第十八話 孤独 再び

 今日という日を振り返って、今までの自分が孤独に包まれていた事を知った。


 泉さんが、僕の孤独を取り払い、僕を支えていてくれていた事にも気づけた。


 なのに僕は、泉さんを傷付けてしまった。

 僕は――最低の酷い人間だ。



***



 バイトからアパートに帰って来た時、アパートの前に田中が立っていた。


「田中、どうしたの? こんな時間に……」

「どうしたのじゃねえだろ」


 田中は怒りをむき出しにして言った。


「どうしたの? そんなに怒って」

「お前、泉さんの隣に住んでいるんだってな」

「うん」


 何だ。羨ましいがっているのが、怒っているように見えただけか。

 しかしすぐに、僕の考えは間違っていたと分からされた。


「今、泉さんがどういう状況か分かっているか?」


 僕は首を横に振る。


「なら教えてやる。泣いていたんだよ。独りでな! さっき俺は、泉さんの部屋の前まで行って来た。その時泉さんは『ちょっと独りにして』って言ったんだ。涙声で。

 教えろ。昨日、何があった? 泉さんはお前の隣に住んでいて、お前の彼女だろ! 何があったか知っているだろ? 答えろよ」


 泉さんが、泣いていた……?

 いや、僕がんだ。


 僕は本当に酷い奴だ。

 彼女を泣かせるなんて、最低だ。


「答えろよ。何かあったんだろ? その所為で今日のお前は様子が変だったんだろ? 答えろよ」

「何故、君に教えなきゃいけない……?」

「友達だからだよ。お前と泉さんのな。だから、知りてえんだよ」


「友達だから……か」

「そうだ」

「なら、僕は君の友達を辞める。帰って」

「は? 何言って……」

「帰れ」


 僕は田中を睨みつけた。


「…………月城? おい、ちょっと待てよ! おい!」


 田中を無視して、部屋に帰る。

 後には、ポツンとと独り、田中だけが残された。


「月城……何で泣いてんだよ。何かあったなら相談しろよ……」


 彼は、友の力になれない自分の無力さを恨んだ。




 僕は、部屋に帰った後、独りで泣いた。

 親友を捨てた自分に対して、怒りを覚えながら……。



 それから、夕食も食べずに眠りについた。



***



 気が付くと朝だった。


 朝食を作ろうと思って冷蔵庫を開けたが、冷蔵庫はほとんど空だった。


 材料を買いに行きそれから朝食を作ろうかと思ったが、それでは朝食が遅くなってしまうので、お弁当を買いに行くことにした。



***



 泉さんとも来た、いつものお弁当屋さんでお弁当を購入した。


 お弁当屋さんから出ようとしたその時、店員のおばあちゃんに話しかけられた。


「今日は、彼女さんと一緒じゃないのかい? お弁当、一つでいいのかい?」

「はい。大丈夫です」


 そう言って、僕は店を出た。



***



 僕は、いつものように公園のベンチに座り、お弁当を食べている。

 泉さんと一緒にお弁当を食べた時に座ったベンチだ。


 いつもと同じお弁当のはずなのに、この前泉さんと食べたお弁当よりも、味が薄く感じる。


 泉さんとここでお弁当を食べたあの日、彼女は、屋根が欲しいと言った。

 その、まだ叶えられていない願いと同じ願いを、僕もこの公園の管理者に願う。


 雨が降っているからではない。


 ここは、木々の所為で見晴らしは悪いが、高く、広い空を見渡す事が出来る。

 要するにここは、開放感があり、広く感じ、ほぼ誰もいないという事だ。


 こんな場所に独りでいたら、おかしくなりそうだ。

 今までは平気だったのに……。


「僕は孤独に弱い人間なんだね」


 そう、自分に言った。


 広い場所に独りでいると、虚しくなる。


 だから――僕はまだ半分も食べていない弁当箱の蓋を閉じ、それを持ってアパートに向かった。



***



 僕はアパートの自室で、お弁当を急いで食べて、アパートから出た。


 この部屋の薄い壁の向こう側に、泉さんがいると思うと怖かった。


 もしも泉さんと会ってしまって、喜んでいない自分がいたら、自分が泉さんを好きだと思っていない、疑惑が肯定されてしまいそうで、怖い。


 僕を支えてくれていた彼女の事が好きではない僕。

 そんな自分を見つけてしまったら――そう思うと恐怖しかない。


 だから――急いでお弁当を食べて、アパートから離れた。


 泉さんと、会うのが怖かったから。


 僕は、そんな自分が嫌いだ。



***



 行く場所がない。


 その事に気づくまでに、アパートを出てから30分ほどかかった。


 それでも僕は、何も考えずに、歩き続ける。



***



 気が付くと、商店街にあるゲームセンターの前に立っていた。

 時間を潰すのに、ゲームセンターは最適だと思う。

 ゲームセンターに入った。



 まず、穴から這い出てくるワニたちをハンマーで叩き潰すゲームに硬貨コインを入れた。

 思いっ切りハンマーを振り上げ、ワニに体重を乗せた重い打撃を与えていく。

 ストレス発散にはなったが、得点は中の下。まあ、それでもいいだろう。



 次に、テロリストたちを拳銃で撃ち殺していくゲームをした。

 クリスマスに泉さんとプレイしたゲームだ。


 襲いかかって来るテロリストの顔が、ついさっき人間を殺して来たようで、凶悪な表情の僕に見えた。

 僕は、自分と同じ顔のテロリストたちを、一匹一匹確実に撃ち貫く。


 快感だった。


 自分の醜い部分を、少しずつ潰せているようで。



 何回コンティニューしたのか自分でも分からないが、財布の中の小銭が尽き欠けて来たので、ゲームを止め、ゲームセンターを出た。


 そして、行き先も決めずに、歩いた。



***



 僕は、映画館の鑑賞券を買うための列に並ぼうとしていた。

 僕は今、映画を見れるほどのお金を持っていない。

 慌てて映画館から離れた。



 また――何も考えずに歩き始める。



***



 帰ろう。


 そう思ったのは、日が沈み始めたころだ。


 足を止めて、ここがどこかを確認する。

 ここはクレープ屋の前だ。泉さんのお兄さんと出会い、大恥をかいた場所だ。


「あ、彩良の彼氏じゃねーか。こんな所で何してるんだ? 彩良はどうした?」


 僕に話しかけて来たのは泉さんのお兄さんだ。

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