第252話:追われ追われて同じく出会う


「水を、一気に高温で熱すると、どうなると思いますか?」

「え、ちょ……や、やば――」


 そんな言葉と、先程まで冬の目の前で繰り広げられた、二度目のB級殺人許可証同士の戦いは、前回と同様に『戦乙女ヴァルキリー』の放ち続けた辺りに満ち満ちた水気を、小さな種火だけで一瞬で蒸発させたことによって発生した水蒸気爆発により、周辺の<鍛冶屋組合>の雑踏ビルを、冬を探していた追っ手共々吹き飛ばしては辺りを焼け野原と化して終わる。


 爆発音というよりは、姫が指を鳴らして『焔』の型を使った瞬間には、光って耳に音が届く前に全てが吹き飛んでしまったかのようで。

 以前はその光に目を閉じ伏せていたが、今回は姫が、いまだ理解のできない力で守ってくれていることを知っている冬は、その光景を焼き付けるほどに見てしまった。


 音もなく、ゆっくりと、吹き飛んでいく左右のビル。それはまるで溶けていくかのように小さな粒となって消えていく。

 その光の中へと消えていく粒子の中、光そのものを発し、何よりも眩い光を受けて黒い影となった姫。


 それは世紀末の様相を呈していながらも、光に目が慣れれば、その場に佇む後光のようにうっすらと光を受けるメイドを見れば、その光景が美しいと思わざるを得なかった。


「……」


 以前、冬は、彼女と共に戦う――いや、彼女達が戦う本来の敵である機械兵器ギアと、姫と実姉と一緒に戦ったことがある。

 自身が到着した時にはすでに実姉である『スノー』は致命傷を受けて倒れこんでおり、姫自身も圧倒的な相手に対して、負傷したスノーを守りながら戦い、すぐに戦線離脱してしまって冬だけが戦うことになってしまったが、その後はしっかりと戻って足止めをしてくれていた。




「こうなりますので、これからは気を付けなさい」



 そんな、辺りの大損害を与えた状態で、当たり前かのように、諭すかのように『戦乙女』に伝える姫が。

 このように圧倒的なまでの力を持つ彼女が勝てない敵がいたということが、やはり信じられなくて。


 ただただ、無言に。


 上には上がいると納得してしまえばいいのかもしれない。

 だけども、そんな言葉だけで納得できるようなことでないと、今目の前の光景を見ながら思う。

 それと共に、このような力を持った姫に敬愛される御主人様――水原凪という自分の同級生が、彼女よりも強いということも信じられないのだが、また同時に、姫に思う存分可愛がられていた姿を見ると、彼も大変だろうと、何故か同情の思いが先行してしまう。



「――、――」

「……えっ!?」


 辺りの光景に、戦意喪失しては、近づかれて耳元でぼそぼそと呟かれて驚きの声をあげる『戦乙女』に背中を向け、


「行きますよ。冬」

「は、はい……。いえ、あの……これは……」

「なんですか?」

「なぜ……また、この運び方なんでしょうか」

「お荷物を運ぶのに適した持ち方だと思いますが?」

「……お荷物ですいません……」


 姫は、冬をお姫様抱っこしてその場から離れていく。


 この後、『戦乙女』は、新人許可証所持者達を連れて地上へとあがるエレベータ前で合流することになる。

 その合流するために姫は助言を与えたのだろうと思うと、姫は以前も今も、どこまで先を見据えていたのかと思う。



 だけども。

 彼女は、自分が「ひめ姉」と呼んだ彼女ではない、と。


 冬は、この時期にはなかったはずの、そのお姫様抱っこから感じる彼女の弟を慈しむかのような愛情表現に、困惑を覚えながら姫とともに先へと進む。










 ……

 …………

 ……………………











 普段は熱気覚めやらぬ<鍛冶屋組合>の町を、別の意味で熱気が冷めなくなった区域。

 以前と同じように、姫が起こした爆発とその場からすぐに離れ、あまりにも大きな爆発に野次馬や消化作業に追われる人の中へと消えたことで追っ手を撒くことには成功。


 お姫様抱っこされている手前、時折たまたま目が合った住民達に二度見されたりすることもあったが、大体は怪我人だと思われたのか興味を失われつつ、何事もなく冬達は人気のない場所へと逃げ切ることができた。





