壁は僕の命の恩人

るう

壁は僕の命の恩人

どうやら僕は、普通ではないらしい。それに、初めて気がついたのは、小学1年生の時だった。小学校の入学式の次の日、僕は、いつもと同じように教室の壁と話していた。そしたら、周りの子だけではなく、先生までもが僕の事を、不思議そうに見つめているのである。僕は見つめられてる理由がよく分からず、頭の中は、?で埋め尽くされていた。先生は僕に「ゆうくんはよく、独り言を言うのかな?」と言った。僕は、その質問の意味が分からなかった。僕はただいつものように壁と会話をしていただけなのだ。「独り言じゃなくて、壁と話しています。」僕は、当然のようにそう答えた。周りがざわつきはじめた。先生は、目を丸くして、口をパクパクさせていた。僕はその日、家に帰ってからお母さんにその事を話した。もちろん壁にも。そしたら、お母さんも壁も、壁と話せるのは、あなただけだと言った。僕以外のみんなは、壁と話すこともできないし、ただの物だと思っているらしい。その時初めて、世界中で壁と通じ会えるのは、僕一人だということを知った。僕は生まれたときから壁の声が聞こえ、話すことができた。なので、壁を動けない人間だと思っていた。物だとは思いもしなかった。



今でも覚えている0歳の時の記憶がある。僕は毛布に包まれ、ダンボールに入れられて外に捨てられていた。僕が置かれていた場所は、人がほとんど通らない通りの、古びた建物と建物の間だった。このまま何も起こらなければ、僕は誰にも気づかれず、とっくに死んでいただろう。そんな時、古びた建物の壁が、僕を救ってくれた。捨てられて2日目の夜、建物の壁が僕に「必ずあなたを救います。」と言った。次の瞬間、壁が自分で崩れ始めたのだ。周囲に、ものすごい音を響かせながら、窓ガラスを割り、柱を折って建物が崩れていった。すぐに、警察や、近所の人が集まってきて、僕を見つけた。僕は無事に保護され、安全な施設で過ごした。そんな僕を、引き取ってくれた人が、今のお父さんとお母さんだ。壁は僕の命の恩人なのだ。命だけでなく、大切な家族もプレゼントしてくれた。



僕は基本的に、どこの壁とでも仲良くなれるが、一番の壁友は自分の部屋の壁だ。名前は、かっべ。そのままに近いが、本人が選んだ名前だ。かっべは、いつも優しく寄り添ってくれる。僕が泣いたら優しい声で慰めてくれて、嬉しい時には動けない分、できるだけ大声を出して喜んでくれる。僕は壁と話ができて本当に良かったと思う。世界中で壁と通じ合えるのは僕だけだ。そしたら、つまり世界中の壁は、僕の味方をしてくれる。朝、出勤のため家を出る時は、家中の壁がお見送りをしてくれる。外に出ると、近所の壁達が一斉に挨拶をしてくれる。本当に、壁達に支えられている生活だ。



壁と通じ合えて、一番良かった時は、今働いている会社の面接試験の時だった。僕はその日とても緊張をしていたが、面接会場に入った瞬間、会場の壁達が口々に頑張れとか、応援してるとか言ってくれたのである。そこで僕の緊張は70%くらい下がった。いざ面接官がいる部屋に入ると、面接官の後ろにいる壁が、僕に笑いかけてくれた。ここまでされると、もうおかしくなってしまい、思わず笑ってしまった。面接官は僕になぜ笑っているのか尋ねた。僕は、一瞬やってしまったと思ったが、とっさに頭をフル回転させて、「この会社に入れたら幸せそうで、いつも笑顔な僕を想像すると幸せすぎて、笑ってしまいました。」と答えた。沢山の会社の壁のおかげで面接はうまくいき、第一希望の会社で働けることになった。実際に入ってみたら、予想通りとても良い会社だった。



壁と話せると楽しく、得することはとても多いが、ちょっと不便だと思うこともある。まず1つ目は、家の壁に愛着が湧いてしまうので、お引越しができない事。あとは、建物の取り壊し現場の近くを通れないことだ。壁達が、まだ生きれると叫んでいる声が聞こえてしまい、その声を聞いてもどうすることもできなくて、悲しくなるからだ。僕は、大好きな壁達を、できるだけ長生きさせられるように、壁修復のプロフェッショナルを目指している。僕はこれからも、かっべをはじめとした沢山の壁達と、明るく過ごしていく。



全ての壁に愛を込めて、


I Love KABE.



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