†魔法使い† は譲らない ~最強 “俺様” 冒険者は “嫁” 聖女と契り、現実世界を無双する~

雨後の筍

断片

3年前はよかった

「悪ぃ、アタシ死んだ!」


一人はやって前に出たアホに火炎ブレスが直撃し、土煙が立ち込めた。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


赫龍の最期の力を振り絞った威厳すら感じる咆哮が響く。


煙の向こうで火に照らされ揺らめくシルエットは、今にも死にそうとは思えないほどにおどろおどろしい。


一緒にふざけた鳴き声も聞こえてきたが、断末魔にしては気が抜けすぎている。


この死地において、よくもまぁそんな余裕があったもんだ。


「ふざけてる余裕があるならもっと真面目に戦え! このアホ娘! 生き返った後にもう一度殺してやるかんな!」


ブレスで前衛の陣形をまんまと崩した赫龍は、最期の足搔きとばかりに苛烈な爪撃を残りの前衛陣に叩きつけ始めた。


これくらいでどうにかなる柔なやつらではないが、カバーする俺への負担が増えるだろうがっ!


へいととって。やくめでしょ。


とりあえず、黒焦げになって吹き飛んできたアホ娘をヒーラーの方へと魔法で運ぶ。


「あの、カケルさん。僕、もう一度殺し直すために治してるわけじゃないんですけど……あ、すいません、僕は黙って回復だけしてます……『聖女の手ホーリィヒール』……」


余計なことを言い始めたヒーラーを視線で黙らせる。


バカはっ、一度死んだくらいじゃっ、治らねぇんだよっ!


どうして一人で勝手に突撃してボロカスにされるヤツの肩をもたにゃならんのじゃ。


俺がせっかく魔法で火力出してやってるんだから、タイミングくらい合わせろってんだ。


いくらあと少しでこのクソボスをたおせるっつったって、功を焦りやがって……。


「いやー。メンゴメンゴ!」


「ちっ、復活しやがったか」


「せっかく生き返ったのにひどくなーい!? アタシがいないと火力不足でしょー?」


 悔しいがそれはその通りだ。


 前衛で一番火力の出せる『剣聖』と、後衛で一番火力を出す『魔法使い』である俺がさぼっている現状。


 弱り切っているはずの赫龍に未だとどめをさせていないのだから。


 それもこれも、このアホ娘が突っ走ったせいだと理解しているのだろうか……。


 理解してねぇんだろうなぁ。


 怒っても仕方がねぇよなぁ。目の前の問題を片付けるのを先にするか。


「まぁ、いい。詠唱を始める。今度は合わせろよ、レン」


「ンフフ! 共同作業だねぇカー君!」


 俺は愛杖『ユグドラシル』を掲げ、レンが愛刀『祢々切丸ねねきりまる』を構える。


 見据えるは、未だ暴虐の限りを尽くす赫龍のそのアギト


 俺の背後に曼荼羅まんだらの如く魔法陣が展開されると同時、一陣の風と化したレンが赫龍の首筋へと迫らんとする。


「グルルルウウウウウゥウウウウウウウウウ!?」


 赫龍が、先ほど蹴散らしたはずの獲物の再度の突撃に驚愕の叫びをあげるが、今更そんなもので俺たちは止まらない。


「落ちよ、墜ちよ、堕ちよ。終末の喇叭らっぱの声を聴け。神狼の牙はすぐそこに。黄昏は滅びを待つ」


「ねねちゃんいっくよー!!」


 前衛組が赫龍に一瞬の隙をつくる。お膳立ては完璧ってか。後で礼を言わないとな。


 レンの一閃が、赫龍の首で一枚だけ色の違う鱗――逆鱗へと突き刺さる。


「クゥアウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「九界は尽く炎滅し、我らただその別れを穿つのみ」


