向けた先でコンパージは目を逸らせ、車を出させた。


 スティールゴーレムはガシャガシャ音を立てて車を引き、王都の主門から出た。

 かつて王城の脇にあった王宮工房は、ゴーレム工房建設を機に都外に移転したのだ。

 向かう先は王都の南、マーテル川の畔に建てられた巨大な箱である。

 王宮工房は大戦中に十倍級ゴーレムを想定して建てられた大型建造物であった。

 無駄に大きいと言っても良い。特に上方向に。

 大聖堂はおろか王城の尖塔より高く、落雷による被害を受けたことさえある。


 工房脇の河畔に東屋あずまやがあり、三人の女性がお茶を飲んでいた。

 手前はルークスの幼なじみの少女アルティ・フェクス。

 背中にかかる赤い長髪にはいつもの寝癖もなく、綺麗にすかれていた。

 王立精霊士学園の制服はルークス同様おろし立ての新品である。

 今までは中等部進級時の物を手直しして無理やり着込んでいたので、現時点のサイズで採寸されただけで別人のようにシルエットが変わった。

 特に、胸の充実ぶりが著しい。

 鳶色の瞳でルークスを見つめてくるが、彼の目は巨大な箱に逸れてばかりいた。

 アルティの隣はルークスの親友、水の精霊ウンディーネのリートレである。

 透き通った肌に薄物を纏っただけなので、たおやかな体のラインが出ていた。

 人間より整った顔立ちにアクアブルーの瞳と、人間がかなわぬ恋をする精霊の半数がウンディーネと言われるだけの美貌である。

 肉体を持たぬ精霊に飲食の必要はないので、お茶を飲む仕草だけしていた。

 三人目はテーブルに頬杖をついている女性。

 眼鏡をかけ、ボサボサの黒白入り交じった髪は鳥の巣のよう、ヨレヨレの白衣は染みだらけ、その下のブラウスや細身のパンツにまで黒い染みは及んでいる。

 切れ長の目や高い鼻梁など顔の造作や長身のスタイルなどは水準以上だが、汚れた顔にだらけた姿勢で「ダメ人間」の印象を放っていた。

 そのだらしなさのお陰で、アルティも雲上人である女伯爵の前でも緊張せずにいられるのだが。

 だらけたままのダメ人間に、コンパージは自分の生徒を引き合わせた。

「こちらが王宮工房のゴーレム班長、デリカータ女伯爵エチェントリチ・デ・ラ・インコンプタスだ。エチェン、そちらの精霊を肩に乗せている方がルークス・レークタ卿、こちらの姿勢が良い方がフォルティス・エクス・エクエス、中等部最終学年の級長です」

「ん~」

 気だるそうに女性が目を上げた。

「んあ~、君がルークスか。君のゴーレムは反則だね。液体ではゴーレムの定義から外れる」

「そうですか。では早速工房内を見ましょう」

「んあ?」

 デリカータ女伯爵は目を点にした。

 彼女の言動に窮する人間は数多あまたいれど、聞き流した人間は初めてである。

 伯爵家の嫡子として、当主として重んじられていたエチェントリチに、初めて軽い扱いをした新前騎士はなおも急かせる。

「今日はもう工房が見られるのが楽しみで楽しみで。嫌なことも全速で片付けてきましたよ。文字かせいぜい絵でしか知らない実物が見られるんですから」

 ルークスの心は工房に羽ばたいていた。頭からは伯爵位も訪問目的も消えて、工房にしかないゴーレムや技術のことでいっぱいなのだ。

 怒りをつのらせる女伯爵を見かね、フォルティスが手綱を握る。

「ルークス卿、話を戻してください」

「え? 何だっけ?」

「液体で造られたイノリはゴーレムの定義から外れる、そうデリカータ女伯爵は――ゴーレム班長は主張したのです」

 ルークスはエチェントリチに向きなおる。

「ゴーレムを素材で分類するのは知っていますが、固体しか認めないという決まりは初耳です。ゴーレムを定義するなら『人間の命令に従い精霊によって自律的に稼働する道具』では? イノリはその要件を満たしています。接触部が固体なら、内部が液体だろうと気体だろうと、目的は果たせます」

