第56話 なぜだかお隣さんと花火大会へ行く。(2)
「――大丈夫?」
前のめりによろめいたかおりに声をかける。
「下駄、壊れちゃったみたい……」
彼女はしゃがみこんで、それから俺を見上げるようにして悲しそうに小声で言った。
「とりあえず端に寄ろうか」
「うん……」
鼻緒が切れてしまった下駄を片手で持って、ケンケンで移動しようとするかおりに肩を貸す。
「そうくん、おんぶ」
「え?」
「おんぶ!」
お祭りで気持ちが高ぶっているのか、言うことを聞かない子どものように駄々をこね始めるかおり。
「分かった。わかったよ」
仕方がないので俺はかおりに背を向けてしゃがみこんだ。
「……で、どこにいけばいいの?」
「とりあえずこのままずっと真っ直ぐ」
背中にかおりを乗っけて周囲からちらほらと視線を感じつつも、その視線から逃げるように早足で進む。
「そろそろ着く?」
「ううん、まだ。花火終わっちゃうから急いで!」
少しずつ露店が少なくなっていき、人も徐々にまばらになってきて。
息が上がってきたところで、つい最近聞いたばかりの聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
「あれ、水瀬じゃん!」
「あぁ、日向たちも来てたのか」
日向の横にいた翔くんも「どうも」と会釈をしてくる。
「うん。……水瀬、どうせだし一緒に――」
「――悪い、日向。ちょっと今急いでてさ。話ならまたあとでな!」
少し話でもと足を止めたところにおんぶしているかおりへの二人の視線を感じて、俺は急ぐように言われたことを思い出し、再び足を動かした。
「そうくん、そこ左」
「んー」
人気もすっかりなくなってきて、点滅する街灯の下で、小道を歩く足を少し緩める。
「そうくん、ここ。ここの上」
「まじか……」
もう何度目かの花火を見ながら立ち止まって、俺は茫然とかおりの指さす先を見上げた。
階段。
百段くらいあるのだろうか、ひたすらに上へと続く、幅の狭い石段だ。
「ここって、神社だっけ?」
「うん」
石段の入り口にある小さな鳥居を眺める。
言われてみれば、ここら辺に小さな神社があったかもしれない。
その程度しか知らないが、なぜだか少しだけ懐かしく感じた。
「これ、のぼるの?」
「うん。いける?」
「…………行くよ」
かおりの方に振り向いたら思いのほか近くに彼女の顔があったので、つい顔が熱くなる。
「じゃあ、お願い」
「おっしゃ!」
俺は筋肉痛になりかけている足に鞭を打って、気合いを入れて階段へと踏み出した。
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