透明人間
@saruno
透明人間
「本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。」
とある大都市の地下にある議会場。発明家のケイ博士は、カメラの並ぶ報道陣の前で研究成果を発表していた。
「それでは早速始めたいと思います」
ケイ博士は箱から注射器を取り出した。
「私が今回発明したのは、透明人間になれる薬です。この薬品を体内に注射することで透明な身体になるのです」
会場からはどよめきの声が上がる。本当に透明になれるなら世紀の大発明なのだ。
「どうせインチキだろう」
そういう声がちらほらと聞こえてきた。そんなSF紛いのものがあるはずがない。
「皆様が疑うのはごもっともです。ここは実際に見ていただきましょう」
ケイ博士は、実験用のモルモットを用意すると、用意していた注射器で薬品を投与した。
「効き目が出てくるまで30分ほどかかります。その間に質問を受け付けましょう」
報道陣の1人が手を挙げた。
「透明人間といえば、映画などでは犯罪や軍事的な乱用が見受けられますよね。倫理的にこのような薬品が存在することについて問題はないのでしょうか?」
「その点はご心配なく、なぜならこの薬は…」
ケイ博士が言い終わらないうちに、部屋の照明が突然消えた。
「おい、どうなっているんだ」
辺りは騒然となった。しばらくして照明がつくと、博士の目の前にあった注射器は無くなっていた。
「よし、手順通りにいくぞ。早く薬品を注射してくれ」
男はフリーランスの殺し屋。仲間とともに海外からの要人暗殺を企てていた。仕事はできる方だったが、透明人間の噂を聞き、ケイ博士から薬品を盗み出すことにしたのだ。
「標的がここを通るまであと30分くらいか。この仕事は楽勝だな。」
今回は難しい依頼になるはずだったが、透明人間ならば標的を堂々と狙っても証拠は残らないのだ。
あと5分。現場に緊張感が走る。だがその時、仲間の一人が突然倒れた。
「おい!大丈夫か!」
仲間は何も答えてくれない。もう一人、そしてまた一人と仲間が倒れていく。
「くそ、毒薬だったのか。騙された!」
男も仲間に続くようにそのまま意識を失った。
気づくと男は警察署の中に居た。警察官の隣にはケイ博士もいた。
「全く私としたことが、あんたにまんまと騙されたよ。毒を盛るなんて酷い発明家だ」
「何を言っている。あれは毒なんかではない、君たちはちゃんと透明人間になっていた」
「どういうことだ?透明人間になったのなら私をどうやって捕まえたんだ?」
「この薬は確かに透明人間になる薬だが、透明になるのは皮膚だけだよ。ジャングルの奥地で透明なカエルが発見されたニュースがあっただろう。皮膚のメラニン色素とヘモグロビンを透明にして、内臓を丸裸にしてしまうのだ。だから厳密には透明じゃない」
「そんなまさか!」
「この薬品は精密検査に使う医療用に発明したんだ。眼球を構成する虹彩も透明になってしまうと視覚が一時的に失われてしまうから、患者がパニックにならないよう強力な睡眠剤も入れてある」
「それじゃあ最初から全く無意味だったということか。なんて不幸なんだ」
「そんなことはない、きみは幸運だったよ」
「この状況で一体何が幸運なんだ!」
「薬のお陰で君の内臓に悪性腫瘍が見つかったんだ。すぐに治療すれば死なずに済むよ」
透明人間 @saruno
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