第60話 書類

まるで何もない空間‥‥‥

まるで何も音がしない空間‥‥‥

まるで透き通った青色だけの空間‥‥‥


ーーーなんだ?‥‥‥ここはどこなんだ?。

ーーー何故俺はここに居る?



まるでわからない‥‥‥


俺の目の前には、透き通った青色が地平線の彼方まで続く無音の世界‥‥‥

自分の心臓の音、自分の呼吸する音、ただそれだけしか聞こえてこない無音の世界‥‥‥

地面はまるで鏡のように俺の姿を映し出している‥‥‥


そんな中で、俺は一人佇んでいた。



ーーーなんで俺はここにいるんだ?ーーー



俺は周りを見渡すが、誰一人居ない。建物も‥‥‥いや形を持った全てのものがない。

あるのは透き通った青色のみ。

ただ俺の気持ちは慌てることはなく、不思議と落ち着いていた。



ーーー柚葉や由奈さんは?みんなは?ーーー



俺は周りを見渡すが、誰一人居ない。

最初は落ち着いていた俺も次第に不安になっていく。



ーーーみんなは?‥‥‥誰もいないのか?ーーー



俺は一歩歩き出す。

踏み込んだ鏡のような地面は、まるで水溜りに落ちた雫が波紋を広げるようになる。



ーーーピチョン‥‥‥ーーー



俺は暫くそんな世界をあるいていると、俺の前方から何かが広がり出す。



なんだ?あれは?



それは、いままで綺麗な透き通る青色の世界を灰色に染めようと、俺の方へと向かってきた。

俺は恐怖で逃げ出そうとしたが、足が動かない。

そして、俺は瞬く間に灰色の世界に飲み込まれた。



さっきまで青色の世界だったのに!

なんなんだよ!この灰色は!



そう俺が思っていると、今度は俺の体の色が灰色に変わっていく。



うそ‥‥‥だろ?

なんなんだよ!これ!なんなんだよ!



そして、ついに俺の体は灰色に変わった。

それと同時に、俺の左腕が黒く、いやどす黒く変わっていく。



おい!なんだよ!左腕が‥‥‥動かない。

動かない‥‥‥

動かない‥‥

動かない‥



わっ、わあああ!!!



俺は叫んだ。あまりの急変で。




◇◇◇




慌ただしく扉を出たり入ったりする人。



「急いで!」

「ハイ!」



看護師達が医師の指示に動く。

そんな手術室の前の待合室の椅子に腰かけてる、翔先輩や由奈達。



「ねぇ‥‥‥お父さん、お兄ちゃん大丈夫よね」

「あっ‥‥‥うん、大丈夫だ」



心配そうに父親の翔先輩に話す小さい柚葉は母親の明菜さんに抱きついていた。明菜さんも心配そうな表情をしている。



「ママ‥‥‥お兄さんは‥‥‥」

「‥‥‥うん‥‥‥」



大きい柚葉と母親の由奈は俺を心配していた。ただ、小さい柚葉に比べて俺の置かれていた症状がわかっていたので、かなり不安な表情をしていた。

草野や木野も駆けつけて、翔先輩達と一緒にいたが、やはり心配な表情をしていた。



「先生‥‥‥私のせいで‥‥‥私のせいで‥」



木野は自分を助けるために、こうなってしまった俺を心配しながら自分を責めた。

そんな木野を草野は



「貴女のせいではないわよ」



草野は木野に優しく、言葉をかける。



「けど‥‥‥けど‥‥‥」



まだ自分を責めてる木野を、草野は優しい抱きしめた。

木野は抱きしめられた草野の胸の中で、小さな声を出して泣いていた。



「‥‥‥フミ‥‥‥大丈夫‥だよな‥」



翔先輩は手術室の方を見ながら、心の中で呟いた。


俺はあの腕の変色の後、意識がもうろうとなり、その場に倒れてしまい、救急車で緊急医療センターに運ばれた。

そして俺は今、急死の境目をさまよっていた。


手術室の扉が開く度に由奈達の不安が募る。

そして、手術室から医者と看護師が出てきて、翔先輩達の前に。



「患者の御両親か御親族の方はお見えになられますか?」



そう医者が言うと、翔先輩が返事をする。



「あっ、あいつの‥フミの両親は今は海外です。親族も旅行で。早くて明日の昼ごろになると」


「そうですか。では貴方でも構いません」


「はい?」



医者に言われ、翔先輩は首をかしげる。

そして、付き添っていた看護師から3枚の書類らしき紙を渡された。

渡された紙を、翔先輩が目を通すと、翔先輩の両手が震え出した。



「本当‥‥‥なんですか?」


「申し訳ありませんが‥‥‥」


「なんとかならないんですか!」


「申し訳ありません。今の医学では‥」


「先生!」



医者は首を横に振るのみ。

そんな医者を見た柚葉達は不思議がり、翔先輩の横にいた明菜さんが、翔先輩が持つ書類を見て、両手を口に近づけると驚いた表情で、



「うそ‥‥‥本当なの‥‥‥ねえ!あなた!」


「俺も嘘だと思いたい‥‥‥」



翔先輩が神妙な表情で言うと、由奈は翔先輩が持つ書類を取り見た。



「あっ!由奈さん」


「‥‥‥左腕‥切断‥‥‥!」



その書類には、左腕切断の文字が記載されていた。












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