私、快盗少女は、特殊な道具で何でも盗みます!

読み方は自由

快盗少女綴り1:ブルーホワイト

第1話 快盗少女、ティアナ

 突然だが、ここに一つの問題がある。

 ロマンがお宝を作るのか? 

 それとも、お宝がロマンを作るのか? 


 その答えはたぶん、誰にも導き出せないだろう。大抵の者は、お宝その物に興味がないのだから。毎日の生活に追われるばかりで。

 

 彼らの関心所は、工場主との労使問題か、パブでの飲酒、あるいはカード賭博だけだった。誰も(多少はいるかも知れないが)、「お宝」に対して興味関心を抱こうとしない。


 彼女の生まれた時代は、正にそんな時代だった。

 

 絶対王政の時代が終わって、ようやく近代的な、民主的な世界が形成されたのに。人々の考える事は、「今日を生きる事」だけで、毎日の生活に潤いを求める事はもちろん、その生活に刺激を求める事すらしなかった。

 「そんなモノを持っても無駄だ」と。今日の朝刊には、落盤事故で亡くなった少年労働者の記事が載っていた。

 

 少女(年齢はたぶん、十四歳くらいだろう。髪はふわりとしたブロンドで、肩の辺りまで伸びている。髪の色は、金髪に近い茶髪。瞳の色は、海よりも深い蒼。身長は平均的だが、体型の方は「それ」よりも痩せていた)はその記事にうんざりし、テーブルの上に朝刊を投げ捨てると、カップの牛乳を飲み干し、自分の正面に座る親友(にして相棒)を見ながら「ホント、つまらないよね?」と嘆息した。


「毎日、毎日、こんな暗い記事ばかりでさ。読んでいるコッチが暗くなっちゃうよ」


 親友の少女、ロナティ(彼女の年齢も十四歳くらい。髪は癖の無いストレートで、腰の辺りまで伸びていた。髪の色は、黒。瞳の色は、灰よりも深い灰色だ。身長は少女と同じくらいだが、体型の方は「それ」よりも痩せていた。胸は、それに似合わない巨乳だが)は、そんな相棒の愚痴に溜め息をつきつつ、その少女に「仕方ないじゃない?」と言って、自分のカップに手を伸ばした。


「それが現実なんだからさ。現実は、あんたが思う程甘くない」


「かも知れないけど。それを面白くするのが、私達なんじゃない?」


 ロナティは、その言葉に頭痛を覚えた。親友がこんな事を言うのは、決まって新しい獲物を見つけた時だった。テーブルの朝刊に目をやる。


「新しい獲物を見つけたの?」


 に、目を輝かせた少女。その口元も笑って、今にも爆発しそうだった。


 少女はテーブルの朝刊にまた手を伸ばすと、その朝刊を開いて、ロナティの言う新しい獲物を指差した。新しい獲物は、「宝石だよ!」


 有名な貴族が保有する、「ブルーホワイト」と言う宝石だった。


「今度開かれるパーティーで、みんなにお披露目するんだって」


「ふうん」とうなずいたロナティだが、その内心は正直複雑だった。「まあ、お披露目するのは個人自由だとしても。普通、そんな事を言うかな? ただのパーティーなのに」


 を聞いて、少女は笑みを零した。


「ふふふ、ロナティ君。世の中にはね、そう言うのを自慢したがる人もいるんだよ? 自分が持っているお宝をね。『これでもか!』と自慢したいんだ」


 ロナティはその言葉に閉口したが、「自慢」の部分には「まあ」とうなずいた。


「ここにも、そんなバカがいるし」


「へへへ」


 少女は椅子の上から立ち上がり、テーブルの食器類を片づけると、元の場所に戻って、テーブルの上に片肘をついた。


「さてさて、ロナティ君」


「なんですか? ティアナさん」


「盗みの段取りを考えましょう」


「段取り、ねぇ」


 ロナティは「それ」を聞いて、椅子の背もたれに寄り掛かった。


「いつも思うけど」


「うん?」


「それって、やる意味あるの?」


「ふぇ?」と驚いた少女は、彼女に「なんで?」と聞いた。


 ロナティは、その質問に溜め息をついた。


「あんたの持っている道具、確か『特殊道具』だっけ? あれがあれば、そんな段取りを考えなくても」


「確かに盗るのは簡単だけどさ。でも、それじゃ面白くないじゃない?」


「変身も、変装も、その他諸々も自由自在なのに?」


 わざわざ段取りなんか立てなくたって、と、ロナティは言った。


「あんたなら直ぐに盗んで来られるじゃない?」


 少女もとえ、ティアナはその言葉に瞬いたが、やがて「フフフ」と笑い出した。


「それじゃ、ロマンが無いよ」


「ロマンがない?」


「そう!」


 ティアナは椅子の上から立つと、まるでバレリーナのように「ふわふわ」と舞いはじめた。


「他の侵入を許さない要塞、その要塞を守る警官達。『快盗』は、普通の怪盗とは違って、それらの障害を楽しまなきゃならないんだ。ただ、お宝を盗むだけじゃダメなんだよ」


「はぁ」と、ロナティの溜め息。「そう」


 ロナティは呆れ顔で、テーブルの方へ前のめりになった。


「もう好きにして」


「フフフ」


 ティアナはまた、椅子の上に座り直した。


「それでは、情報屋のロナティさん」


「はい」の返事も、憂鬱だった。「なんですか?」


「まずは、ターゲットの事。お宝がお披露目される会場の事を調べて。それが終わったら、当日に来る参加者の事は」


「はいはい。できるだけ詳しく調べるよ」


「よろしい! 私は、ご夫人に予告状を書くから」


 二人は椅子の上から立って、一方は部屋の中から出て行き、もう一方はご夫人への予告状を書きはじめた。


「予告状

 チャリー夫人様。来たる〇月△日。貴女様が主催する××パーティーにて、貴女様が皆様に御自慢する宝石、ブルーホワイトを頂きに参上します。

                              快盗少女X」と。


 ティアナは「それ」を書き終えると、楽しげな顔で「これからの事」を考えはじめた。

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