4.〈シャングリラ〉開眼
【これまでのあらすじ】
・ジーク・シィングは米印を中心とする国際軍事組織・PRTO派遣軍の兵士であり、アフガニスタン戦線で超重装甲機〈ヘルファイア〉を預かるパイロットである。
・反政府組織パシュトゥーニスタンの機甲部隊を殲滅すべく、敵の勢力圏へと殴り込みをかけるジークらT-Mech部隊。彼らは〈ヘルファイア〉の突破力と〈ピースキーパー〉の火力をフルに発揮し、敵の守備を易々と打ち破って後方深くに進出した。
◆ ◆ ◆ ◆
地下に通されたトンネル状の通路に、早足の足音がふたつ。
「規格外の大型Mechがもう一機? 三つ目が六つ目に増えでもしました?」
「否だ。四脚型、空も飛べる自走砲といったところだね。近接戦はしないが、小型多連装の対装甲ミサイルと大口径榴弾砲、長砲身の高初速砲を装備。タチアナの〈ティル・ナ・ノーグ〉が国境で捕捉、現在も追跡している」
ボディラインに貼り付くように作られた黒いパイロットスーツの上からコートを羽織り、コンクリートが打たれた廊下を歩くジナイーダが冗談めかして言うと、隣を歩く40代の痩身の男性がさらりと否定した。
「更に新型? 熱心ですね……パシュトゥーニスタンの機甲部隊は?」
「拠点を放棄して撤退中だが、十中八九追い付かれるね。供与されたばかりの機甲部隊を潰されてしまえば、パシュトゥーニスタンはロシアに顔向けができなくなる。つまり恩を売るチャンスだ」
「……で、私が出ればいいんでしょう? アリスタルフ・アルハノフ」
ジナイーダの言葉に痩身の男――アリスタルフ・アルハノフが頷いて眼鏡の位置を直した。民生品のシャツとズボンの上から軍の野戦服を羽織った、にこやかな態度と丁寧な口調からは優しげな雰囲気すら感じられたが、その目の奥は死線を潜り抜けたものに特有のぎらついた輝きを爛々と放っている。
彼女にとっては最大の協力者であり、育ての親のような存在でもあるのだが――倫理観の欠落したマキャベリスト、人の心が解らぬ男というのが正直な評価だった。
「君の事は娘のように思っているから、あまり戦闘に出したくはないんだがね」
「ふ、ふ。心にもないことをおっしゃる。あなたが好きなのは私じゃなくて私の『能力』でしょう。例の『最終兵装』とやらは私がいないと置物ですものね?」
そう皮肉を言うと、ジナイーダはアリスタルフにむけて目を見開いた。
黒い強膜の中に四白眼に浮かぶ紅い瞳――近紫外線から遠赤外線までを見通す邪眼に睨まれ、眼鏡の男が一瞬面食らったように黙り込む。
「……それは例のテレパシーかな?」
「顔色を窺うくらい誰だってやるでしょう。私はそこに赤外線情報、体温とか脈拍なんかも加味して判断できるだけです。これまで外れたことはありませんが」
「これは、やられた。文字通りお見通しというわけだ」
アリスタルフが苦笑とともに肩を竦めるが、そうした余裕を崩さない態度とは裏腹に、彼の姿に重なって見える色の揺らめきは薄っすらと警戒の形に歪んでいた。
ジナイーダがふっと笑みを消して再び目を閉じ、視線を正面に戻す。
「乙女心の解らない方。嘘でも『そんなことはない』と言うものですよ」
「わはは。――いや、バレたと解って嘘を続けるのも失礼だろう。私も実際のところ不死身のジナイーダが負けるとは思っていないさ。ただ万が一敵に捕らわれでもしたらこの基地自体が機能停止するからね。わかるだろう?」
「…………」
調子よく語るアリスタルフに対してジナイーダは無言のまま彼を一瞥し、そのまま無表情で前を向いて歩き続けた。そして数十秒の沈黙の後、止まった玩具に電池を入れ直したようににっこりと笑って口を開く。
「これでも私、貴方には感謝しているんですよ。していますとも。拾ってくださったことも、本を沢山くれたことも、ターニャを預けてくれたことも、色々自由にさせてくれていることも。だからこうして協力しているのです」
