第204話:繰り返す先へ 21
型式という力の式は、本人が『想像』と『創造』によって作り出したものだ。
だからこそ、他人が使える力ではない。
だからこそ、四種しかない型の式から作られるものなのだから、似たようなものはあれど、全く同じ人がいたとしても、考えが少しでもずれれば別のものになるのだから、同じものというものもないのだ。
だけれども――
解析? 出来るわけがない。
模倣? やれるはずがない。
――誰が、そう決めつけた?
俺が『
シグマから『刻渡り』の仕組みを聞いた時、ピュアからも教えてもらわないはずがない。
真髄を知れば、解析できないはずがない。
『
それは、俺が手に入れた型式。
他人の型式を理解し、解析し、補完し、模倣して創り出して、三つの型をストックする。
チヨ専用型式?
服しか作れない型式?
型式だ。
そんなわけがないだろう?
あんなのは、予行練習であり俺の趣味だ。
すべてが、
型式の力さえも。
『創造』した俺にさえ自分はここまでしか出来ないと、『嘘』をつく型式だ。
だが、その嘘は所詮嘘だと思えばそれは本当になる。
その嘘を更に嘘だと信じて型式の可能性を信じてみればどうなるだろうか。
自由な『型』である。
力を持たせるための『式』である。
その型式の可能性に気づいたなら、使うしかない。
短時間で強くなれる可能性を秘めた力。
『想像』と『創造』。
イメージが織りなす力。それが、『型式』だ。
本来裏世界に降るはずのない雪が舞う幻想的なその光景の中、俺はその雪の結晶を操り『焔の主』へと一つ一つを突貫させていく。
「はっ!
ぱりんぱりんと。
まさにその音が正しく、俺が作った雪の結晶は儚い音を立てて割れていく。
それは彼――『焔の主』が腕を振るう度に、歩く度に、その暗器『型式砲天』で撃ち貫く度に。
正確無比なその一撃一撃の精密射撃。
彼の暗器から飛び出すのは、弾倉式杭打ちらしく、杭だ。
幾重にも張り巡らされては突貫していくその雪の結晶は、張り付けば体温を急激に奪い、触れれば切り裂く刃となる。
杭によって撃ち抜かれ、ただ彼に触れては致命打を与えることもなく蒸発して消えていくその結晶を見ていると、流石最強といわざるを得ない。
静流という者が何者なのかは知らないが、何度も戦ってみて思うのは、こんなにも強くなければ、俺だって今まで苦労していないのだろうという事だ。
相手が『焔』の使い手――頂点とも言えるべき存在なのだから、対抗するには『流』の型でしか対抗できないかと考えた。
丁度同じく最強といわれるS級殺人許可証所持者と会ったときに見た『流』の型の極致の一つとも言える『
体に触れても蒸発し、近づいても蒸発するのであれば、彼自身が熱を帯びているということなのだろう。
その光景に、彼がまさに『焔』を体現していると直感的に感じる。
もし本来の『ピュア』の『流』の型で使ったのであれば、こうも簡単に蒸発したりしなかったのだろうか。
シューティングゲームの遊び感覚で結晶を打ち落としては、ぶつかってもライフも減らない無制限バリア付きでゆっくりと近づいてくる『焔の主』を見て、自身の型式がまだまだ熟練の域に達していないのだと思う。
「おらおらぁ! がんがんってどんどんお前に突っ込んじゃうぜぇ!」
俺に突っ込んでどうするとか。言い方が下世話に思えて心の中でツッコミを入れながら、自分の体の動きに伴って追従して動く雪の結晶をくるりと回って遠心力をつけながら合図を送って氷の結晶を叩きつける。
「お? おぉ? お~」
固めて叩きつけても、雪は『焔の主』への致命打とはならず、辺りにじゅうじゅうと湯気を立てて消えていく。
もはや、避ける気さえないようだ。
「あ~……やべぇ。ちょっと気持ちよくなってきた」
それが興奮作用でないことを祈りつつ、俺は更に氷の結晶をぶつけ続ける。
いくら俺が『流』の型や『氷の世界』をピュアが実際に使うまでに昇華できていないとしても、さすがにこれはおかしい。
雪の結晶とはいえ、一つ一つは鋭利な刃物のようなものだ。それは型式で強化された普通の結晶とは違うものだ。
