第19話 過去からの解放

松塚親子が俺の所で一緒に暮らす事で、俺はある決心をする。

『この人達の苦い過去の苦しみを、少しでも和らげたい』と。

俺は翔先輩にだけ聞こえるような小声で話す。



「先輩、由奈さんの借金は直ぐにどうこうすることは出来ませんよね」


「だな。その借りた本人が居れば別だが、何処にいるかもわからないのではな。裁判にしても弁護士やらなんやらで、下手をすると借金以上に金がかかるかもしれないしな」


「そうですか‥‥‥だったら手っ取り早く返しちゃいますか。お金を」


「お前返すて、当てはあるのかよ!」


「当てはないですけど、ほら、あれがあるでしょ、あれが」


「あれ?あれって‥‥‥まさか!」


「ええ」



翔先輩は俺が「あれ」と言うと驚いた顔をする。

そのあれとは、実は特許の事。

俺は開発部に翔先輩と所属している。

だが何故、俺が開発部に所属になったかと言うと、俺は学生時代に二つの特許を取得した為。そしてその特許をうちの会社の社長が売って欲しいと以前話しがあった。

額にしておよそ一千万。

ただ俺はその話を断って来た。将来独立して企業を立ち上げる為に。

だけど、今は金が必要だ。



「フミ、いいのかよそれで」


「いいんですよ。俺、約束しましたから。この親子を幸せにすると」



そう、この俺の持つ特許が人の役に直ぐにたつのなら。

俺は左手の怪我の件で病院に行き、帰るなり会社の社長に連絡。社長は喜んで了承してくれた。そして、俺の事情を聞くと五百万プラスの一千五百万で買い取ってくれた。


これで借金はなんとかなる。後は‥‥‥


俺は次の日に興信所に連絡。

今、由奈と離婚調停中の行方知れずの由奈の旦那を探してもらうように依頼した。

すると僅か一週間ぐらいで、居場所がわかる。

俺は弁護士を雇い、興信所の人とその居場所へと由奈と出向いた。

そして、その男の住むアパートは新築だろうかの真新しいアパート。そんなアパートの前で俺は



「由奈さん、未練とか後悔とかありませんよね」

「未練?そんなのありません!寧ろ憎いくらいです!」



そんな由奈の顔はまさに鬼のよう。

そして弁護士と興信所の人を引き連れて、男の住むアパートへ。

ドアをノックすると、ドアが開きでて来たのが20代と思しき普通の女性。

最初「なに?あんたらは?」とした表情をしていたが、弁護士が名刺を渡すと、女性は驚き男を呼び出す。

奥の部屋から出てきた男は、いかにも遊んでいそうな男。その男は由奈を見るとまるで他人のような表情をする。そんな男に由奈は今にも襲い掛かりそうになるが、俺が止めた。


そして弁護士がいままでの事を話すと、男は知らん存ぜぬで聞く耳も持たない。

そこで興信所の人が、すべての証拠を男の前に出した。

すると男の顔は青ざめ、隣にいた女性は、興信所の人が出した証拠の書類を見ると「私との結婚は嘘なの?あなた独身だと言っていたじゃないの!」と怒りまくる。

男は右往左往している。そこで俺はさらに追い討ちをかける。


「この書類にサインをくれ」と



渡したのは離婚手続きの紙。

その書類に男は渋々サインをすると、俺は由奈にこの書類を渡した。



「これで私は自由になれる」



由奈の目からは涙が一雫流れた。

そしてその後のことはプロの人達にまかせた‥‥‥。

俺達が帰る頃には、男はまるで干からびた干物のような状態になっていたのが、印象に残っている。

そして、弁護士達と今後の事を話し合って、家路に帰る二人っきりの車内で



「フミ君。ありがとう。私のために」


「いえいえ、けど、これで晴れて自由の身になりましたね」


「ええ。‥‥‥」


「どうしたんですか?」


「えっ?‥‥‥フミ君‥」


「はい、なんですか?」


「私の事どう思う?」


「由奈さんの事ですか?そうですねー。綺麗な柚葉のお母さん?」


「なんで最後疑問形なの。やっぱり明菜の言う通りね」


「明菜さんの?」


「そうよ。『フミ君は鈍いから』て言っていたから」


「えっ!そんな事言っていたんですか。まあ、認めますけど(笑)」


「そうね。クスッ(笑み)」



そう和やか?な雰囲気の車内。

俺の車は家と向かって走るのでした。

(そんなに鈍いですかね。俺は?)



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