第17話 柚葉の気持ち

俺の胸の中で泣く、松塚 柚葉。

あの頃のお互いの顔は薄っすらとしか覚えてない。

十五年前の事だから仕方ない事。

けど‥‥‥あの曲だけは覚えていた。



「お兄さん‥私、あの日のお礼が言いたかったの」


「あの日の‥ああ、別にお礼は」


「ダメ!私の気持ちがよくないの!それに‥‥‥私‥‥‥///お兄さんの事が‥」



松塚 柚葉が俺に何かを言いかけた時、俺の後ろから叫び声があがる。



「ダメー!絶対にダメー!お兄ちゃんは、お兄ちゃんは、私の旦那様になるんだから!絶対にダメー!」



いきなり叫ぶ様に口を開いた若葉 柚葉に俺は驚く。

そんな柚葉は俺の背中にしがみつく。

そしてまた同じ事を言う。



「絶対にダメ‥お兄ちゃんは私の‥私の未来の旦那様だから‥」



柚葉が最後辺り泣きそうな声で言って来たので、俺は柚葉が気になり、



「どうしたんだよ?いきなり」


「だって‥‥‥だって‥‥‥」


「うん?」


「だってこのお姉さん、お兄ちゃんを見る目が私と同じなんだもん!」


「同じ?同じってどう言う事?」



俺が首を傾げていると、明菜さんが気づいていたみたいで、由奈の所に聞きに来る。




「由奈先輩、もしかして由奈先輩の子はフミちゃんの事が」


「ええ、そうらしいの‥」


「やっぱり‥そうですよね、うん‥‥‥フミちゃんは気づいてないけど」



俺は明菜さんと由奈が小声で話しているのを聞いていたが、まだ意味がわからなく、翔先輩の方を向くが、翔先輩も首を傾げている。

仕方なく俺は明菜さんに聞くと、



「本当にフミちゃんは自分の事にはうといんだから。由奈先輩の柚葉さんはフミちゃんの事が好きなのよ」


「はあ?俺の事が好き?冗談ですよね?」



俺は明菜さんに言われ、松塚 柚葉を見る。

しかし彼女の顔は、俺が見つめると、なんだか顔を赤らめて下を恥ずかしそうに向く。

そんな彼女を見た柚葉は、俺に更に力を入れて抱きついてくる。



「絶対にダメ‥お兄ちゃんは私の‥」

「柚葉‥‥‥」



俺は柚葉の頭をポンと優しく叩くと、柚葉に笑みを浮かべた。そして、



「柚葉、俺はね暫くは誰とも付き合わないし、結婚だってしないよ。そりゃあ、俺も相手がいたら結婚もしたいと思うよ。けど、その前にやる事があるんだよ」


「やる事?」


「そう、やる事。あのお姉さんと由奈さんをみんなで幸せにする事」


「だから誰とも?」


「そう、誰とも。だから柚葉とはいつも通りだよ」



俺が柚葉を笑顔で見つめると、柚葉は何かわかったのか、少し笑みを浮かべて、



「‥‥‥うん、わかった。けどお兄ちゃん、私が大人なったら‥」


「わかってるよ。その時は俺から改めて返事をするよ」


「うん(笑顔)」



柚葉は笑みを浮かべて返事をする。その返事はなにかが少し晴れたような感じに聞こえた。

ただ‥‥‥もう一人の柚葉、松塚 柚葉は何か悲しそうな顔をして俺を見つめる。



「‥‥‥お兄さんは本当に誰とも‥」


「ああ、誰とも付き合わない。それに今しなければいけない事は、君ら親子を幸せにする事」


「誰とも‥」


「そう、誰とも。ごめんな柚葉」



俺は松塚 柚葉に謝ると、柚葉はやはり悲しそうな瞳を俺に向け



「私と付き合う事は幸せにならないの?」

「えっ?」


「お兄さんと私が幸せにならないの?」

「‥‥‥あっ‥‥‥うん。ならないと思うよ」


「えっ?」

「だって、こちらの柚葉は君とまだ対等でないから」



俺は、俺にしがみついている若葉 柚葉に笑みを向けると、松塚 柚葉にそう答えた。



「俺は、今ここで君か柚葉を選べと言われたら、選べれない。その問いには断るよ。けど、もし君が、君ら二人が対等に並ぶまで待っていてくれたなら、改めて俺から返事をするよ。て、それまで君らが俺の事、想ってくれていればだけどね」


「私はお兄ちゃんの事が好き!絶対にこの気持ちはかわらないよ」


「私は‥‥‥あの日からずっとお兄さんの事想っていた‥‥‥私も変わらないわ!」



二人の柚葉は俺に真剣な眼差しを向ける。

そして俺は松塚 柚葉に笑み向けて言う。

まずは一つ目の対等から、



「あのね、え〜と、君のママ、由奈さんから話は聞いたよ」


「えっ?なにをですか?」


「君ら親子が住む場所がない事を」


「‥‥‥はい」


「でだ!一応、由奈さんは了承しているけど、君がまだだから」


「えっと、何がですか?」


「ここに住むって事」


「えっ!ここにですか!?」


「そう、ここに。どうかな?君さえよければだけど」



俺の言葉に、松塚 柚葉は一瞬唖然とする。

が、柚葉の瞳が徐々に潤んでくる。

そして、頬に光る何かが流れた時、



「バァッ!」

「えっ?あっ!柚葉‥」

「お兄ちゃん⁈」



ベッドに上半身を起こすと、俺に抱きついてきた松塚 柚葉。

そんな柚葉は俺に抱きつきながら涙を流す。



「お兄さん‥お兄さん‥私、私、本当にここに居ていいの(涙)」

「ああ」

「お兄さんのそばに居ていいの?(涙)」

「ああ、いいよ柚葉」

「お兄さん!お兄さん!わあああーん(涙)」



松塚 柚葉は俺に抱きつきながら泣いた。

それはまるで、小さな子が泣くような感じで。

そんな柚葉を見て俺は思った。

この子は誰かに甘えたかったのではと。

親一人子一人なのに、由奈は働きすぎで体を壊した。そんな由奈には甘えられない。

だから今までずっと我慢していたんだと。

俺は「柚葉‥」と優しく言葉をかける。

そしてそんな柚葉の頭を右手て優しく撫でた。

















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