ナイフを持ったカウンセラー

 『にゃぁ~』


 は、なかったわ…また俺の黒歴史ファイルの厚みが増えそうだ。あの場面、思い出しただけで頭皮から足の指先まで、むず痒くなる。毛穴という毛穴から恥汗出る。恥ずかしい!恥ずかし過ぎる!


 あれから彼女から連絡は、なかった。あれだよ!あれ!今度ご飯食べに行きましょう!みたいなもんだよ。絶対行かないけれどね。社交辞令!社交辞令ぃ!!


 挨拶みたいなものだよ。ライン交換とかもしてないし、連絡手段もないしね。二度と会うこともないだろうし、この恥記憶も海馬の短期メモリーに一時保存されて自動消去パターンだが。


 まぁひとときの良き夢でした。これは無理矢理にでもいい思い出として海馬から大脳皮質に白歴史として長期インプットしておきましょ…。


 学校から自宅のマンション713号室に帰宅した俺はリビングのソファーにダイブした。家でもぼっちだ。一人っ子という訳ではない。中2の妹がいる。…が全くもって相性が悪く会話をしない。お互い会話すると喧嘩になる事が分かっているから、極力関わらないようにしている。目が合った事も一年に一度あるかないか。リアルの妹なんて、そんな感じ。妹萌えなんてファンタジー限界突破の世界。ごめんね。夢を壊すようなサンタさんはお父さんだよみたいな空気読めない事を言って。


 でも相手をしてくれる子がいる。


 パティだ。外国人ではない。猫だ。毛の長い三毛猫のメスで、少し気が荒い。俺の腕には傷が少しある。彼女にやられたのだ。 


 カノジョをモフモフしている時だけ嫌な事を忘れさせてくれる癒し猫なのだ。制服が毛だらけになるが、かまわない。癒しタイムは絶対!しかし俺専用カウンセラーは時々爪というナイフで襲ってくるけれど。何が嫌で殺る気スイッチが入るのか、付き合いは永いが未だに分からない。


 あの時、彼女ににゃぁと言ってしまった原因でもある。家では日本語より猫語をたしなんでいるので。

 この猫はとにかく外に出たがる。そのくせ臆病でベランダに出ると、お前はほふく前進する兵隊かっ!ってツッコミたくなるぐらいのずりばいで移動している。

 今日も俺の前を歩き玄関まで誘導するパーティ。


 ピンポーン


 玄関前で丁度よくインターホンが鳴った。俺は警戒心の鬼だ。ドアスコープから鳴らした相手を確認と同じく念のためロックしていなかったサムターンを音が鳴らないようにそっと回し。チェーンロックも倒す。

(リョウコの奴!鍵を掛けないで遊びに出やがったな)

 パティは電子音に驚いて逃げました。チキン野郎(メスですが)です。


「どちら様ですか?」


小窓を覗きながら、ドア越しに、声を掛けた。


「こんにちは」


 聞き覚えのある声。澄んだ冬の空気。匂いで表現するなら薔薇の香り…忘れるはずもない。

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