「それは良かったが、どういう意味だい?」
「……」
ジナイーダが無言のまま笑う。
その純白の長髪に――比喩でなく――稲妻が走った。
「
廊下の奥に設けられた厚い鉄扉の前でジナイーダが立ち止まると、アリスタルフが胸ポケットからカードキーを出して解錠、二人連れたって部屋の中に入る。
ジナイーダがいる基地は自然の洞穴を利用した地下拠点だった。一世紀前に建造途中で放棄されたものを現用技術で改修した上で完成させたもので、設備はほぼ全て岩山の内部にアリの巣状に張り巡らされた地下空間に収められていた。
とはいえ基地設備の多くは急造であり、通路や倉庫の中には未だ洞窟の岩と土の壁が剥き出しになっている場所も多い。そんな中でこの場所だけセキュリティ付きのドアまで施されているという事実は、そのままドアの向こうにあるものの機密性と重要性を表していた。
「君とタチアナの機体はここだ。他の機体とは隔離してある」
「何かの時にまとめて駄目になると困りますものね……あら、意外に広い」
厳重なセキュリティが敷かれたドアの向こうにあったのは、比較的小さな――といっても、小さなホールくらいの広さがあったが――整備用ガレージだった。
中には規格外Mech用の駐機スペースが二機分だけで、そのうち左側には駐機用の「椅子」――機体姿勢を安定させるためのスタンドがあるだけで、そこに座るべき機体は不在となっていた。機材の運搬や機器の操作を行っている作業員も十数人と少ない。
ジナイーダが興味深そうに周囲をきょろきょろと見回していると、作業服姿の中年女性が一人、何やら苛立った様子で2人のもとに駆け寄ってくる。
「アルハノフ司令!」
「やぁ、マルーシャ。出撃準備に滞りはないかね?」
「滞りも何も……! あんまりじゃありませんか! 長年あんたとシスコーカシアに尽くしてきたあたしに、こんな無理難題を押し付けるなんてさあ!」
マルーシャと呼ばれた中年女性がジナイーダの事など目に入らない様子でアリスタルフに詰め寄り、背後――右側のガレージで椅子に座った規格外Mechを指さした。
項垂れたように座り込んではいるが、直立すれば10mに迫るであろう大型機である。
厚いカーテン状の軟質パーツが両肩と背中から3基ずつ、機体を囲うように生えており、あたかも黒いマントを羽織っているような見た目だった。背部マントの隙間からは二基のサブアームが伸びており、その先端には平らな表面を持つ盾型のユニットが懸架されている。
本体は比較的人間に近いスリムな体型で、頭部も西洋兜を思わせるシンプルな形状。目の位置には狭いスリットが横一文字に入っている。
全身に白い曲面のエアロカウル――然り、装甲板ではない――が被せられており、あたかも鎧騎士めいた外見であった。しかし艶の無いくすんだ白は神聖さや潔白さというより、むしろ骸骨じみた不気味さを想起させる。
〈ヘルファイア〉のような大型のスラスター・ユニットはなく、代わりに両手足の裏側がそのままスラスターになっていて、
武装は奇妙に湾曲した持ち手を持つ棒状のデバイスが一本ずつ、左右の腿部側面に収まっているだけで、ミサイルや火砲の類は見受けられない。
既存の兵器とは異なる技術、異なる設計思想によって作られたオーパーツ。
それがジナイーダに与えられた乗機、〈シャングリラ〉である。
ただ――この機体には、常識的に考えれば欠陥としか思えない点が一つ存在した。
「――エンジンが無い機体でどう出撃しろって言うんですか! フェイズドアレイ式のレーザー発振器も通電式の電磁装甲システムも動力が無きゃ動きませんよ! コンセントに繋げと!? 美術大学の卒業制作やってんじゃないんですよ! ただでさえ〈ティル・ナ・ノーグ〉と『お立ち台』の調整でクソ忙しかったってのに!」