 痛みにき叫ぶそのけだものに少しの憐れみをのせて、俺は詠唱を完了させた。


 レンが遠くでウインクをしている。その余裕でもう一撃くらい入れとけってんだアホ娘が。


 まぁ、もう赫龍には反撃する気力すらないだろうが……。


 俺ら『はじまりの冒険者』22人がかりでこれだけ手こずらせたんだ。


 お前の強さ、忘れはしないよ。


 じゃあな赫龍、せめて安らかに眠れ。


「気高く果てろ、『|神滅浄炎《ラグナロク』!!!」


 その日、世界初のSS難度指定ダンジョンが完全攻略され、大ダンジョン時代が希望の産声をあげた。






 唐突に日本を皮切りに世界中にダンジョンが現れるようになり、世間を騒がせたのは今から3年前。


 今となっては冒険者が職業選択の1つとして認知され始めているが、当時その脅威に立ち向かえる人間は一握りもいなかった。


 各国が軍隊を派遣して、重火器がダンジョンに潜む『魔物』たちに効果がないことを確認していたのとほぼ同タイミング。


 俺たちは目覚めた。


 ところで、ダンジョンに入れば誰でも『ジョブ』を授けられることは、今なら小学生でも知っている常識だ。


 その人の適正、望みを『誰か』が汲み上げて、ジョブシステムの歯車として登録する。


 剣道をやっていたなら『剣士』、薬剤師をやっているなら『薬師』。


 そして、魔法に憧れていたら『魔術師』だ。


 まるで、のやる所業だが、神に哀れまれるほど安い生き方はしていない。


 どうせ、どっかの上位存在の戯れだろう。そのうち俺を舐めたことを後悔させてやるつもりだ。


 お前がどう思っているか知らないが、俺の牙は届きうるぞ。


 というわけで、唐突ですがここでクエスチョン。


 『ジョブ』の仕様について、誰にも教わらずに確信するようなバカは、世界にどれだけいる?


 不慮の事故で足を踏み入れたか、調査のために侵入した軍隊諸君しかその存在を知らなかった時分に。


 まだ何も情報が明かされていない、ライオンよりも凶暴な猛獣がアホほどたくさん棲んでいるってことしか分かってないその穴倉の中に。


 自分は『魔法』を使えるようになるから武器なんていらないな、と確かな理性と狂信をもって踏み入れるやつが。


 なんかダンジョンっぽいこの穴に入れば、使と確信して、妄想にじゅんじることができるやつがどれだけいる?


 3年前の混乱期、そうやって根拠のない自信だけで一発勝負ファーストアタックにおいてダンジョンを完全攻略し、潰した人数・22人。


 それが『はじまりの冒険者』と後に呼ばれることになる、22人の超特級のエゴイストたちの正体だ。


 誰もが我を通すことにしか興味がなくて、一人残らず力を持て余していた、生粋の常識破りの破綻者たち。


 各々がその生きざまを表す『ユニークジョブ』をその身に宿した、黎明期にのみ存在した伝説のレイドパーティ。


 その伝説は、未だ1例しか存在を認められていないSS難度指定を受けたダンジョン「大阪―梅田駅地下ダンジョン」の完全攻略をもって終わりを迎えた。


 後に残ったのは、一時の脚光と、強すぎる力に扱いづらすぎる性格の合わさった社会性0のモンスターが22匹。


 そんなモンスターの1匹である俺は、今日も新入りたちに煙たがられながらダンジョンを攻略し、酒場でサンマの塩焼きをつついてエールを流し込むのだった。


「伝説って? ああ! それって『はじまりの冒険者』?」


 大層な呼び名も、今となっちゃあ酒代の足しにもなりゃしない。


「英雄? 勇者? そんな称号に意味なんかあるかよ。今の俺のざまを見てから言ってくれ。万年ソロの寂れた冒険者さ! このまま中年になりそうな勢いだな」


 たまに話しかけてくる有望そうな後輩君たちも、出会って少しすれば遠巻きにヒソヒソ話をするばかり。


 二度と俺に笑顔で話しかけてはくれないのだ。


「うん? じゃあ『魔法使い』の二つ名が欲しい? え、賢者の『ジョブ』を取得したのか!? すごいじゃないか! それで、次にステップアップするなら『魔法使い』しかありえない、と。まぁ、君にも何か事情があるんだろう? それでも……」


 それでも。


 どれだけ馬鹿にされようと。


 どれだけ人として落ちぶれたとしても。


「『魔法使い』は譲れない」

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