日記・詩

あまぎ(sab)

1月31日 ストーブの話

 雪国の田舎にある実家は、暖房が必須だ。

もっと山奥の祖父母の家にいくと、巨大なオーブンレンジのような薪ストーブが煙突に煙を送り、床暖房やら何やら工夫が凝らされ、部屋全体が暖かくなる構造をしている。鉄塊にガラスの覗き窓がついただけのストーブは、覗きこめばそこまま落っこちていきそうなほど深く、太ももほどの大きさの薪をじっくり燃やしている。前に椅子を置いて、綺麗な火がごうごうと燃えているのを眺めて暇を潰したりもする。あんまり見ていると魂が持っていかれそうな気がしてくる。

 雪はちらちら降ったり、降ってないときはさらに冷える。ブロック状に積もるふわふわの乾燥したタイプの雪は、どうも保温力があるらしく、降り積もっている時の方が何故か暖かく過ごせる。逆に、積もらない日はどんなに暖房を焚いても暖まらない。大雪の翌日に晴れると、洗われた空気が洗練されて、天気がいいのに気温は上がりにくいから、積もった雪が全く溶けないなんて事もある。摩訶不思議だ。


 うちの新人の灯油ストーブは、置く位置が悪いのかそれとも性能の問題か、なぜか肌寒いままで、置かれて一年経つ今日も炬燵の毛布を手繰り寄せている。これなら古いからというだけで先代を手放すんじゃなかったと家族口を揃えているが、後の祭り。

 掃除のとき台の上に乗って、ほんの気まぐれに天井を掻いたところほんの僅かだけ暖かかった。指先はぬるく、それより下は極寒。これでは律儀に燃やされている灯油が無駄な気がする。居間から動かない蝸牛のような生活をするならば、本当に炬燵だけでいいかもしれない。

常時ヤカンがかかっているので、いつでもお茶を入れられるのだけは利点だけども。家人全員に文句を言われながらも誰にもツマミを"消"に回されないので、私が知らないだけで、あれで意外と家電としての存在意義を果たしているのかもしれない。

 うまく言えないけど、凄いと思う。あれを売る方の業者も凄いし、購入後この扱いを受けてもちゃんと灯油を燃やし灯油タンクのストックがなくなるまで交換される奴本体が凄い。明らかにどこか無駄なことをしているのに、誰も撤去や改善を試みない。きっと私には見えない何か、無意味な何かがこの家の精神的な余裕を満たしてくれているのかもしれない。

 いつでも沸いたお湯を提供してくれるとか。

 側で暖められた座布団に雪まみれの愛猫が座り込んで暖まっていくとか。

 その姿に家人が癒されるとか。

 キッチンですらIHのこの時代に不安定で少し危うい、生きた炎が恋しくなるとか。

 暖かくても寒くても、とりあえず暖房をつけるという行為が重要なのかもしれない。

……最後のは考えた中で一番空しいけど、家人の性格からして一番ありえるのでそっと忘れる。

 この無駄の多いストーブは、たかがそんなことのためにしか存在していないけれど、案外偉大なストーブなのかもしれない。


 しかし部屋は寒い。

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