第11話 そして彼女は特大パフェを平らげる。
◇◇◇◇◇
「なんかさ、もうあと三週間で修学旅行なんだね」
「ほんとね。三週間なんてあっという間だよ。たぶん」
学校終わりにかおりと駅前のカフェまで歩きながら、改めて時間の流れを感じる。
かおりが転校してきてから早いもので四か月。修学旅行が終わればあとはもう受験勉強へとまっしぐらで、高校生活と言われてイメージするような楽しそうなイベントはこれが最後といってもいいかもしれない。
「パフェ、楽しみだなぁ」
「……そうだね。そういえば修学旅行のしおり、来週までに仕上げないといけないらしいから、明日からちょっと忙しくなるよ」
「えー」
学校から十五分ほどでお目当てのカフェに到着し、店員に誘導された席に座りそんな会話をする。
内装はいかにも女子高生が好きそうな落ち着いたおしゃれな空間。男子高生の俺でも、とても居心地が良かった。
「この特製パフェをひとつとカフェオレ、それと……」
「カフェモカをひとつで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
お冷を持ってきてくれた白髪交じりの店員に注文を済まして、おしゃれな音楽とともに時間が過ぎる。
「お待たせ致しました。特製パフェ、カフェオレ、カフェモカになります。ご注文以上でよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
十分掛からないくらいで注文したパフェは運ばれてきて、俺はそのあまりの大きさに目をぎょっとさせた。
メニューで値段が二千円を超えていたのを見たときもぎょっとしたけれど、二人で食べてもお腹いっぱいになってしまうのではないかと思えるほどに大きくて高さのあるこのパフェの方がインパクトは上だ。
「こんなに大きいのに、コンフレークで
「そうなんだ」
かおりは俺に説明すると、スマホでパフェをパシャパシャと撮影し始めた。
「かおりってSNSとかやってるの?」
今まで考えてもみなかったことを、ふいに口に出す。最近の女子はこういうのをよくSNSにあげるのだと、前にテレビで言っていた気がする。
「え? うん。っていうか今どきやってない方が珍しいと思うけど。そうくんはやってないの? 今更だけど、フォローしたいからアカウント名教えてよ」
「いや、俺はやってないんだけど」
「え⁉」
かおりは信じられないといった様子で俺のスマホを取り上げて、「アプリ入れるよ?」と俺にパスワードを解かせた。
「よし! これで登録完了っと。そうくんのフォロワー第一号は私が頂きました」
「え……うん。それよりパフェ食べちゃわないと、溶けてきちゃうよ」
「ほんとだ! やばい!」
ものの数分で登録を済ませたかおりと、二人して巨大なパフェをつっつく。一番上のソフトクリームの下にはケーキっぽく生クリームとスポンジ、その下にはチョコムースといった具合に何層にも重なっていて、大量のフルーツがいたるところにちりばめられていた。
パフェ、パフェ、パフェ、コーヒー、パフェ。
パクパクとかなりのペースで食べ進めていたつもりだったが、ちょうど器のカフェモカを飲み終わってしまったところで、俺の小食な胃袋が限界を迎えた。もうパフェが腹の中でゲシュタルト崩壊しそうだ。
しかしテーブルの上に堂々と佇むパフェは、まだ半分くらい残っている。
かおりはよく食べる方だとは思うけれど、流石に女子一人でこの量を平らげるというのは――。
「そうくん、もうお腹いっぱいなの? あとは私が食べるから休んでていいよ」
「……うん」
パフェ、パフェ、パフェ、パフェ、パフェ、パフェ。
すごい勢いでかおりの口に吸い込まれていく。
何の気なしにさっきかおりがインストールしてくれたSNSを開いてかおりの投稿を確認すると、男でも完食するのがきつそうな特大ラーメンやらパスタやらの写真に溢れていた。
「かおり、これって……」
「え? あ、うん。この前食べに行った二郎系ラーメンのお店だよ。思ってたより量も少なかったけどねー」
尋ねた俺に、スプーンを動かす右手を止めることなくかおりは答える。
「す……少ない……?」
俺の顔より余裕で大きいラーメンどんぶりにたっぷりの重そうな麺、大量のもやし、そしてそれだけでもお腹がいっぱいになってしまいそうな分厚すぎるチャーシューが二切れ。
男でも躊躇するような量の写真を見て、少なかった……だと?
かおり、たくさん食べるとは思っていたけど、まさかここまでとは……。
「ふぅ……おいしかった。ごちそうさまでした!」
結局、かおりはそれからほんの数分でパフェを平らげて、満足げにお腹をさすった。
「そうくん、ごちそうさまっ」
「……うん」
満面の笑みを浮かべるかおりと一緒に、席を立ちあがる。
二人分で三千六百円。
バイトもしていない高校生にはあまりにも大きすぎる出費に懐が寒くなりつつ、俺は店を出た。
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