サンタがくれた 君との思い出

フカミリン

君と僕と冬

一章 サンタからのプレゼント!?

第一話 独りぼっちのクリスマスイブ

「ねえ、サンタさん。

 あなたは、本当にいるのですか?」


 アパートのベランダから、よく晴れた真冬の空に問いかける。


 返事は無い。

 あったら怖い。


 自分の事がおかしいと思う。

 なぜこんな質問をしたのか、自分でも分からなかった。


 だが、もしもこの世にサンタがいるとしたら、サンタにもらいたいものがある。

 それは彼女だ。


「いくらサンタでも、人間をプレゼントすることはできないか……」


 僕は床の上に脱ぎ捨てていたコートを着て、玄関から外に出た。

 外は晴れているのに、体が凍り付きそうなほど寒い。それでも僕は、近くの商店街に向かった。



***



 今日がクリスマスイブだからだろうか?

 商店街は人ごみだ。


 僕の学校の先生なら「見よ! 人がゴミのようだ!」と、叫んでそうだ。

 自覚症状はないらしいが、僕の先生は『中二病』という不治の病に侵されている。

 先生の頭の中には、ファンタジックな世界が広がっているのだろう。


 勘違いされたくないので言うが、僕は中二病が悪いと思っていない。


 自分で言うのも変かもしれないが、僕だって中二病だし、中二病のおかげでこの世に『ファンタジー』が存在していると考えている。



 そんなことを考えながら、僕はお気に入りのお弁当屋さんへと向かう。


 今日のお弁当屋さんに『ハンバーグ弁当』はなっかった。

 ハンバーグ弁当とは、週に一度は購入している、僕の好物だ。


 いつもある物がなくなっていたので、心にぽっかりと穴が開いた気がする。


 日本人の大多数が「弁当程度で大げさだ」と思うだろう。

 僕もそう思う。


 いつもハンバーグ弁当が置いてある場所に『クリスマスチキン詰め合わせ』と書いている箱がある。

 クリスマス限定の特別メニューだ。


「これください」

 僕は店員のおばあちゃんに箱を渡す。


「ああ、今日も来てくれたのかい? いつもありがとうね。700円だよ」

「はい」


 そう言って千円札を渡した。


「はい、どうぞ」


 お釣りは五十円玉が6枚。

 きっと、百円玉が無かったのだろう。

 少し重くなった財布をズボンのポケットにしまい、店を出ようとした時、おばあちゃんに呼び止められた。


「これ、渡すの忘れていたよ」


 おばあちゃんから『クリスマス福引券』と書かれているチケットを受け取った。


「今日と明日、福引をやっているから」

「うん」


 僕は店を出て、福引会場に向かった。



 その後立ち寄った福引会場には、凄い人だかりができている。

 僕は福引の列に並び、自分の順番が来るのを待つ間に、景品一覧を見た。


 一等 『靴下型寝袋』

 二等 『クリスマスケーキ』

 三等 『金券五千円分』

 四等 『お菓子詰め合わせ』

 五等 『ポケットティッシュ』


 みんな、三等の金券五千円分を求めてここにいるのだろう。

 一等や二等はいらないが、金券五千円分は魅力的だ。


 五千円あれば、欲しいゲームが買える!

 ああ、神様、どうか僕に金券五千円分をお恵みください!


 いるかいないかも分からない神に祈っていると、自分の順番がやって来た。

 無駄にテンションが高い、サンタの仮装をした中年の男に福引券を渡し、福引の台(名前は知らない)を回した。


 二週ほど回したが、玉は出ない。

 中で玉が詰まっているのだろうか?