「お前さ~……もうちょ~っと、この、肩と腰の、この辺りにさぁ……やっぱ歳とると、冷たさと温かさが痛みに効くなぁ……」
湿布かなにかか俺はっ。
こっちは真剣にぶつけているのに、自分の当てて欲しい所に誘導しようとする『焔の主』に、イラつきと共に、ピュアには悪いが、ピュアの技を単なる医薬品の布に陥れてしまったことに申し訳なさと圧倒的な力の差を感じてしまう。
「……『
「お? まだやってくれんの~?」
だけど、やめるわけにはいかない。
俺の背後にある我が家には、チヨがいる。
こいつを、この先へ行かせたら。
それこそ、今までと同じだ。
関わらなくても捕らえられていて。
戦っても俺が負けるから捕まえられ。
逃げても追いかけてはチヨを捕らえられ。
こいつをここで止めなければ、チヨと俺の未来に、先がない。
だから――
「はぁ……はぁ……」
何度も何度も叩きつける。
もう小さな結晶をぶつけるだけでは何の意味もない。極大の雪の槍のような塊をぶつけたりと、様々な工夫を凝らして『焔の主』に対抗してみた。
何もかもが、無駄に終わる。
最終的には、『焔の主』自らが自分の当てて欲しい所にわざとぶつけにいっていたほどに。ただ単にマッサージくらいの効果しかなかったことに愕然とする。
「特にさ。槍みたいなのが一番気持ちよかった。ケツの穴とかに突っ込まれたらもっとよがれたかもしんねぇな」
そんなことやろうとは思わないが、ただ一度として効果的なダメージを与えられなかったのだから、そんなことでも苦痛を与えられるのであれば今すぐにでもやってやろうかとも思った。
「長いことま~……型式使い続けられたもんだな、おい」
だがもう、それは無理だ。
俺の限界が先に訪れてしまった。
「お前、しらねぇかもしれねぇけど。型式ってのは長時間使ったら脳みそがキャパオーバーするんだぜ?」
そんなことは知っている。使いすぎるとぐわんぐわんと頭が常に揺れているような錯覚を覚えて頭痛もするってことくらいは何度も経験済みだ。
知っていても、使わざるを得なかっただけの話だ。
「ま~、常時発動型はそれにはあてはまらねぇけど、常時発動型ってのはある意味極めた類だからな。お前みたいな型式覚えたてには難しい話だしな~」
ポケットの中に手を突っ込み俺の目の前に到達した『焔の主』は急に親切心を出して型式について語り始めた。
『主』達からしてみれば、俺くらいの使い手は覚えたてと変わらないのだろう。ご高説頂くが、憐れみのようにも聞こえることが癪に障る。
「殺さないでおいてやるよ。頑張ったご褒美に、チヨちゃんが俺のものになってくところ、みせてやっから」
頭にぽんっと、あやすように手を乗せられて、負けを認めさせられる。
「……残念だが、チヨはお休み中だ」
「あぁん?」
これだけの戦いの音が鳴っていても家から出てこないことに不思議に思わなかったのだろうかと、ふっと鼻で笑うと、『焔の主』のこめかみに青筋がたった。
「それに、まだ――」
――俺は、負けたとは、思っていないし、負ける気もない。
俺は自分の頭に乗った『焔の主』の手を掴む。
じゅうっと肉の焼ける音がして、この男がどれだけの熱を持っているのかと驚いた。
「……ほんとはさ。俺だって人を無差別に殺してぇわけじゃねぇんだけど?」
「安心しろ。俺はお前に殺されない」
「へぇ……言ったな?」
俺の頭に乗せていた手に、力が篭ったことが分かった。
「じゃあ、お前の頭が真っ赤な液体撒き散らしても、生きていられるか、試してみるか?」
『焔の主』。つまりは『焔』の型を極めたということだ。型式を使っての身体強化、特に腕力においても極めているということに相違ない。
そんな相手が俺の頭を握り潰すことなんて簡単なんだろう。
だけども。
「削れ――」
俺のほうが――
「そして、巡れ――」
お前が俺の頭を握りつぶすよりも、俺の型式のほうが、早い。
「――『
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