第2話 若葉 柚葉

「ふうー、今日も暑くなりそうだな」


夏の朝早くに目が覚めた俺は、レンスの白いカーテンを開け、網戸も開けると二階の窓から外を眺めた。

近くにある小さな雑木林からは蝉の鳴き声が聞こえる。

その前の道路には、小学一年生だろうか?三、四人の子供が首からスタンプカードをぶら下げて楽しそうに歩いていく。




「この辺りでは、まだ朝のラジオ体操をしているのか」




そう思いながら、外を眺めていると窓の下から可愛らしい声で、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。下を見ると綺麗なストレートの長い髪で、上は何処かのキャラクターのテイシャツに下は赤の夏用のジャージのズボンをはいた

可愛らしい小六の女の子が居た。




フミお兄ちゃん!フミお兄ちゃん!」


「うん?‥‥‥おっ!おはよう柚葉ゆずは


「おはよう!お兄ちゃんもラジオ体操しに行かない?」


「はあ?俺なんかよりお父さんをつれていけばいいじゃないか」


「えー、お父さんいびきかいてまだ寝ているし、お兄ちゃんの方がまだましだよ。お母さんもお兄ちゃんを誘いなさいと言っていたし‥‥‥」



柚葉は少し寂しそうな表情で俺に言ってきた。



「マシってお前な、俺ももう32だぜ。ラジオ体操はいかないよ」


「えー!行こうよ!ねえ!行こうよ!」



で、二、三分こんなやり取りをしていて、結局俺が折れることになった。



「しょうがない。ちょっと着替えるから待ってな」


「うん(笑顔)」



柚葉は笑顔で返事をすると俺が来るのを待っていた。

俺は上下白のジャージに着替えると、柚葉が待つ場所に行く。



「柚葉、おまた!」


「おにちゃん♡」



柚葉は俺を見るなり、嬉しそうに俺に飛びついてきた。

しかし最近の小学六年は発育がいいかは知らないが、結構女性らしい体つきをしている。

こんな女の子に抱きつかれたら、普通はギュッと抱きしめ返したくなるが、赤ん坊のころから柚葉を知っている俺には、そんな気持ちにはなれなかった。



「あのなあ〜、それをお父さんにしたらかなり喜ぶぞ」


「え〜っ!やだ〜!だってお父さんお腹でてるし、タバコ臭いんだもん」



まあ、女の子らしい答えと言えば答えか。

この年頃の女の子は体型や匂いには敏感だからな。嫌なものは嫌とはっきり言うしな。

因みに俺の名前は、竜宮橋りゅうぐうばしフミ だ。

周りの人はフミだのブンなどと適当に言うが、フミが正解。

で、となりの可愛い女の子は若葉わかば柚葉ゆずは

俺の住むメゾネットタイプのアパート(3LDK)の隣人である。

そして、柚葉の両親は俺の中学の時からの先輩で柚葉の父親の若葉 かける35歳と、俺と同年の柚葉の母親の若葉 明菜あきな32歳である。

この二人は若いうちから結婚して(できちゃった婚)しばらくは隣町の2DKのアパートに住んでいたが、俺の叔父が今のアパートを去年立てて、俺の友人と言う事で、俺同様、先輩のとこも格安で貸してくれるとのことで、このアパートに去年の4月に引っ越してきた。

その上、柚葉の母親の明菜は実は、俺が中学の時の好きな人だった。

だが、俺が中学を卒業後に明菜とは別々の高校へ‥‥‥。

その高校時代に同じ高校だった翔先輩と付き合って、明菜が高校を卒業して一年後に妊娠、結婚、柚葉が生まれた。

その時の俺はまだ大学生で、明菜が結婚、妊娠したことにかなりショックを受けたが、相手があの翔先輩だった為、諦めがついた。


そして、俺はあるIT企業の会社に就職。そこで翔先輩と同じ開発部に所属した。


そんな 中学時代から翔先輩とは付き合いが会った俺。だから俺は柚葉とは赤ん坊の頃から知っている。

まあ、そんな柚葉は俺の事をもう一人の父親だと思っているのだろうと俺は思っていたが、後で本人に聞いたら、



「お父さんとお兄ちゃんは別!私、将来はお兄ちゃんのお嫁さんになるの♡」



なんて言ってきた。

で、当の親の翔先輩は、まあ、ありきたりな反応で、「お前には娘はやらん!」と言っていたが、母親の明菜さんは(中学時代は明菜と呼び捨てにしたが、今は翔先輩の人妻。流石に呼び捨てはと思っていたが、本人や翔先輩は呼び捨てでも良いと言っていたが)



「柚葉とフミちゃんが結婚したら、フミちゃんが私の義理の息子になるのね♡いいわねそれ♡」



なんて言ってきましたよ。

冗談か本気かはわからないですけど、かつて俺の好きだった同級生の女子が、柚葉と結婚したら義理の母親になるのかと、なにか複雑な心境の俺がいましたよ。ええ。

で、俺が柚葉にその事を言うと、柚葉は



「なんで!ねえなんでお兄ちゃん!柚葉の事嫌いなの⁈」




と、かな〜りしつこく言われました。

まあ、女の子に好かれるのは嫌な気分じゃない。寧ろ嬉しいのだが、やはり翔先輩と明菜さんの娘だから複雑な心境だ。



で、俺と柚葉がラジオ体操に行こうとした時、アパートの二階のベランダから声が。



「フミちゃ〜ん、おはよう。柚葉よろしくね」


「あっ!おはよう。わかりました」


「お兄ちゃん♡早くいこう」


「あ、ああ」



柚葉は俺の手を取ると、強引に引っ張る。仕方なく俺は柚葉に引っ張られるがままに柚葉について行く。

そんな光景を見ていた明菜さんは、



「本当に柚葉はフミちゃんの事が大好きなのね」


「‥‥‥ふあ〜っ、おはよう」


「あらおはよう、あなた今起きたの?」


「ああ‥‥‥柚葉は?」


「今、フミちゃんとラジオ体操に行ったわ」


「そうか‥‥‥しかし柚葉はあいつの事かなり気に入っているんだな」


「うふふ、そうね。ねえあなた。もし柚葉がフミちゃんと結婚したいと言ったらどうする?」


「はあ?絶対にダメだ!年が離れすぎだ!それに柚葉は俺の可愛い娘だ!」


「そうねぇ。けど柚葉の気持ちはどうかしらねー」


「うっ!に、してもだ!柚葉はやらん誰にもだ!」


「本当、親ばかね。朝食今から用意するから、あなたもラジオ体操に行ってきたら?」


「うんな面倒な事するかよ」


「はいはい」



翔先輩は少し御機嫌斜めで明菜さんに返事をすると、クスクスと笑いを抑えながら明菜さんは朝食の支度をしだした。





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