第23話 なぜだか旧友とばったり再会する。(2)
「水瀬が藤宮とまた同じ学校でクラスメイトになるとはねぇ……」
びしょぬれになった顔と制服の首まわりをペーパータオルで拭き終えた俺に日向が言った。
もう少しくらい悪びれろよ、この女。
「またってことは、やっぱりかおりのこと覚えてるのか?」
「おいおい、私をなんだと思ってるんだよ。いくらなんでもクラスメイトのことくらい忘れないよ」
「……」
ぐうの音もでない。
かおりのこと、いまだにまったく思い出せないんですけど、俺。
「でもまあ、良かったね。中学で藤宮が転校してっちゃった次の日なんて、ショックで学校休んでたもんな、水瀬」
「はい? 記憶にないんだけど……」
「なに言ってんの。だいたい、前に私がサイザでおごってやったのだって、あまりにもあんたが落ち込んでたからだろ。ショックから立ち直って学校に来たと思ったら、目は思いっきり腫れてたし」
……まったくもって覚えていない。心当たりがこれっぽっちもない。
中学で俺が学校をさぼったことなんてなかったはずだし、日向とファミレスへ行ったのだって確か、なにか違う理由があってのことだったはずだ。それが何かは思い出せないけれど。
「……実は俺さ、かおりのこと全然覚えてないんだよね」
これ以上一人で考えてもどうにもならなそうなので、俺はいつもより真剣な口調で言った。
「はぁ⁉ 何言ってんの? あんたら小学校の頃からいつも一緒にいたじゃん!」
「だからそう言われても、まったく思い出せないんだって。思い出せないというか、小学校の頃とか中学の最初の頃の記憶がほとんどないんだよ」
「それって……記憶喪失じゃん!」
日向はさぞかし信じられないといった表情で俺を見る。
「いや、別に全部覚えていないってわけじゃないぞ? 実際お前のことだってちゃんと覚えてたし、そこまで大げさなことじゃないんだって。誰だって昔のことはそこまで覚えてないだろうしさ」
そう。
前にかおりにも話したことがあったとは思うけれど、ところどころの記憶はある。
別に俺の記憶力があまりよくないというくらいの話で、一般的に見ても特に珍しいことでもない普通の――。
「普通じゃないでしょ、それ」
「へ?」
俺の考えを遮るような日向の言葉に思わず変な声が漏れた。
「だってそうでしょ? ただのクラスメイトならともかく、あんたたち、めちゃくちゃ仲良かったし、家だって隣同士じゃん。そんな子のこと、ふつう忘れないって。私のことは覚えてるのに」
確かに。水瀬とは仲もそれなりに良かったけれど、話を聞く限りじゃあかおりと俺はずいぶん仲良しだったらしい。
いや、かおりの態度を見るに前からそうなんだろうとは思っていたけれど、いざ言われてみるとド正論だ。
かおりが転校してくるまで、俺の記憶では隣の家はずっと空き家だったけれど、それも俺の記憶の抜けだったようだ。
「他にも覚えてないことはあったりするの? もし本当にひどいようだったら病院にも行った方がいいと思うんだけど」
日向は本気で心配してくれているようで、優しい声色で俺に言う。
「それはさすがにちょっと。あ、そういえば中学最後の野球の試合、その時のことも忘れてたんだよ。なんでかは分からないけどさ。この間、急に思い出せたんだけど……」
「あー、あの試合はけっこうきつい負け方したしね。どうやって思い出したの?」
俺のエラーで逆転負けをしてしまった中学最後の試合。
思い返してみると、確か日向も応援に来てくれていた。
「なんていうか、エラーをした時と同じような状況になって、記憶がフラッシュバックした感じ……?」
「なるほど」
日向はなにかを考えるように、テーブルについた手の上に顔をのせる。
「お待たせいたしました。こちらからマルゲリータピザ、ペペロンチーノ、――」
しかし少し時間がかかって運ばれてきた料理がテーブルに並ぶと、彼女は考えることを忘れたかのように瞳を輝かせて、すごいスピードで食べ始めた。
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