そんな私のエセ知識

ともはっと

酒呑童子についてちょろっと語ってみる


 大江山。

 そこは史蹟が至る所にあり、古くは天照大御神あまてらすおおみかみの時代(神話の時代)の物まである太古の昔から神聖な山であったであろう、今では雲海で有名な山。

 その山を、平安時代に神通力をもって悪鬼を従え支配していた鬼。それが本タイトルにもある酒呑童子しゅてんどうじです。

 お酒にもその名前をつけられたものもあるので、この名前を知っている人も多いでしょう。



 あ、ちなみに。私はお酒を飲めない乙女なのでどんなお酒かは知りません。

 あ、もっと言うと、乙女でもないですし、お酒飲めないわけではないので――

 いえ、私のことなんてどうでもいいんです。



 ただ、そんなお酒を飲めない私のことより、この鬼――酒呑童子という名前は知っていても、その鬼の伝説を知っている方ってそれほどいないのでは……。

 そう思ったので、ちょっと語ってみようかと思いました。



 この話から派生して、日本の歴史と逸話、伝説に興味を持ってくれる人がいるのであれば、これ幸いです。



 ……とは言ったものの、この話に限らず。歴史や逸話、伝承は諸説というものがあります。

 私がこれから書くことはあくまでそうであったのではないか、という所も多々ありますので、鵜呑みにしないようお気をつけください。



 だって、まず一発目から。

 酒呑童子について話すには、丹波国大江山とする「大江山系」と近江国伊吹山とする「伊吹山系」の二つの話があったりするわけで。

 そんなの言ってたらキリないですし、冒頭の大江山だって、神聖とか言ってみたものの、色んな鬼と呼ばれる何かしらに占拠されてたみたいですし。


 古事記にて、土蜘蛛に占拠されていて、当時の天皇の弟に退治された話とか。

 聖徳太子の弟が何人かの鬼を退治した話とか。

 そして今回の酒呑童子のお話。


 そもそも土蜘蛛って言葉自体、今では妖怪等とされていますが、本当は当時の朝廷に従わなかった原住人で、醜聞が悪いので鬼や蜘蛛といった言葉を作り出して差別化したっていう話もありますし。



 どれを、何を信じるかは勿論人の勝手です。

 なので、今から書く話も正しい話ではないことを念頭に。

 さらっと、そんな考えや話があるんだなぁ程度にお願いします。




 ……話がそれたので、気を取り直して。




 これから書くことは、大江山系と伊吹山系両方をあわせた私独自の目線です。


 先にも記載した通り、


 私がこれから書くことはあくまでそうであったのではないか、という所も多々ありますので、鵜呑みにしないようお気をつけください。



 大事なことなので二回言いました。




 さてさて。

 やっと本題の酒呑童子についてちょろっとエセ知識をば。



 ……………………………



 あるところに、伊吹弥三郎いぶきやさぶろうという、八俣大蛇やまたのおろちを祭る一族の出身で、由緒正しき家柄の家系の人物がいました。


 この弥三郎。実は酒呑童子以上に色々逸話のある人物です。

 中でも、先の八俣大蛇を祭っていたというところから、あの日本武尊ヤマトタケルと敵対していたとも言われる人物でもあったという話もあります。


 そんな弥三郎は、変化へんげのもの――当時でいう化け物――で、伊吹山の山中に住み、夜になると、遠く関東や九州などまで出かけては人家を襲い、悪行を尽くしていました。


 そんな弥三郎は、近江の国の娘と愛し合うようになります。

 夜這いみたいなもんですがね。


 娘の父親も相手がそのような悪逆非道の数々を行う、辺りに名を知らしめる鬼神とは知らずに結婚を許してしまいます。


 祝言の晩、弥三郎は酒を飲み過ぎ、その正体を現してしまいます。驚いた父親は、鬼神として怖れられる弥三郎に酒を飲ませまくり殺してしまいます。


 その時、すでに娘は弥三郎の子供を宿していました。

 子供は胎内に33ヶ月も留まった末生まれますが、生まれたときには歯も生え揃い、父を求めるように母に話しかけ、酒を飲むことから鬼子とされ、伊吹山の山中――崖から落としたとも――に捨てられました。


 母に捨てられた赤ん坊は、最初こそ泣いていましたが、やがて元気に野山を走り回るようになり、山中の狼や猪なども彼になつきだし、山の神様に守護されて成長しました。


 この子供こと、伊吹童子いぶきどうじが、後の酒呑童子と言われています。


 弥三郎は、祝言をあげた日に、娘の父親に言っていたそうです。



 この子供は、神通力を持ち、一国を支配する主たるものとなるであろう、と。


 

 そんな彼が、名前を変えて有名となるのが、源氏の武将源頼光みなもとのよりみつによる酒呑童子討伐です。


 当時、都で人さらいが続出し、人々の間ではその噂でもちきりになりました。


 そんな折に、池田中納言の娘が行方不明になるという事件が発生します。

 探しても見つからない娘を心配し、池田中納言は高名なる陰陽師、安倍晴明に助けを求めます。


 安倍晴明の占いで犯人は大江山に住む酒呑童子と出たのです。


 事態を打開すべく、時の天皇であった一条天皇は、豪傑と名の通った源頼光に酒呑童子討伐の勅令を下します。


 討伐に向かうことになったのは源頼光とその四天王、渡辺綱わたなべのつな坂田金時さかたきんとき卜部李武うらべすえたけ唯井貞光うすいさだみつ。そして、藤原保昌ふじわらのやすまさの6名。


