第181話:『永遠名冬』
ここで、考えてみてほしい。
永遠名冬――ラムダであり、この大きな争いの中で黒帳簿入りとなり、義兄から許可証を受け継ぎシグマとなった彼のことを考えてみてほしい。
彼の周りにはとても優秀な仲間達がいる。
S級殺人許可証所持者である姉。永遠名雪。
彼にA級殺人許可証を託した元殺し屋『
そこに、春が作り上げた許可証協会、強いては裏世界の結晶である自称姉である
永遠名冬の仲間達といえば、同期の遥瑠璃と立花松だ。
ここにもう一人、千古樹も加わるのだが、今はそれは除外しよう。
A級殺人許可証所持者『ガンマ』こと遥瑠璃は、その強さを認められて、資格の取得当初から上位殺人許可証所持者として活躍している。
同列の所持者達とは力の違いが圧倒的であり、まさに、次代の許可証所持者トップとなって然るべき存在であろう。
その力があるからこそ、隠し持っていた禁じ手により高天原の『四院』の一柱を、自身を犠牲にして討伐せしめたのだ。
対して、C級殺人許可証所持者『
だが、その類い稀なる戦闘センスによって、短時間で一気に能力を開花。下位所持者と偽って同行していた『月読の失敗作』達を指揮したことで、戦いの中で成長し続けていった。
裏世界に降り立ってすぐに強敵と戦い疲弊し傷ついた為に、過保護な姉達からずっとお姫様抱っこをされて休み続けていた冬と違って、まだまだ弱いとはいえ、今も強敵との戦いの中で成長し続けているであろう。
また、その傍らには、多くの仲間と、上位所持者として裏世界を長く生き残ってきた、恋人のB級殺人許可証所持者『
そう言った、家族や友人達に救われながら進んできた、A級殺人許可証所持者『シグマ』こと、永遠名冬に至っては――
「所詮は名ばかりの、昔の力さえ持ち得ない状態で我の前に立つか」
『縛の主』が言うように、所詮は、型式を覚えたばかりの、B級殺人許可証に上がったばかりの、鎖姫の言葉を借りれば、『ひよっこ』ルーキーなのだ。
シグマというA級殺人許可証所持者としての肩書きは譲り受けたものの、その彼のごとき力があるわけでもなく、ましてや、実の姉である二つのS級殺人許可証を所持するというありえない存在のように、生き残れる力が十分に備わっているわけでもないのだ。
彼自身の出生もまた奇異なものである。
彼は、世界樹で生み出された強化人間、【成功体】と呼ばれる四体――の下位、【準成功体】と位置づけされた存在だ。
また、その育ての親とも言うべき父親も異質。裏世界を創り出したといわれる創生の『別天神』、
その出生だけであれば、彼等にも負けてはいないのだろう。
だが、所詮はそこだけである。
それこそ。
このような、最終決戦の場に相応しいこの場所に、立つ資格さえない。
現に。今立ち向かおうとしたにも関わらず、『主』の前に立てはしても、抵抗することさえ出来ないほどに指一つで抑えつけられているのだから。
彼は。
周りに好かれやすい。というだけである。
本人も裏世界に降り立ってからの悩みとして、『自分は弱い』と感じていた。
だからこそ、力を求めた。
周りに協力を仰いだ。
結果、『型式』という力を得た。
その『型式』は【想像】と【創造】の力だ。
それがこのような世界でなければ、彼もそれ以上の力を発揮できたかもしれない。
その特異な程の空間把握能力によって他の活躍もできたのかもしれない。
だが、そこに彼の性格が加わると話は変わる。
彼の性格は、こと、裏世界に適しているとは言えない。
なぜなら、優しすぎるのだ。
人を殺傷させるに足る【想像】が、足りないのである。
それが、彼と、彼等――裏世界を求めた仲間達との、違い。強さの違いと、意志のベクトルの違いだ。
彼はこのステージに上がれるほどの強さを持ち得ていない。
つまりは。
『弱い』のだ。
「くっ! 『
そんな冬が、実姉と同格のS級殺人許可証所持者『ファイ』であり、『縛』の型を極めたものに与えられる称号『縛の主』である、彼――
「なんだその技の名は。ふざけているのか」
――世界樹の管理者
人体実験施設『月読』の設立者であり責任者
そして。
彼等『苗床の子供達』を作り出した創始者である――
『縛の主』
夢筒縛
に。
「『
裏世界を生き続け圧倒的な力の象徴『主』の名を持つ男のその一言で、彼がこの数日前に思いついたかのような技や、奇襲を元にした小賢しい技が通じるはずもなく。
周りに助けられて深奥まで来た弱い彼が。
想いだけで無謀な戦いを挑んで、勝てるわけがなく。
「――っ……!?」
そこに何もなかったかのように食い散らかされて消えるのは当たり前であった。
それは、必然。
「――ス……ズ……――っ」
彼の首と胴が。
あっさりと二つに分けられるのは、必然であり。
ころんっと。
鞠のように、彼の頭部が地面に落ちて転がり止まるまでは、そう長い時間ではなかった。
スズの入った試験管に棒を突き立て、スズの人体を構成する原子に作用して泡沫と戻し、『縛の主』が高らかに笑いだしたその光景。
それが、永遠名冬の両目が、――――最後に見た光景。
首と胴が離れ、悔しさで瞳からとめどなく涙を溢れさせながら無念のうちに意識が途絶えるその瞬間。
体の周り全てを包み込むような液体がばしゃりと被さった音を聞いた後。
冬の意識は、真っ暗な闇の中へと消えていった。
第五章:大きな大きな樹の下で
Route End:『永遠名冬』
完
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