我が太陽が昇る前に

詠弥つく

ひとつ、星

 この手の内に永久とこしえを、と夜の星に何度願っただろうか。数え切れないほどの夜をこうして共に過ごし、眠る彼の傍らで見る星空も季節によって様々な表情を見せた。

 俺が一番好きなのは、冬の空だ。澄んでいて、星が良く見える。そして何より、長い。空に太陽が昇らなければ、ずっとこの部屋で生きていられる。俺の、俺だけのものであって欲しい太陽は今、この手の中にいて、その幸福が消えてしまうのが怖い。時を呪ったって、針は進むし地球は回る。生きている限り、それから逃れることはできない。

「どうした」

 星を眺めつつ、むにむにと頬を弄っていたら起こしてしまったようだ。掠れて低い声が、甘やかす響きをもって俺を呼ぶ。

「……起こしたか。なんでもないよ」

「また余計なこと考えてたわけ?」

「うるさいな」

「俺は静か。うるさいのはお前だろ」

 む、と口を噤むと面白がるように微笑まれる。喉元を擽るように撫でる手に甘え、顔を寄せると素直に唇が合わさった。今日の恋人は、やけに素直だ。瞳に映りこんだ外の星を眺め、流れるそれがないか探してしまう。この黒色の中の流れ星なら、きっと俺の願いを十全に叶えてくれるだろうから。

「目、閉じろって」

「やだ」

「やだ、って。お前」

 目を合わせたまま、吐息が触れる距離で呆れたように囁かれる。べ、と舌を出して唇を舐める。笑い声は互いの口内に飲み込んで。暫し甘美な口付けに溺れる。冷えかけた体を布団の中に戻し、彼の手が窓をぴしゃりと閉めた。

「体力、あるの?」

「お前にとっては残念かもしれないけど、まだ余裕」

「あっそ」

 鍛え方が違うのだった。少しムカついて、明日朝のランニングの邪魔くらいはしてやらないと気が済まない。体を入れ替えて、睨み付けても恋人は楽しそうに笑うのみ。ああ、本当に。愛しているよ、俺の太陽。


 薄らと窓から光が差し込む。布団を被り、目覚ましが姦しく騒ぐ前に投げ捨てる。ぴくりと動く瞼、薄く開いて酸素を取り込む唇、その全てが愛おしく、疎ましかった。太陽なんて、昇らなくていい。俺の恋人は、俺だけを照らしていればいい。誰にも見られなくていい、俺だけがお前を知っていればいい。疲れ切って、全く起きる気配がない恋人の、伸びてきた髪を撫ぜて一人笑う。

 ああ、行かなければ。

 かちゃりと鍵を閉めて、新しい一日の歯車が回りだす。

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