4章 Dパート 6 CMへ
つい先程まで立っていた怪人の肩がドンドンと遠くなっていく。怪人の腕から腕から指先へと、そして太もも部分。この先どうなるか、それを彼女は考えていない。
頭が真っ白のまま、地面が近づいて
「間に、あった!」
少しの衝撃。
声はすぐ耳元から聞こえてきた。
なにかが落ちてくる。
最初はその程度しかわからなかった。
高所からの落下物が人だと、あの女性だと気づいた時には宗次郎は走りだしていた。間に合うかわからない。けどもただ見ていることはできなかった。ここまで消費してきた体力をさらに削って、最後の最後で足が絡まってバランスを崩す。
「ちっくしょぉぉ!」
叫び、倒れながら前方へと跳躍。伸ばした腕は、女性を抱き寄せた。
「間に、あった!」
全身を強く撃ったことはこの際忘れた。
でも別のことを思い出した。
宗次郎の腕の中で女性は口を半開きにして辺りを見回して、まだ状況がつかめていない様子。
「大丈夫、ですか?」
抱きかかえていた女性を離す。
ペタンとおしりをつけて座り込んで女性は、恵梨香は顔につけていた仮面を外した。
状況はつかめた。
「そうか、私は……道具として使われていたのか」
あらわになった瞳からこぼれ落ちる大粒の涙。
「あいつは元から……私や父を自分の欲望のための道具にしか思っていなかったんだな……」
拭っても拭っても零れ落ちる涙。
「父の夢をかなえるための手助けをしてくれたと思っていたのに、そうしていたのは私たちだったのか……」
涙でにじむ視線が、近くに立つ宗次郎へと向けられる。
「滑稽だとは思わないか……? 世界征服を志し、娘である私にその夢を託し、死んだ父。私は……そんな父の夢を叶えたいといままで頑張ってきたんだ。
いや……そうだな。
世界征服なんて夢を持つこと自体が笑い話でしか無い。それを託す父も叶えようとしていた娘も、最初からバカだったんだ。ははっ」
自分で、自分を笑う。
「私は……数えきれないほどの罪を犯してきた。それも征服のための礎だと思ってきた。けど……こんなことになってしまった罪は死んでも償うことはできない。
だからキミも私を助けたのだろう?」
宗次郎はなにも答えない。彼女に背中を向けて、右手の先が左肩へと伸ばされる。
「違うよ」
右手の手のひらを裏返して右脇へと引き寄せる。
「オレは……恵里佳さんに生きて欲しいから、そう思ったから助けたんだ」
声をきいて、名前を呼ばれる声を聞いて恵梨香はまず自分の耳を疑った。
次に両目の涙を拭ってしっかりと、いま会話をしている少年を見た。
「そ、宗次郎くん……!」
話相手が彼だと知って、慌てて自分の顔に手を当てて自分が素顔だと気づく。
「ち、違う、こ、これは」
言い逃れることは無理だとわかっていても言わずにはいられない。
「これはその……」
「大丈夫ですよ」
右脇まで引き寄せられた右腕。左腕も同じような動作で脇まで引き寄せられてる。
その構えのまま。
「オレは、いつまでもなにがあっても、恵梨香さんの隣に立っていますから」
光が、宗次郎のベルトのバックル部分から発せられる。光はすぐに彼の体のすべてを包み込む。あまりの光量に恵里佳が目をそらすほど。
「なんで……なぜそこまでしてくれるんだ……。
私は、悪者なのだぞ」
「でもオレにとっては恵里佳さんです」
「犯罪者なんだぞ」
「知っています」
「ではなぜ……!」
光が眩しくてまだ直視することはできない。
だけど恵里佳にはいま、宗次郎が振り返っているような気がした。
「オレにとっては恵里佳さんは恵梨香さんです。尊敬をする人です。大好きな人です」
光がさらに増す。
「だから、アナタはオレが護ります」
「―――――変身ッ!」
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