マルーシャが大袈裟な身振り手振りを交えながら詰問する。
機械というのは適切な動力があって初めてその能力を発揮するのだから、一切の動力源がない〈シャングリラ〉は心臓を持たない
「それでいいんだよ。〈シャングリラ〉にはエンジンも核融合炉も必要ないのさ。彼女が乗っている限りはね」
「どうも。マルーシャ整備班長におかれましてはご機嫌麗しく」
ジナイーダがニコニコと笑みを浮かべて一歩踏み出した。そこで初めて白肌白髪の少女の存在に気付き、マルーシャが毒虫でも見たような悲鳴を上げて後退った。
「……地底の妖怪女!?」
「ジナイーダです。……ひょっとして私、怪談の化け物か何かみたいに思われてます? 話しかけられても返事したらいけないタイプの」
「普段最下層から上がってこないからね」
「誰のせいですか」
ジナイーダが呆れたように肩を竦めた。
実際、彼女はふだん基地の最深部からほとんど出てこない。たまに食事をするときも世話役のターニャが食堂から持っていくため、彼女以外に顔を合わせる人間はほぼ皆無である。
恐らくは彼女を抱え込んでおきたいアリスタルフの意図だろうが――その結果、基地スタッフの大部分には「得体の知れない女が基地の最下層に住んでいる」という都市伝説じみた情報しか伝わっておらず、その曖昧な情報が怪談じみた不定形の恐怖を作り上げていた。ジナイーダとしては不本意極まりない状況である。
「彼女はれっきとした組織の一員で、〈シャングリラ〉のパイロットだ。これからちょくちょくガレージに来ることになる。何か不満でもあるのかね?」
「……まぁ、あんたがそう仰るなら」
マルーシャが釈然としない表情で頷いた。胸中に溜まった恐怖と嫌悪は薄れることがないまま彼女の方を向き続けていた。さっさと立ち去ってしまいたい気持ちを水面下に抑えつつ、ジナイーダが話題を切り替えようと再び口を開く。
「誤解を解くためにお茶でもしたいところですが、あいにく呑気にお喋りしている時間はないんです。整備と動作点検は済んでいますか?」
「……もうそろそろ最終確認が終わるけど。さっき言った通り動きゃしないよ」
「ふふ。動かすんですよ、私が。――出撃ゲートを開けてください」
「は? ちょっと、あんた!」
ジナイーダはコートを脱ぎ捨て、〈シャングリラ〉に駆け寄ってそのまま跳躍。機体の腰部前面に口を開けるコックピットへと躍り込んだ。
内部にはモニターの一枚すらなく、バイザーとハーフヘルメットを組み合わせたような形の非侵襲式BMIコントローラーと簡素な操作盤があるだけで、座席の両脇からはCNT繊維を束ねた触手状の拘束具が二本ずつ垂れ下がっていた。ジナイーダが長髪をまとめてヘルメットを装着、液晶バイザーを下げる。
「新しく設置したブレイン・マシン・インターフェースの調子はどうだい? 君に合わせた特注とのことだが」
「動かしてみなくては何とも。私に合わせた感度ではテストもできないでしょうし……でもカメラアイの仕様は大変よろしいです。紫外線と赤外線の複合センサーですね」
「それは、よかった」
ヘルメット内部には無数の電極があり、それが搭乗者の脳波を読み取って機体を操縦する方式になっていた。こうした非侵襲型ブレイン・マシン・インターフェースは胸椎コネクタ・ユニットのような人体への侵襲を必要とする器具を必要としないが、読み取り感度の低さが問題である――本来は。
「外部電源と繋がってるから、リンクを切断して……と。よし」
手元の操作盤から外部スピーカーを起動、コックピット正面の装甲ハッチを閉鎖。
座席脇の触手型固定具が起動し、しゅるしゅると彼女の体に巻き付いて座席に拘束する。同時に背もたれから大蛇のような太さの送電コードが迫り出し、アシスト・スーツ背部のコネクタに突き刺さった。