「んあ、ああ。そうだったな。そういう議論をしようと思っていたのだよ。やっと話が通じたね」

 とゴーレム班長が気を取り直したのは一瞬、すぐまた驚愕させられた。

 ルークスは横を向いてコンパージに話しかけているのだ。

「コンパージ先生の話し方、この人に似ていますが真似したんですか?」

「ルークス、君は今エチェン――デリカータ女伯爵と会話しているのだよ」

「やっぱり真似していますよね? だって学園長と話すときは普通ですし」

「んあー! ムンディ、何なんだ、このガキは!?」

 デリカータ女伯爵は元部下に不満をぶちまけた。

 平民の部下に愛称呼びを許すほど、エチェントリチは身分に大らかな性格ではある。

 だがそれは相手が敬意を持っていることが前提なのだ。

 ルークスのはただの非礼ではない。

 相手の存在を無視するなど、喧嘩を売っているも同然の所行である。

 コンパージも必死に説明せざるを得ない。

「こういう人間なんです。興味を持った対象に一直線で、それ以外のことが頭から消えてしまうんです。特にゴーレム関連だと暴れ馬も同然です」

「今は君のしゃべり方だったが?」

「あなたの口調から連想したからです。話をゴーレムに戻せば帰ってきます」

「んあ、そうか? ゴーレムとはノームが操作する人形と言えば良かろう」

「ルークス、工房を見学したいなら、まず責任者からの問いかけに答えなさい」

「ああ、はい」

 少し考えたルークスは肩掛け鞄をあさりだした。

 木で作った粗末な人形を取りだすと川原へ行き泥を被せ、小さな呪符を胴体に貼る。

「よし、ノンノン、出番だ」

「頑張るです」

 ビシッと敬礼したオムの幼女は、ルークスの腕を滑り降りて泥人形に同化した。

 泥人形が立ち上がって歩きだす。

「さて班長さん、オムが動かしているこれは何ですか?」

 エチェントリチは眼鏡を直して、歩み寄る小さな泥人形を凝視した。

「ゴ……ゴーレムだ」

「操作する精霊の制限は消えましたね」

「ま、待て! 土精であることに違いはない」

「なら次はリートレ、君の出番だ」

「任せて、ルークスちゃん」

 ウンディーネがしなやかな動きで立ち上がった。

 彼女は川縁で泥水をかき混ぜ、それと同化して自身そっくりの像を作り上げた。泥を外側に押しつけたので、表面は土である。

 その額にルークスがゴーレムの呪符を貼り付け、ノンノンを泥に同化させた。

 瞼を開いた泥水人形は、リートレとは違うメリハリある動きで動き、先ほどまで彼女が座っていた椅子に腰を下ろした。

 人間と変わらないどころか人間より滑らかな動きに、エチェントリチは大口を開けたまま硬直していた。

 ルークスは泥水人形の肩に手を置く。

「ゴーレムの呪符を貼って土精が動かしたのだから、これもゴーレムですよね?」

「んあ……」

 ゴーレム班長は震える手を伸ばし、泥の面に触れた。

 その手を泥水人形が握り返す。

「こ、これはウンディーネが……」

 声を震わせるエチェントリチにルークスが説明した。

「ウンディーネは骨と筋肉を担当しています。動きの制御はオムです。つまり土精が操作しているんです」

「ん……んああああああ!」

 奇声をあげてデリカータ女伯爵は額をテーブルに打ち付けた。

 顔を伏せたまま怒鳴る。

「貴様ー! なんという物を作ってしまったのだ!?」

 ゴーレムメーカーの夢は、人間の様に滑らかに動くゴーレムである。

 それが、他人の手によって実現されてしまった。

 彼女が取り組んできた金属製ゴーレムでは不可能なほど滑らかな動き、それは液体ならではである。

「んあうああうあうあうあー!! 反則に先を越されるだとー!?」

 頭を抱えて叫ぶ女伯爵を前にルークスは涼しい顔をしている。

 フォルティスは女伯爵の醜態は目に入れないようにし、主の精神が安定しているのことに安堵した。

 その肩をアルティが突つく。小声で尋ねた。

「ルークス、どうかしたの?」

「さすが幼なじみですね。彼の不調に気付きましたか。やはり両親の事を調べるのは精神に負担がかかったようで、殺害現場で嘔吐しました」

「あー、ルークスは胃腸にくるから。でも工房を見れば元気になるんじゃないかな?」

 二人の心配をよそに、ルークスはゴーレム班長に説明している。

「僕が作ったんじゃなくて、リートレが『これならノンノンも動かせるのでは』とやってくれたんです」

「んあ?」

 顔を上げてエチェントリチは、泥水人形の顔をまじまじと見つめた。

「ウンディーネとオムとで、これができるのだな?」

「できません」

 ルークスは即答した。

「今ウンディーネとオムとでこれを作ったではないか!?」

「それはリートレとノンノンだからです。その辺のウンディーネとオムでは不可能です」

「意味が分からん」

「だって、オムは人型を制御なんてできませんから」

「オムが制御したと、言ったのは貴様ではないか!?」

「それはノンノンが頑張ったからです。下位精霊の手に余ることを、長いこと練習してやっとできるようになったんです。リートレにしても、ノンノンだから動きの制御を渡しているんです。その辺のウンディーネとオムと連れてきて『さあやれ』と言ったところで、やりやしません」

