情報レストランは誰にも好かれない

ちびまるフォイ

どこよりも早く汚れのない情報を

「いらっしゃいませ。情報レストランへようこそ」


「じょ、情報レストラン……?」


「はい、ここでは食べ物の提供ではなく

 情報の提供を行って脳をいっぱいにしてもらう場所です」


「お腹いっぱいではなく?」

「お脳いっぱいです。さあ席へどうぞ」


テーブルにはクロスがしかれ食器も並んでいる。

皿が運ばれてくると、上には記事が置かれていた。


「召し上がってください」

「これ食べれるんですか!?」


「はい。当店では目が不自由な方も楽しめるように

 口を通して情報を伝えるように情報食品を用意しているんです」


「い、いただきます……」


記事をナイフでカットして口へ運ぶ。

噛むほどに脳に情報があふれて喉を通せば知識になった。


「いかがですか?」


「すごい……上手く言えないですが、知識欲が満たされたというか

 世界が広がったというか……不思議な気分です」


「それがお脳が満たされたということですよ」


「もっと! もっと情報をください!」

「はいすぐに」


情報レストランで脳がいっぱいになるほどの情報を摂取すると

今までに感じたことのない成長実感が得られた。


「いやもう大満足です。本当にありがとうございます」


「またぜひいらしてくださいね」


店員のその言葉がなくても情報レストランには日々通うようになった。

通えば通うほど頭の中にさまざまな情報が積まれていく。

有益な情報、無駄な知識、ちょっとした工夫から世界情勢まで。


知ることがこんなにも満たされることとは思わなかった。


常連として顔なじみになるのに時間はかからなかった。

そんなある日のこと。


「こんにちは、今日はなんだか昔の考古学的な知識が食べたい気分で――」


「お客様、申し訳ございません。実は当店、この度閉店することになったんです」


持っていたフォークを落としてしまった。


「へ、へいてん……」


「今の時代、知りたいことを知るだけで十分な人が多いですから

 わざわざ自分の興味のない情報を食べに来る人は少ないんでしょうな」


「待ってください! ここが閉店したらどこで脳をいっぱいにすればいいんですか!?」


「大変申し訳ございません……」


のちにシャッターが降ろされたレストランの前を通るたびに悲しくなった。

脳がいっぱいになる満脳感を教えてくれた場所だったから。


「……なに、脳をいっぱいにする方法なんて他にもあるはずだ」


方法の1つが失われただけで絶望することはない。

脳をいっぱいにするため、ネットの情報を摂取することにした。



が、ものの数秒で吐き戻してしまった。


「うえええ! ま、まずい! なんだこれ!?」


ネットの情報は偏見や思い込み、デマや悪意の不純物が多い。

レストランで綺麗に整えられた情報を品よく摂取していた自分にとっては土を食べるようなものだった。


「こんな情報で脳をいっぱいにできるわけないよ……」


濁った情報を取ったせいで空脳感はますます際立ってしまった。

本の情報ならこんなことはないだろうと図書館に逃げ込んだ。


「……うーーん……これは……飽きるなぁ」


本の情報を摂取してみるがどれも長たらしい。

いつまでも噛み切れない食べ物を味がしなくなっても食べているような感覚。

脳はいっぱいになるかもしれないがその過程があまりに辛すぎる。というか飽きる。


「もっとこう、短くテンポよく情報を与えてくれるものはないのかなぁ」


ふと顔をあげると、テレビ解説者が出した本が目に入った。


「そうだ。テレビのニュースがあるじゃないか! なんで忘れてたんだ!」


短くテンポよく情報を提供してくれるにはぴったりだ。

さっそくテレビをつけると、ナイフとフォークを持ってナプキンをしいた。


『さっそく今話題のグルメを紹介します!』

『あの芸能人に熱愛発覚!? 徹底分析!』

『カステラの紙についた部分は食べるか食べないか!?』


ナイフを喉にさした。


「ど、どうでもいい……!!」


新しい情報を摂取できると思ったら「この後一体何が!?」とCMに入る。

肉を食べに来たのに延々とパセリループされているような気分になった。


せっかく摂取した情報もコメンテーターによりソース味に変えられたりで、

求めていた自分の情報が脳に摂取することはない。


「ああ、もどかしい! なんでどいつもこいつも余計な味付けをするんだ!」


情報を味わい理解するのはこっちでいい。

もっとテンポよく、誰にも触れられていない1次情報を。素材の味を楽しみたい。


余計な味付けも、悪意のある加工も、くどい水増しも不要だ。


ただ脳を満たすために、プレーンでシンプルな情報を延々と摂取したい。

神にも祈る思いが届いたのか、天啓が頭にひらめいた。


「ああ、ここなら完璧だ! 誰にも邪魔されずに、未加工の情報を摂取できる!」



俺は観測所に泊まる準備をはじめた。

これから定期的に得られる情報が楽しみだった。




『地震観測所からの連絡です。震度1の地震が発生しました』

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