フローリスト ~秘密の扉~

まきや

第1話 カナちゃん



私の名前?

芦野あしのカナ。

年齢は17歳。

高校2年生。


んー、これ聞くと、大体みんなそんな顔しますね。それって私が、見た目より幼いって事なのかな。


そりゃあ、顔の手入れは適当ですよ?

髪型だって、生まれつきの赤毛混じりのをただ、ひっつめてるだけのいい加減さ、だもんですから。


メガネはブランド物でも何でもない、大きくて丸いやつですから。


イロケ的なものは、持ち合わせてございません。正直、興味もないし。


仕事は、フローリストおはなやさん「シシリー」のフロア担当、接客係。バイトだからね。


まあ、係の名前なんて建前ね。ぶっちゃけ人少ない花屋の店員だもの。仕事の区分けなんて無しに何でもします、働きます。


ただひとつ、私だけが受け持つ仕事があります。


わたくし、インターネット販売の責任者なんです。難しく言うと「EC販売、及びマーケティング担当」。なんて、意味も分からない業務でございます。


花屋の店員である以上、色合わせとか、形づくりのセンスなんかは、必要になります。


「花を愛する気持ち」と同じぐらいうちのスタッフの先輩方は、皆さん立派な物をお持ちです。手先も器用。


けれど、パソコンを使うとなると違います。

「触ったことなーい」とか

「わかんなーい」とか

女子力満開で、困ったちゃんの顔をし始める。


おいおい。

スマホでもブログ作れる時代なのに、何いってんだか。困ったちゃんしたって、ここには「俺に任せろよ、フッ」なんて、心をくすぐってくる花男などいないというのに……。


まあ、好きですので、いいですが。

私が写真集めから、広告づくりから何でもやらされるハメになるわけです。

まあ、楽しいので、いいですが。


さて、私の働くこのお店、ひとつ問題があります。


金、カネ、¥、$。


このお店はお金の管理がなっていないのです。

見て下さい。あちらに見えるのがうちの店長。年齢は不詳ですが、20代後半なのは間違いない。


背が高くて羨ましい?

編み込んでる長い髪が印象的?

そもそも美人?

胸が大きい?(どうせあたしゃ💢)

紹介してくれ?


こら。

いやいや、違うでしょ。えっと、違いませんよ。優れてる事実は認めますけれど。論点はそこじゃないんです。


あの店長、若くしてひとり、この花屋を駅前に構え切り盛りしています。知識があり。接客も上手。度胸も胸と同じぐらい立派。そこは素晴らしい。尊敬します。


けれどけれど、損得の勘定だけ、抜け落ちてるんです。


とにかく商品を子供にあげちゃうし、簡単に値引いちゃうし、売れそうもない弱った生花、仕入れてくるし。


おいおーい、「損益分岐点そんえきぶんきてん」って知ってますかー?

今月の粗利もうけ、知ってますかー?

我々のお給料、大丈夫ですかー?


地面に穴があったら、潜って叫んでますよ、毎月毎月。


個人商店の特権? そんなお気楽に言えるのは、業績の数字を見てない人です。


ネット担当分の売上と一緒に、私がパソコンでお店の数字を集計しているわけですけれど、せっかくネット販売で稼いだ分の利益を、お店の分の赤字が、食いつぶす勢いなんです。


数字とお金に厳しい家に育った私としては、営業終了後の、実績まとめる時間がいちばん憂鬱。レクセルを前に、1日でもっとも疲れる時間なのです。


店長に何回、進言しんげんしても


「あら、そうね」

「また明日、頑張りましょ」


って、私を聞き分けのない園児扱いしてくる始末。


こうして私の苦労の毎日は、繰り返されていくのです……。


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