触手がパイロットを絞め殺すほどの強さでギリギリと収縮。しかし当のジナイーダは全身を締め上げられたまま涼しい顔で機能の確認を続けていた。座席に全身を縛りつけられたその姿は、鎖で繋がれた猛獣のようでもある。
眼前で重々しい音と共にガレージの壁が開き、外界に続くゲートが口を開ける。
「始めます」
「機体まで焼き切らないようにしてくれよ」
集音マイク越しに笑いの混じったアリスタルフの声を聴き、ジナイーダが再び黒と赤の邪眼を開く――その瞬間、心臓無き人形の頭部スリットの内側で光が灯り、全身の人工筋肉が収縮を始めた。計器盤について機体状況をチェックしていた整備員の一人が目を剥いてマルーシャに向き直る。
「班長! エネルギー供給が始まってます! レーザー発振器にアクチュエータ系、電磁装甲に火器管制が稼働を始めました……電力供給過剰! パワー・バランサーとテンタクラー・マントから余剰電力の放出を確認!」
「はぁ!? 冗談言うな、並行起動だけでも艦載熱核炉クラスの電力が必要で……」
マルーシャが整備士としての見解を叫ぶが、現に彼女の眼前において、〈シャングリラ〉はその巨体をゆっくりと椅子から立ち上がらせ、
「――エレクトロキネシス、って聞いたことがないかい。放電現象を引き起こすESPとかPSYとか」
「へ? ……じゃあ何です、あの妖怪女が超能力で機体を動かしてるとでも言いたいんですか? そんなハリウッドのアクション映画じゃあるまいし」
「馬鹿馬鹿しいと思うかね。しかしこの基地だって彼女の電流で動いているんだよ」
素っ頓狂な声を上げるマルーシャに対して、アリスタルフが悠然と答えた。
「彼女のことは東欧の片田舎で拾った。何故こんなことができるのかは私だって知らないし、興味もない。彼女の正体が20世紀末に持て囃された新人類だろうが、ナチスや旧ソ連の実験体だろうが構いやしないのさ。重要なのはエネルギーという価値が存在することだ。彼女が本気で放電すれば、出力は1テラワットにも達する」
「ってことは……3兆6000億キロワット時!?」
「その通り。この国にいる勢力で、私たちほど潤沢にエネルギーを使えるものはいないだろう」
マルーシャが絶句した。
2080年代において、アメリカの
「疑問に思ったことはないかね? 何故こんな僻地に築かれた地下基地が周りに感付かれずに稼働できているのか。何故新参者の私がここまで勢力を伸ばせたのか。――全てジナイーダがいるからだ。私にとって彼女は勝利の女神なのさ」
「……ちゃんと言うこと聞くんですか?」
ギタリと歯を見せて嗤うアリスタルフに、マルーシャは不安を隠さず尋ねた。
直接目にしていなければ狂人の戯言としか思えない事象の数々。
自分が整備していた謎の機械兵器がその実、道理の通らない異常存在を胎内に収めるためのものだったという事実。自分たちのボスがそれに対して絶対的な信頼を置いている事実。全てが彼女の精神的均衡を崩そうとしていた。
「彼女を教育したのは私だ。理性的で平和主義的、力を持つ者の義務をよく理解している子だよ」
「けど……」
「くどいぞ、マルーシャ」
なおも不安が拭えない様子のマルーシャに対して、アリスタルフが静かに――しかし有無を言わせない冷たい声色で言い放つ。
「君たちは何も心配する必要はないんだ、マルーシャ。私は君の整備士としての腕を信用しているし、私情を置いて自らの義務を果たしてくれると期待している。これからも頼んだよ――いけるか、ジナイーダ?」
「問題ありません。慣らし運転は道中でやります」
ジナイーダが〈シャングリラ〉の外部スピーカーを通して答えた。
「よろしい。マルーシャ、『最終兵装』はもう使えるかい?」
「……稼働テストがまだです。起動電力が足りてなかったんで……」
「頼むよ。〈シャングリラ〉は単体ではただの強力なMechでしかないんだ」