「んあー、意味がわからん!」

「エチェン、だから言ったでしょう?」

 とコンパージが口を挟んだ。

「彼の場合、精霊が献身するから奇蹟を起こせたんです。通常の契約精霊はそこまでしてはくれません」

「いいや、分からないぞ!」

「ならやってみれば良いじゃないですか。できないと確認することも大切ですよね」

「このガキ生意気だ!」

 いきり立つエチェントリチをコンパージがなだめる。

「彼は精霊との関係が特別なんです。一部の司教が噛みつくほど精霊寄りですから、余人には真似できません」

「このガキにできて工房の精霊士にできないなんてあるか!?」

 ルークスは泥水人形に手を重ねた。

「彼女らは友達だからやってくれたんです。使のために、契約しただけの精霊がやってくれるとは思えませんが」

「そうなのか?」

 ゴーレム班長は元部下に顔を向けた。

「報告書には漏れなく記載しました。知らないとしたらエチェン、あなたが読んでいないだけです」

「そ、それはムンディ、お前の報告書に文字が多すぎるからだ。三行でまとめろ!」

「彼は精霊から愛されるだけの正直さと精霊への思いやりがあります。

 だから精霊が献身的に尽くし、限界以上の力を発揮してくれるのです。

 再現するには、精霊との関係づくりからはじめる必要があります」

「んあー、ちきしょう! 本当に三行にまとめやがった!」

 テーブルを叩くゴーレム班長の正面で、ルークスが空気を読まず言った。

「あー、報告書が長い程度で読まない人が、王宮工房のゴーレム班長だなんて。この分だと工房の中身も期待外れかも」

「私に文句があるのか?」

 殺意を込めてデリカータ女伯爵が睨みつけるも、新前騎士は平然と言い放つ。

「精霊以前に、ゴーレムへの愛が足りません。それじゃこの国のゴーレム改良が遅れるのも無理ないですね」

 エチェントリチの中で何かが切れた。

 子供の戯れ言と切り捨てるには、無理である。

 指摘されたとおり、パトリア軍の戦闘ゴーレムは大戦中から改良されていない。

 鎧は大陸最先端の水準にあるが、改良したのはアルタス・フェクスらゴーレムスミスたちだ。

 つまり王宮工房は実績を上げていない。

 対してルークスは新型ゴーレムという実績を上げていた。

 他人を見下してばかりいた女伯爵が、生まれて初めて上から目線を浴びせられたのだ。

 父親が早く死んだこともあり、エチェントリチは誰かに悔しいと思わせられた経験がない。

 初体験の悔しさは、これまでの人生で一番つらかった。

 何しろ自分の半分しか生きていない子供が、自分より遥か先を歩いている事実を突きつけられたのだから。

 彼女の、全てを投げ打って取り組んできたプライドが木っ端微塵に砕かれた。

「んああああっ!! このドちくしょうがぁっ!!」

 険悪な空気を察してアルティがフォローする。

「お腹が空くといらだちます。もうお昼ですし、続きは食後にしませんか?」

「そうですね。そうしましょう、エチェン」

 コンパージもデリカータ女伯爵に取りなす。

 ルークスをにらみつつも、エチェントリチもうなずきかけた。

 しかし、空気を読まない人間がいた。

「その前に工房を見せてくださいよ。ここまで来てお預けなんて生殺しですよ」

 ルークスが焦れて駄々をこねはじめた。

「期待外れの中身など見ても仕方ないのではないか?」

 とゴーレム班長が意趣返しをする。

 しかしルークスの耳には、そんな雑音は入らない。

「じゃあもう、僕は一人で行ってきます」

 ルークスは泥水人形を解体して精霊を解放し、彼女らを連れて歩きだす。

「待て! 許可無く立ち入りは禁止だ!」

 ゴーレム班長が言うが、ルークスは振り返りもしない。

「大丈夫です。陛下の許可を得ていますから」

「ムンディ! 奴を止めろ!」

「無理です。リスティアの大軍でさえ彼を止めることはできませんでした」

「んあー! だからガキは嫌いなんだ!」

 デリカータ女伯爵はルークスを追ったが、日頃の運動不足が災いして追いついたのは工房の建物に到着してからだ。

 しかもルークスは肩を叩かれた程度では気付かない。

「待て。待て!」

「ルールー、呼んでるですよ?」

 と肩でノンノンが注意を引いてやっとルークスは振り返った。

 息を切らせているゴーレム班長に言う。

「立ち話もなんですから、中で」

 変人と呼ばれること数知れぬエチェントリチだったが、今初めて知った。