 一行は石清水八幡、住吉明神、熊野権現の化身から助言と、鬼から身を隠す隠れ蓑、鬼の神通力を失わせる神酒を頂き鬼退治に向かいます。


 山伏の格好で酒呑童子に近づき酒を飲ませた源頼光達は、あっさりと酒呑童子の首を切り落としますが、神通力で首だけになっても源頼光の兜に喰らいつく酒呑童子と立ち回り、激戦の末、その一味を討ち果たすことに成功します。


 源頼光とその一行はその首を持ち帰り、見事勅命を遂げたのでありました。


 ……………………………


 ちゃんちゃんっと。



 これが御伽草子という短編集の中の、武家物語にある、源頼光の討伐話ですね。

 または、酒呑童子よりも先にあった、伊吹童子の逸話の話でもあります。


 

 この話は知っている方は多いでしょう。


 意外と有名な話ですし、この話の登場人物である、坂田金時。あの足柄山の金太郎ですし。


 それに日本刀に詳しい方であれば、渡辺綱なんて垂涎物です。

 鎌倉幕府の源頼朝で有名な源氏の名刀『髭切ひげきり』こと『鬼切安綱おにきりやすつな』を持つ平安時代の武将です。


 この名刀を語ると長くなるので語りませんが、『童子切安綱どうじぎりやすつな』と混同されがちです。

 童子切安綱は渡辺綱の主君、源頼光が酒呑童子を斬った時に使った、『血吸ちすい』と呼ばれる刀が後の童子切安綱です。

 天下五剣と呼ばれる国宝ですね。


 鬼切安綱は渡辺綱が酒呑童子の家来である茨木童子の腕を斬ったことから名を改めたもので、獅子の子、友切と名を改め、最終的には髭切に戻ります。


 どちらも似た話ですし、酒呑童子に関連した鬼討伐なので両刀は混同されがちなんですよね。


 この辺り、かなりごっちゃごちゃなので、しっかり調べるとまた違った楽しみがあります。



 おっと。話がまたそれていく……。




 さてさて。


 鬼はその時代でも今でも忌み嫌われる対象であるため退治されてしまうのですが、先の土蜘蛛の話然り、本当に退治されるべき対象であったのかと、思えなくもありません。



 実はこんな逸話もあります。


 酒呑童子と先の朝廷の姫は相思相愛であり、それに横恋慕した帝が頼光一行を差し向けたという話です。


 大江山に向かった頼光はそこで事の真実を知ります。が、帝の命を放棄する訳にはいきません。

 そこで頼光は、牛の首を使い、姫は酒呑童子の後追いで自害したことにして、牛の首を都に持ち帰ることに。

 しかし、そのままでは確実に嘘が発覚することは必至。そう考えた源頼光は、老ノ坂峠まできたところ、首が突然に重くなり持ち運ぶことができなくなったので、首をその場所に埋めることにした(その首塚は今も祭られているそうな)という逸話も残っています。



 私はこの逸話のほうが源頼光の人間味が出ていて、心に残りますし、最強と言われた鬼神、酒呑童子の子孫がどこかで暮らしているのではないか。という想像心もかきたてられてしまいます。



 ……とはいえ、この話、どこで読んだのか忘れてしまったんですよね。探しても見つからないので、もしかすると誰かの創作かもしれません。




 元々、歴史や逸話というものは曖昧で、どれもこれもいろんなことが描かれており、例えば酒呑童子の父弥三郎についても、佐々木頼綱という武将が摩利支天の秘法を使って倒したものの、弥三郎の怨霊が災いをなし嵐が吹き荒れた為、彼を井の明神として祭って、その地の守護神とした所災いが収まった、という伝説もあります。




 先の話の他にも、酒呑童子にはいろんな話があり、一方では人をさらい、その血肉を喰らう残虐非道極まりない邪鬼。また一方では、気さくな振る舞いから、地元の人々に深く慕われていたとされています。

 子供の頃から美少年すぎて女性から手紙をもらったのに全て燃やした所、その想いが怨念となり彼を鬼へと変貌させたという話も。


 新潟県には酒呑童子神社というものもあり、越後――今でいう新潟県――の三傑は酒呑童子・上杉謙信・良寛りょうかんとも言われるそうですね。





 酒呑童子。




 人から恐れられ、退治される対象であった鬼。


 残虐非道で極まりないと鬼はあるものの、むしろ、私としては鬼よりも昨今の人のほうが残虐なのではないだろうかと最近ではそう思わずにはいられません。



 もし、この今の時代に鬼がいるとするなら、それは……





 という終わり方で、今回のえせ知識は終わりにしたいと思います。


 さて、次は何のえせ知識を披露しようか……


 というか、これ、続くのかな?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る