「また今度でいいですよ。牛刀割鶏という言葉もあります」
ジナイーダが両手足のスラスターの動作確認をしながら答えた。〈シャングリラ〉の騎士兜を思わせる頭部がグィィ、と旋回してアリスタルフの方に向く。
「それで――機甲部隊の撤退が終わるまで足止め、でいいんですよね」
「そうだ。通信は暗号化されているが、念のため戦闘区域に入った時点で封鎖する。くれぐれもやりすぎないように気を付けてくれ。敵の大型Mechには引き続き暴れてロシアとパシュトゥーニスタンを刺激してもらわなくてはならない」
「理解しています。……では行きましょうか」
整備員たちが安全位置まで退避したタイミングを見計らい、隻眼の機械騎士がマントを引きずって歩き出し、正面で口を開けた地上へと続く出撃ゲートに入る。
機体の背後で隔壁が再閉鎖されるのと同時に、〈シャングリラ〉の全身に配された大型スラスターの中でバチバチとスパークが発生した。
本機の推進システムは、超大電流を利用したパルス・デトネーション・エンジンとでも言うべきものだった。
推力偏向ベーンの裏側にはごく単純な筒状構造のみが存在し、燃焼室の代わりに「放電室」とでも呼ぶべき部分がある。ここに大電流を瞬間的に流すことでインテークから取り入れた外気を膨張、ジェット排気として後方に噴射するのだ。熱源の違いこそあれ、推進剤を必要としないシステムは熱核ジェットのそれに類似していた。
「えーっと……ほんとに武装それだけでいいのかい?」
「ふふ、不安ですか?」
マルーシャが恐る恐る聞くと、〈シャングリラ〉の中でジナイーダが快活に笑い、腿のスラスターに収まった棒状のデバイスを軽く叩いた。
「大きすぎる武器は動きを阻害しますし、一番小さい『フューザー』でも弱めの戦車砲くらいの威力は出ます。問題ありませんよ――スラスター動作正常、出ます」
ジナイーダの言葉と同時に〈シャングリラ〉のスラスター内で爆発的な放電が起きた。手足の内部で発生した爆轟がジェット噴流と化して後方に噴き出し、周囲に落雷さながらの爆裂音が轟く。
大電流によって半ばプラズマ化した排気の推力を受け、〈シャングリラ〉の機体はあっさりと重力を振り切って飛翔した。そのまま遷音速まで加速、ロケットの如く蒼穹の中へと飛び出す。
「あっははは! 青空! 太陽! 何日ぶりかしら!」
ジナイーダが清々したように笑い声をあげた。
次の瞬間、機体を覆うマントがパラシュートめいて広がり、強烈な空気抵抗を生んで機体を急停止させた。同時に手足のスラスターが細かく稼働して推力を調整し、機体をホバリングに移行させる。
「レスポンスは悪くない。あとは機体が持つかどうかだけど」
まともな人間であればマイナスGによるレッドアウト、下手をすれば脳出血を招く危険極まりないマニューバだったが、ジナイーダは特に堪えた様子もなく喜色満面で機体の状態を確かめていた。
彼女にとっての問題は機体が耐えられるかどうかであり、自分が機動に耐えられるかどうかは考慮の必要すらないことだった――彼女の体にかかるあらゆるエネルギーは、一定の閾値を超えると全て
「……PRTOをそこそこで抑えつつ、パシュトゥーニスタンを出汁にロシアを呼び出して、ぶつけ合わせるのが私たちの目的」
ジナイーダは機体を再加速させると、進路を南にとって高度を落とした。同時にマント表面に埋め込まれたプラズマ・アクチュエータが誘電体バリア放電を発生させ、機体表面の大気がイオン化して淡い紫光を放つ。
「やりますよ。ええ、やりますとも」
低空を駆ける〈シャングリラ〉の中でジナイーダが呟く――その整った顔つきから柔和な笑みは既に消えており、ただ冷めたような無表情が浮かんでいた。
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