8-10 仙崎彩音、「木」の隣に「立」って「見」る、で、親と読む


 ある日の日曜日、今日は夜から深夜ラジオの収録がある以外はオフ。本当なら夕方すぎまで眠ってから、ゆっくり行動を始めようと思ってたけど、なんとあの晶子ちゃんがデートに行くなんて誠から聞かされて、コーディネートまでお願いされたら、姉として一肌脱ぐしかない。


 ついでに、せっかく早起きしたもんだから、柚有子を誘って、前々から気になっていたお店に、ランチのお誘い。そのあとは買い物でも、と思っていたけど――


「どうしたんですか、彩音さん。急にそわそわして」


 本当ならもっと味わって、食後のデザートもしっかり食べて、優雅なランチタイムを過ごしたかったのに、急いで胃に料理を流し込んで、柚有子を急かして私たちはお店を出た。


 それから、お店の窓からは死角になるところに移動してから一息入れ、


「……妹が、男の子とデートしてた……」

「妹さん、っていうと佳純ちゃん、ではないですよね?」

「たぶん、柚有子は会ったことないと思うけど、晶子ちゃんっていう、今年大学院生の妹がいてさ。その子、まあ言うならむかしのあたしよりももうちょっと愛想悪い感じの子でさ」

「もしかして、あそこの角の席のカップルですか?そんなふうには見えなかったですけどね」

「いやまぁ、実はデートするっていうのは知ってたんだけどさ。服決めてあげたのもあたしだし。でも、まさかデートコースが被るなんて思ってないじゃん!」

「それで、妹さんのデートの邪魔をしないように急いで出てきたと?」

「というよりも、あの子があんなに楽しそうに話してるところ初めて見たから、なんか気持ち悪くって」

「ひどい言い様ですね」

「事実だししょうがないじゃん!なんか、身内の女の部分見るのって、ちょっとイヤじゃない?」

「まあ、言い分は分かりますが……」


 深呼吸ひとつ、誠に連絡する。すぐに繋がった電話越しでは、さすがの誠も想定外だったみたいで、本当に気の抜けた声をしていた。


 というよりも、誠は誠で、相当のショックを受けてるんじゃなかろうか。それこそ、ほかの三人に比べて晶子ちゃんを特別に可愛がっていた訳だから、彼女の変わりぶりに対する衝撃はひとしおに違いない。


「それにしても、晶子ちゃんにも、ついに彼氏かぁ……」


 対面に座っていた彼とはどのような経緯があったのか与り知るよしもないけれど(たぶん、大学の同じ学生だろう)、学生カップルということも加味しても、お似合いという感じだ。


「…………」

「どうしたんですか、彩音さん」


 我ながら慎みのないことではあるが、さっきの自分の発言とは矛盾するようではあるが、むくむくととある感情が胸の奥底から湧いて出てくる。


「ごめん柚有子、後の予定、キャンセルしていい?」

「彩音さん、まさか……」

「いや、違うのよ?ただ、初めてのデートの服装も姉任せのかわいい妹が心配なだけでね?」


 誠の方は、確か機材を使ってふたりの様子を、耳で見守ると今朝言っていた。ならば私は、目で観察しよう。


 隣で、柚有子の盛大な溜め息が聞こえた気がした。

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