 それでも回し続けると、係の人に声をかけられた。


「逆ですよ」

「え?」

「回す向きが、逆ですよ」

「…………」


 自分の顔がリンゴのように赤くなっているという事が、自分でも嫌というほどよく分かる。


 僕は正しい向きにハンドルを回した。

 すると、中から玉が出てきて、やかましいほどにベルが鳴り響く。

 出て来た玉の色は金。一等だ。


「おめでとうございます! 一等『靴下型寝袋』です!」


 僕は紙袋に入った寝袋を渡された。

 クリスマスで飾る、赤い靴下を模した寝袋だ。


 これを何に使えと言うのだろう。

 僕はキャンプが嫌いだ。寝袋を使う事はない。だから寝袋はいらない。


 金券五千円分。欲しかった。

 そう思いながら、帰路につく。



***



 帰り道の途中、雑草だらけの小さな空き地に、薄汚い段ボール箱が置かれているのを見つけた。

 その中から、カサカサと物音が聞こえる。


 何が入っているのか気になったので、僕は箱を開けた。

 中には黒猫がいた。まだ幼い、小さな子猫だ。その子猫が、曇りのない金色の瞳で僕を見つめている。


 可愛い。本当に可愛い。

 とても可愛い存在は、人の語彙力を低下させると、誰かが言っていた事を思い出した。

 その誰かに言われたときは、言葉の意味を理解する事が出来なかったが、今は理解できる。


 この猫を連れて帰りたいが、僕はペット禁止のアパートに住んでいるから、それはできない。


「ごめんね……」


 僕は見なかった事にして、立ち去ろうと思った。


 僕がこの子を拾わなくても、他の誰かが拾ってくれる。と、自分に言い聞かせる。


 僕は、猫に背を向けた。

 その時、猫が寂しそうに鳴いた。


 無視しようと思えば思うほど、胸が締め付けられるように苦しくなった。


「…………」


 結局猫を拾う事にした。

 だが、アパートには連れて帰れない。


 なので、学校の先生の家に猫を届けることにした。幸い先生の家は近くだ。


 僕は先生の家に向かった。




 先生は留守だった。

 段ボール箱に持っていたペンで『あなたが拾わないと死にますよ』と書き、玄関の前に置いた。


「じゃあね」


 そう言い残して、アパートに帰る。



***



 僕が住んでいるアパートの前に、引っ越し業者のトラックが止まっていた。


 誰かが、引っ越してきたのだろうか?

 だとしたら、引っ越してくるのは僕のお隣さんだ。


 このアパートは二階建てで、部屋は全部で4部屋。

 今空室なのは、僕の201号室の隣の202号室だけだ。


 引っ越して来たの人が、可愛い女の子だったらいいな。


 まだ見ぬ住民の姿を妄想しながら、自分の部屋に入る。

 来ていたコートを脱ぎ捨て、暖房のスイッチとテレビの電源をつけた。


 それからは、テレビゲームをしたり、アニメを見たりして過ごした。


 クリスマスイブに独りって、寂しいな。

 誰かが、僕と一緒にいてくれたらな……。


 クリスマスイブの夜に独りでゲームをしていると、孤独感に押しつぶされそうな気がしたので、今日は寝ることにした。


 今日は、靴下型寝袋で寝ようと思う。

 床に散乱している物を壁の方にどけ、靴下型寝袋を開封し、床に広げて気づいた。

 この寝袋が僕には少し小さいという事に。


 僕は押入れから布団を取り出し、寝袋を置く予定だった場所に布団を敷く。

 寝袋をたたむのが面倒だったので、寝袋は布団の横に置いた。



「ねえ、サンタさん。あなたは本当にいるのですか?

 もし、あなたがいるのなら、僕に彼女をください」



 そう願いながら、睡魔に身をゆだねた。



***



 どこからか激しい音楽が聞こえる。このアパートに住んでいる誰かが、音楽を聞いているようだ。

 そのせいで僕は、もっと寝ていたかったのに目が覚めてしまった。

 もう少し寝ていたかったが、僕は起きる事にした。


 そしてふと、窓の外を見た。外では、朝日が昇り始めている。

 今何時だろう?

 時間を確認するために、近くにあるはずのスマホを探す。


 そして気付いた。

 すぐ横の寝袋の中に何かが入っていることに。


「何だ?」


 僕は寝袋の中を覗いて、声にならない悲鳴を上げた。


 寝袋の中には、気持ちよさそうに眠る美少女がいたのだ。


 もう一度言う。

 靴下型寝袋の中に可愛らしい少女がいるのだ。


「この子だれ?」


 サンタさんが、僕に彼女をくれたのだろうか?

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