 世の中には自分以上の変人がいるという事実を。


 話をする為に入ったはずだが、工房に入るやルークスの頭から綺麗に消え去った。

「うおおおおっ! 三倍級のスティールゴーレムだ! 関節は滑り軸受け? これは動かないぞー!!」

 入り口の手前にあった金属製巨大ゴーレムにルークスは駆け寄った。首が痛くなるほど上を向き、食い入る様に見つめる。

 隣に等身大スティールゴーレムがあった。

「帝国の試作型外骨格ゴーレムだ! これは実物? あー、これも関節が滑り軸受けか。アルタスおじさんから聞いてないのかな? 帝国がまだこの段階なはずないよ。図面見て再現しようとして、等身大で断念したのかな?」

 エチェントリチが怒りを通り越して呆れるほど、ルークスは大はしゃぎしている。

「こ、これは、かつての名匠ニットの真鍮製ゴーレム! この表面処理は芸術だ! でも、関節がコロ軸受けか。一品物には玉軸受け使って欲しかったな」

「ルールー、うれしそうです」

 小さな土精を肩に乗せたまま駆け回るルークス。

 幼児のように瞳を輝かせ、見る物全てに喜び、歓声をあげ、褒め称え、あるいは批判する。

(こいつ……本当に初めて入ったのか?)

 初めてなのはリアクションで分かるが、発言の一つ一つが全てを知り尽くした者のようである。しかも工房で問題と挙げた部分をずばりと突くのだ。

 そんなルークスは二倍級のクレイゴーレムの前で止まった。

「素材を部位ごとに変えている!? あれ? 僕が春休みにやったレポートが――あれ? ああ、石を拳に埋めているか。こんな無駄書いていないから、ネタ被りか」

 それを聞いてエチェントリチは驚いていた。

(彼だったのか)

 工房が極秘に研究しているテーマを、自由研究と称して王立精霊士学園中等部の生徒がレポートにしたことが最近あった。

 子供の思いつくことだった、と研究の中止を決めたのは自分だが、まさかその子供が新型ゴーレムの開発者だったとは。

(間違っていなかったのか?)

 彼女の中でルークスの評価が変わりつつあった。


 ルークスにとって王宮工房は夢の空間だった。

 大聖堂より高い天井、左右両側は執務室が壁に貼りつく様に天井まで縦に並び、中央の広大な吹き抜けは林立する鋼鉄の柱とアーチで支えられている。

 柱と柱に板を渡した仮壁で工房内は迷路のように複雑であった。

 そこに所狭しと様々なゴーレムが立ち、その部品や武具が無秩序に置かれてある。

 文字や絵でしか見たことがない現物に、ルークスのテンションは最高潮だった。

 自分が考えた「部位ごとに素材を変えるゴーレム」には驚いたが、ネタ被りは過去に何度もあった。

 自分が考えたゴーレムの改良が、先人によって試されていたと文献に記されているのだ。

 人間が考えることは、そうそう独創的にはならない。

 発想とは、蓄えられた知識の発展なのだから、知識が同じなら似た発想になりがちだ。

 だから自分が考えたアイデアを先人も考えていたことは不思議でも悔しくもなかった。

 今回はまだ文献になっていない、それが嬉しい。

 少なくともこの国では、自分が最先端にいるのだと分かって。


 人間大の異形のクレイゴーレムを見てルークスは笑いだした。

「あははー、四足型だ! 不格好ー! これを動かすノームは気の毒~。帝国は無茶が好きだな」

 さらに奥に進むと、正面ゲート前の大空間である。

 七倍級のゴーレムが鎧を身につけていた。

「うわ、熱処理失敗しているじゃないか。ダメだよ温度ムラは」

 鎧の色変化にガッカリした直後、お宝を発見した。

「ウルフファングの試作兜だ! こんな所にあったのか!?」

 後からやってきたアルティとコンパージにフォルティスは、工房の奥から響いてくるルークスの奇声に肩をすくめた。

「ムンディ、なんだいあのガキは?」

 ゴーレム班長が落ち着いた声で元部下に問いかける。

「見てのとおり、逸材です」

「んあ? 逸材だあ?」

「エチェンと方向性が違うだけです。ゴーレムメーカーから入った『作る人』であるあなたと違い、彼はゴーレムマスターになることだけを考えてきた『使う人』です」

「使う人か」

 エチェントリチは工房内を見て回る少年を改めて見た。

 自分を除いて、これほどゴーレムに喜ぶ人間は初めてであった。

 彼女の中でルークスは「生意気なガキ」から「在野の研究者」になっていた。

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