ホラーおにおび

@flower-cn122

第1話 雑草のビホダイド

今日は史緒里と長野県の宇宙電波観測所にデートに来た。今はその帰り道。

僕たちのデートはだいたい全部乃木坂46のロケ地巡りだ。普通、史緒里のような高校3年生であれば遊園地とかに行くもんだが、僕がこの春大学生になって免許を取ったからという理由で、大の乃木坂ファンの史緒里にいろんなところへ連れて行かされている。まぁ僕も乃木坂は好きなので全然いいのだが…。

宇宙電波観測所で史緒里が「どの辺で撮影したんですか?」「どんな感じでした?」と撮影時にいた人に質問を永遠に続けたので、帰る頃には空に一番星が見え始めていた。運転にまだ慣れていない僕は、暗くなった山道を慎重に運転していたが、これはどうやら迷子になったみたいだ。安いからってカーナビのない車なんか借りるんじゃなかった。そう思っていると出発時には新しい世界だった車内BGMも23枚目シングルに突入した。

史緒里は乃木オタであると同時にものすごく几帳面だ。乃木坂の曲は全て揃えており、プレイリストにはシングル,アルバムをリリース順かつタイプ順(A,B,C,D,通常盤)に新曲が追加される度にきれいに並べている。プレイリスト順を暗記しており、乃木オタの僕からみても少し怖い。

僕は史緒里に「迷っちゃった。これ帰るの遅くなりそう。」と言うと、「♪帰り道は〜帰り道は〜遠回りを〜したくなるよ〜」と口ずさみ、全く心配そうにしていない。

下り坂に差し掛かり少しスピードが上がる。キキーッ!!下りきった所に踏切があり、急ブレーキをかける。こんな山道に踏切?と疑問に思って先を見てみると、踏切の先は道路が舗装されていない。踏切のランプは外れかけており、上の×の形をしたやつも外れかけて、+の形に見える。

「この先どうなってるんだろ〜。なんか肝試し的な感じできそうじゃない?行ってみようよ!」と史緒里はなぜかハイテンション。史緒里の前では"怖いの無理〜。帰ろうよ"とカッコ悪い所は見せられず、「あぁ。ちょっと見てみるか?」と強がる。そう言って車から出る。山の中だからか少し肌寒い。

始めは車のライトが届いていたので明るかったが、だんだん暗くなり細い道に来た時には木々の隙間から漏れる月明かりだけになっていた。「やっぱ帰ろうよ〜。」さっきまであんなに楽しそうだった史緒里も、僕にしがみついて離れない。心の中では帰りたいと思いつつも、史緒里に抱きつかれてるこの状況をもう少し感じたくて足を進める。

その時!急に前に人影が現れる。歩き方は不自然。足を引きずっている。髪は白く、髪の間から見える目は黒目が驚くほど小さい。顔には青い血管が浮き上がっている。怖がっているのか史緒里の手は震えている。

その怪物の動きがピタッと止まり、緊張が走る。次の瞬間、怪物が襲いかかってきた。と同時になぜか僕は前に飛び出した。驚いて後ろを振り返ると、史緒里が僕を突き飛ばし逃げているのが目に入る。僕は怪物と一緒に山道の脇に落下する。木の枝がぶつかり痛い。僕は何とか1本の太い気に捕まる。怪物はそもまま下に落ちて行った。

道から3mくらいだったので何とか上に登り、来た道を帰る。史緒里は無事だろうかそう考えながら、車の元へと走る。車のライトが見える。眩しい。助手席には史緒里の姿が見える。無事だったみたいだ。運転席のドアを開け、車に飛び乗る。僕はホッとして深く息を吐く。史緒里はゴルゴンゾーラのアウトロに乗せて体を揺らしていた。

「この後なんだっけ〜」と史緒里は口にして、微笑みながら前方を指差した。その先では先ほどの踏切の上の×型のものがクルクルと回っていた。

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