後日談

恐怖のマイタケ入りチョコレート

 学校が終わり、僕は泉さんと二人でボロアパートに帰った。


「ふう、なんだか今日は疲れたよ」

「そうだね。あ、そうだ! 私、チョコレートを作ったんだけど、食べてみない?」


 泉さんが僕にチョコレートを作ってくれた?

 嬉しいな♪ 嬉しいな♪


 ん? ちょっと待てよ。


「そのチョコレートには、何を入れたの?」

「トリュフを入れたかったけれど、流石にトリュフは高価だから、代わりにマイタケを入れたよ。マイタケもトリュフと同じ『キノコ』だから、美味しいと思うよ」


 は? マイタケ? Is your head OK?君の頭は大丈夫ですか?(この英文、合ってるかな? まあ、間違っててもいっか)


 マイタケ入りチョコレート――僕は美味しそうと思えない。てか、不味そうと思う。


「あ、ごめん。僕チョコレート苦手なんだ。泉さんが僕の分も食べてよ」

「…………」


 泉さんが下を向いて黙り込んでしまった。


「泉さん?」


 僕が彼女の顔を覗き込んだその時!

 彼女の拳という名の鉄槌が、僕の顔面にめり込んだ!


「バカアァァ!」


 泉さんは仰向けに倒れている僕の耳元で叫んでから、部屋を飛び出しって行った。


 そんな彼女と入れ違いで、佐藤が部屋に入って来た。


「何だ今の? ケンカでもしたのか? それよりも、お前の顔面に赤い花が咲いているけど、大丈夫か?」

「うん大丈夫」

「そっか。そんな風に見えないけれど、大丈夫ならよかった。で、一体ここで何があったんだ?」


 僕はマイタケの話を除くボロアパートに帰ってきてからの出来事を、佐藤に話した。


「お前はバカか? 今日はバレンタインデーだぞ! 作ってもらったチョコレートを受け取らないなんて何事だ!」

「ごめんなさい」


 すっかり忘れていた。今日は、バレンタインデーだった。


「ほんと、お前はバカだよな。乙女心ってもんを分かっていない」


 ああ? 何だと?

 僕がバカだって?


 ああ、事実なのがムカつく。


「そういう佐藤はどうなんだよ」

「ボク? それ、普通女子に聞くか?」

「あ、ごめん。君女子だったね。君は少年みたいな奴だから、忘れていたよ」

「殺してくれって? うんいいよ。殺してあ・げ・る♡」

「ああああああああ! ごめんなさいごめんなさい! 僕悪い人間じゃないよ!」

「ふ~ん。人間じゃないんだね。なら君は害獣だね。駆除しなきゃ♡」




 真っ蒼になった僕は、30分ほど謝り続けて許してもらった。




「月城! 許してあげるから、チョコを受け取ってきなよ」

「は、ハイ!」


 僕は部屋をを出て、泉さんの部屋の戸を叩いた。


「あのさ、僕、チョコレートが食べたいんだ。泉さんが作ってくれたチョコレート、もらってもいいかな?」

「うん!」


 照れながら言う僕に、泉さんがピンクの紙で包まれた、ハート型のチョコレートをくれた。


 僕はそれを一口食べた。






 追記


 マイタケ入りチョコレートを食べたすぐあとに、消化器官系逆流現象が発生した。

 ついでに貧血も。




 あれ?

 今日は2月23日じゃなかったっけ?


 ……………………。


 考えないことにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る