第6話 松塚 柚葉

柚葉と俺は、早朝からやっているスーパーでの買い物が終わり、スーパーの建物から出るとすぐに、



「建物から出ると、本当に暑いなあ〜」


「本当だね〜、お兄ちゃん〜」



そう言いながら、俺は荷物を右手に持ち、車が停めてある駐車場に戻るが、車内もかなりの暑さになっていて、俺はすぐにエンジンをかけ、エアコンを入れた。



「あ〜、生き返る〜」


「ほんとうだね〜、お兄ちゃん〜」


「それにしても柚葉、おかしやジュースやアイス、買いすぎじゃないか?」


「いいの♡だってお母さん、こんなにも買ってくれないし、それにお兄ちゃんとこの冷蔵庫に入れて置くから、お母さんにはバレないし♡」




柚葉はスーパーのMサイズ位のビニール袋はあろうかのエコバッグにいっぱい入った、ジュースやらお菓子を、車の助手席の足元に置いて、ご満悦な表情をしてますよ。因みに柚葉さん、このお菓子などの件、明菜さんは知っていますからね。

そう思いながら俺は車の外気温度計を見ると



「げえっ!34度!。この時間でこれでは、今日は38度はいくんじゃないのか」



俺はそう思いながら、スーパーの駐車場から車を出した。そして、フッとあの公園の女の子が気になった。



「大丈夫‥‥‥だよな。うん。これだけ暑いんだ。待っていた人と合流出来て、もう何処かに行っているだろう」



俺はそう思っていた。




◇◇◇




若葉家、つまりは翔先輩と明菜さんの所に来た松塚 由奈は、若葉家のリビングをゆっくりと見渡すと、二人には聞こえないくらいの小声でポツリと呟く。



『幸せそうな部屋‥‥‥本当なら私も‥‥‥』


「えっ?‥由奈先輩?」


「えっ、ええ。素敵なお部屋ね」



その由奈の表情から一瞬、無理に作った笑顔が消えた。

そして明菜さんに声をかけられ我に帰る由奈は、また笑顔を見せる。作り笑顔を。

それに気づかない明菜さんではない。が、今はまだ気づかないフリをしていた。

そして翔先輩がエアコンの効いたリビングのソファーへと、由奈を座るように進める。



「由奈さん、どうぞ座って下さい」


「ええ、ありがとう」


「由奈先輩、何か冷たい物だしますね」


「ありがとう‥‥‥」



明菜さんが台所に飲み物を取りに行き、由奈はソファーに腰掛けると、腰を落とし座ったせいか、安心したせいか、ほんの少し心が和む感じがした。

そして翔先輩の前で由奈の本音?がポツリと出た。今度は沈む様な表情をして。



「‥‥‥あの時、貴方の告白断ってなければ‥‥‥こんな幸せな生活が待っていたんだ‥‥‥」


「えっ‥由奈さん?」


「えっ?‥あっ、独り言よ‥」


「由奈‥さん‥」


「由奈先輩、アイスコーヒーですが、どうぞ」


「ありがとう、明菜」



由奈は明菜さんの出してくれたアイスコーヒーを一口飲むと、明菜さんと高校時代の話をしだした。



「あのころは‥‥‥」



翔先輩は二人が昔話に花を咲かせて話す姿を見て、あの由奈の重い後ろ姿、あの噂は嘘ではないのかと思えてきた。




◇◇◇




俺と柚葉はスーパーの帰りに車で公園の前を通るが、やはりこの暑さでは人は公園では遊んでなかった。

俺はあのベンチが見える位置で、いったん車を止めるとベンチの方を見た。



「居ないな。やはりもう何処かに行ったか」


「お兄ちゃん?」


「柚葉、何でもないよ。‥‥‥イッ!」



俺が柚葉に言おうとした時、左腕の古傷が急に痛み出した。何故だかわからないが今まで感じた事のない痛みが走る。



「何だ、この痛みは!」


「お兄ちゃん、大丈夫?」



心配そうに見つめる柚葉に俺は頷いた。その時、俺はベンチの方をまた見た。そしてそのベンチの直ぐ後ろにある7メートルぐらいの木の下に人の足先みたいなのが見えた。



「まさか‥‥‥柚葉!ちょっと待っていてくれ!」


「お兄ちゃんどうしたの?」


「ちょっと様子見てくる」


「様子?」



俺は車を降り、急いでベンチの直ぐ後ろにある木に行くと、俺は驚いた。

木に上半身を持たれ、まるで寝ているかのような姿勢でいた、あの朝見た女子高生がそこに居た。

しかし様子がおかしいのに気づいた俺は彼女に声を掛ける。



「おい!おい!大丈夫か!」


「‥うっ‥あっ‥あなたは‥だれ?」


「意識がもうろうしている。熱中症か!待ってろ!今救急車を呼ぶから‥‥‥えっ?」



俺はスマホを取り連絡しようとした時、彼女は俺の腕を掴むと横に小さく首を振る。



「‥やめて‥ママが‥心配する‥から」


「何言ってるんだ!早く処置しないと!」



彼女はまた小さく首を横に降る。

俺が再度同じことを言っても拒む彼女。



「だったらうちに来い!俺の家は直ぐそこだから!それならいいだろう」


「‥でも‥」


「でももへちまもない!急ぐぞ!」



俺は彼女をお姫様抱っこを使用としたが、左腕に力が入らなくて、仕方なく彼女に背を向けて、腰を落とすと、



「俺の背中におぶされ」


「‥でも‥ママが‥」


「今のままでも君のママが心配するだけだ!後のことは俺にまかせろ!」


「う、うん」



彼女は小さく頷くと、何とか俺におぶさる。

俺の背中と彼女の胸が当たる。

『この柔らかいのは‥て、なに考えているんだ!兎に角早く彼女を家に』


俺が車のとこに戻ると、助手席にいた柚葉が目を丸くして驚いていた。それはそうでしょう、俺がいきなり公園に行って戻ってきたら見知らぬ女性をおぶって戻ってきたのだから。

俺は後部座席のドアを開くと彼女を座らせると



「柚葉!、少しの間この人みといてくれ!この人の荷物持ってくるから!」


「あっ!お兄ちゃん‥‥‥」



俺は急いでまたベンチの所に行くと、彼女の荷物を取り、車へと戻った。



『‥‥‥この子‥ゆずは‥て言うんだ‥‥‥私と‥‥‥』



彼女、松塚 柚葉は朦朧もうろうとした意識の中でそう呟いた。

















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