夏 3

まだまだ暑いですが、八月も終わりなので夏の句を詠んでみました。

金魚玉きんぎょだま:ガラス器に水を盛り、金魚を入れる、透徹つたガラスに支えられた水と金魚とが空に浮かぶ、清々しき極みです。

打水うちみず:埃を抑え、また涼気をとるために庭や道に撒く水。また、その水を撒くこと。撒水。

刀自とじ:中年以上の婦人を尊敬して呼ぶ語。

蛍草ほたるぐさ:ツユクサの別名。

※カルメン:『カルメン』 (Carmen)は、ジョルジュ・ビゼーが作曲したフランス語によるオペラである。

カルメンはセビリアの煙草工場で働くジプシー。真面目な兵士ホセは、自由に生きるカルメンに恋をします。そのことでホセの人生は大きく狂い始めます。二人は結ばれますが、気の代わりが早いカルメンはすぐにホセを捨ててしまいます。失恋し嫉妬に狂ったホセが、カルメンを殺してしまったところで幕がおります。

「わたしは目をあげ、あの女を見ました。一目見て、嫌な女と思いました」(メリメの原作から)

ホセがカルメンに初めて会ったシーンです。「嫌な女」と思ったのは怖いから。この女性によって、今までの世界ががらりと変わると予感したからです。嫌だと感じた瞬間から、恋はもう始まっているのです。

それが証拠にホセは、カルメンが投げつけた花をこっそり拾い、ポケットに隠す。しかも何日も肌身離さず持っていて、彼女をしのぶよすがとしました。

オペラの舞台では、真っ赤な薔薇が使われることが多いようです。見映えがいいし、カルメンの燃えるようなイメージにもぴったり。闘牛のときの赤い布と同じで、観客自身もこの色に反応して興奮するからでしょう。

ところが原作は違います。カルメンが口にくわえていたのは真っ赤な薔薇ではなく野生のカシア。色はおそらく淡い黄色。かなりみすぼらしい花でした。その代わりこの花は、薔薇のようにすぐ萎れることはないし、「枯れてなお芳香をはなつ」強さがある。まさにカルメンにぴったりの花といえるかも。【中野京子の「花つむひとの部屋」】を参考にしました。

逢魔時おうまがとき/大禍時 (おおまがとき):夕方の薄暗くなる、昼と夜の移り変わる時刻。

黄昏草たそがれぐさ:ユウガオの別名。

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サンダルの きびすを返す 尨毛むくげかな



金魚玉 手にして過ぐは 江戸美人



下町や 打水したる 刀自とじのをり



少年と 虫取り網と 麦藁帽むぎわらぼう



足早に 夕立雨ゆうだちあめの ベンチかな



祭り終へ 橋の袂の 蛍草ほたるぐさ



カルメンの 唇あまき カシアかな




黄昏草たそがれぐさ 逢魔おうまときや 君待ちぬ

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