 そして、ここで。

 冬は、彼と出会う。




「待て。冬」




 前回と同じように。

 その場で声をかけてきたのは。



「樹……君……」





   C級殺人許可証所持者『大樹』

    千古樹せんこ いつき



 そして。

 このやり直しまでを導いてくれた張本人。



「大樹ですか……あなたも、冬を追ってきた類ですか?」



 違う。

 違うんです。ひめ姉。


 思わず疑いの目を向けて敵対しようとする姫に、そう言いたくなった。



「ああ……冬が裏世界で指名手配されたことか。そういうのはどうでもいい。お前に話したいことがあったから引き止めただけだ」


 その言葉に、姫の動きも止まる。


「ついてこい。少しくらい匿ってやることもできる。そこでこいつに言いたいことを言わせてもらう」


 冬も、彼に話したいことが、聞きたいことがあった。

 でも、この時の彼はただ単に、約束をしていたはずの僕達が一向に自分のところに来なかったことに腹を立てていただけだった。



 でも、あの時も。

 すでにやり直しをしていた。

 繰り返していた。

 ずっと、どうなるかを知っていたのに、芝居をしていた。



 同じことを繰り返しつつも、少しずつ別のことをしたりして変えていき、そして今の冬へと至ったのなら。



 例え、やり直すことに成功した僕のことを知っていなかったとしても。

 今目の前にいる彼が、僕を助けるために罠に嵌めてどうなるのかを身をもって教えた後に、救出に来てくれた彼ではないのかもしれないけども。



 それでも。という思いが、冬の中でどんどんと浮かび上がってくる。




「……ついていきますか?」

「……いきます」

「そうですか。……彼が味方であるといいですね」



 味方です。僕を助けるために動いてくれているひめ姉達とも違って、今の僕の状況が分かっているはずという意味では、唯一の味方なんです。



 そう言いたくなる心を必死に抑えるために、別のことを考える。

 今の自分の状況は、考えることはいくらでもある。

 さし当たって、何よりもすぐに考えるべきことは――


 ――ひめ姉は、僕をお姫様抱っこから解放してくれないのでしょうか。


 ということではないだろうか。


 別に体を痛めているわけでもなければ走れないわけでもない。

 なのに、さっきからずっと下ろしてくれない姫に、冬は世界樹へと向かった時も同様に抱っこされたまま下ろしてくれなかったことを思い出して、懐かしくもあり恥ずかしくもありと、だけど妙に安心できてしまう自分の感情に、戸惑いしか覚えられず。


 まるで、この場所が正しいのではないかと洗脳されているようにも思えてきて、このままではまずいと思った。


「あの、ひ――水原さん……」

「このままでいなさい。むしろ、ここがベストでしょう」


 ……思っただけで。言おうとしたところで。

 最後まで、言わせてくれない。




 そこは、やり直し前と変わってないんですね……。




 変わって欲しい所は変わらずに、前と同じ少し強引な姫なところに、なぜかほっとして、お姫様抱っこを享受する、冬であった。





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お知らせ。

9月終わり頃より『ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく ~』というタイトルで、小説家になろう様でも同じ内容のものを置いていっております。

その為、カクヨムオンリーを外しております。その代わり、ふと思い立った「主人公Yoeee」と「仲間Tueee」をタグに追加しております。この作品、そんな感じじゃないですか?(笑


もしお時間があるようでしたらあちらのほうでもフォロー並びにお星様を降らしていただけるとカクヨム様でも小説家になろう様側でも励みになります。

……え、カクヨム様でお星様降らして頂いても……嬉しいですよ? 勿論^^

むしろカクヨム様側のほうで降らしていただいたほうが嬉しいかもですね。私こっちがメインなので(笑



ではでは。今後とも『ライセンス!』をよろしくお願いいたしまする~m(_ _)m

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