第28話「勧誘」


 使い魔召喚を私達のクラスが行ってから数日が過ぎた。


 私達が終わった後、他のクラスでも使い魔召喚がその日のうちに行われ、精霊と契約した生徒が殆どになり、また失敗した生徒も少なからず出てくる。


 それは、元々魔力の少ない子だったり、精霊や使い魔が反応を示さなかったりと様々な要因があったが、結果は結果。


 だが、その結果の行き先が悪かった。


 そうした生徒は殆どが平民だった為、いつしか一部の貴族の中では精霊と召喚獣と契約した者と契約が出来なかった者で『優等生』と『劣等生』の二つに分類分けされるようになっていた。


 中間が無い事が貴族らしいというかなんというかという感じだが、リンダ先生が言うには貴族が多く通うこの魔法学園では互いの扱いに格差が出るのは毎年の事で、その中でも、平民と同じが気に食わないというプライドが多い貴族が多い為にこんな事になるのだとか。


 まぁ、そんな貴族達が多く在籍するのが魔術執行会らしいが、そこは割愛。


 どうも、その会は良くない噂と多々問題を起こす為か、総務会と度々いざこざを起こしている事だけは聞いたけど。


 しかし、そんな事が行われている間にも授業は進み、精霊や召喚獣を詳しく知るため、精霊や召喚獣と心を通わせる授業や戦闘で取り入れた訓練も行われる様になる。


 魔法学園のシステム上、多くの生徒の状況により教育方針を変えざるを得ないというのが現状らしい。


 だが、精霊と召喚主との連携は鍛えれば鍛えるほどに色々な攻撃手段を得る為、生徒達は急速に腕を上達させ、更なる力の差が出来てしまったのは仕方の無い事なのだろう。


 その中で、一際目を引いていたのが、ビクトリアとクアン、ミリアの三人だ。


 ビクトリアは魔力を使う召喚獣————ウラヌスと魔力をほとんど使わない攻撃手段を持つ錬金術では、かなり相性が良かったようで、メキメキと強くなり、自身がオリジンだと言う事を早々に喋ってしまったからか、しょっちゅう生徒達から戦闘を挑まれるようになった。


 その中で私に負けた一敗から負け無しなのは誇ってもいいだろう。


 クアンの場合は、得意属性は炎であるが、それはあの炎の獅子—————ラトラと互いに炎の力を強め合うという力技で他者を完膚なきまでに圧倒する。加えて炎の魔剣も所持している事から、一度クアンが他の生徒に戦闘を仕掛けられた時も相手が哀れになる程に徹底的に叩き潰した。


 その内容は散々で、肌が焼ける様な熱さに近寄ることすら出来ず、もしそれを耐えて剣を振るったとしても、剣等の鉄はあまりの高温に溶解する為に近接攻撃は灰塵かいじんし。


 かと言って、魔法による遠隔攻撃は形を自由に変える分厚い炎壁で防がれ、離れれば巨大な炎の槍が頭上と側面、そして真正面から何百も降ってくる。


 空いているのは後方のみ。


 けれど、そこへと走って行けば待ち構えていたラトラが雄叫びを上げて魔法を放ってくるのだから悲鳴も上げるのも無理はないのだろう。


 ミリアはあまり人前で実力を出す事はしないタイプだが、私と模擬戦をした時の彼女は光魔法とクゥの闇魔法を巧みに使い分け、幻術や状態異常、結界にと多種多様な攻撃手段を手に入れたせいか、とても面白い事になっている。


 私とクアン、ビクトリアと戦いを挑まれる中で一番相手に恐怖を植え付け、それを周囲にまで散乱させて怖がらせるのはミリアのみだろう。


 そして、そんな三人は今私の前で倒れているわけだが。


「ハァー、ハァー……、全く、敵いませんわね。あの時は本気では無かったとうのですか……」

「なんで、あのタイミングからの攻撃を見ずに防げるのよ……」

「二人とも、回復魔法掛かるからジッとしててね」

「ありがとう、ミリア」

「助かりますわ」


 以前と比べて強くなったとは言え、まだまだ改善点は無いわけではない。


 ビクトリアの場合は攻撃をウラヌスに任せている為に、倒された場合どうするかで若干のもたつきと連携に乱れが見られるし、クアンの場合は氷や水属性と相性が圧倒的に悪く、相手がその属性を使うと不利になる。


 それが並の魔導師なら力技でどうにかするのだろうが、相手が格上だった場合、そうはいかない。


 そして、ミリアは言わば防御、支援、攻撃と全てを沙汰無くこなす万能型。


 それはパーティーに入れば互い稀なる実力を発揮し、どこのパーティーからも引っ張りだこな人材。


 でも、言ってしまえば、どれも決定打に欠ける。


 確かに今の実力でも私以外では十分に通じるのだろう。


 が、彼女達が三人で! 私抜きで! 密かに決めた目標はどうやら私を倒す事らしいので、それではまだ倒される訳にはいかない!


 誰が倒れてやるもんかっ!


 今日は週末という事で、久しぶりに学園はお休み。


 そんな日にビクトリアとリィナが屋敷に遊びに来るという事で来ていたのだが、一時間と経たずに模擬戦へと移っていたというのが、現在の経緯だ。


 そして、リィナは来た直後にアミル達に強制連行されているので今日は会ってもない。


 そして、使い魔召喚があった日から何かとアミルとよく居る。


 メイも時折手伝ってはいるみたいだけど、二人とも居なくなると私の世話を見れなくなるとかで、いつもは必ず一人は私の側に張り付いているが、今日はミリアがその役割を奪い取った形だ。


 そして、当のリィナが会う度にげっそりしているので、見てみないフリをするのも忘れてない。


 というわけで、精霊に詳しいメイとアミルの二人がリィナの対処に当たってはいるが、私がどんな事をしているのか聞こうにも内緒にされるので、ビクトリア達と遊んでいたわけである。


「もう一度ですわ、ラウ!」

「それは良いんだけど」

「何か用事ですの? あるなら、明日でも構いませんが」


 すると、体力を回復したビクトリアがよろよろと歩いてきた。


「ん~、あると言えば、アレに向けて皆を鍛える事ぐらいかな?」


 アレとは、先日発表された新入生部隊対抗試合である。


 二人以上でパーティーを組み、最大二十五人パーティーで行われるバトロワ戦。


 最大二十五人パーティーを全チームが作ったとしても三十二チームあるという大規模な試合だ。


 最大人数がそれだけ多いのは、気難しい貴族の子息達を集めるのが難しい為に最大人数まで届かない事が多々ある為。


 リーダーに求められるのは仲間を惹きつけるカリスマ性と確固としたリーダーシップと誰よりも強い実力。


 魔法学園のあまりに広大過ぎる敷地内に存在する森林と迷宮、遺跡等で行われるそれは、魔物も平然と存在する。


 万が一が存在しない為に徹底的に安全対策はとられており、長い歴史の中で今まで負傷者は出ても、死者は出ていないと言う。


 無論、参加は任意だが、新入生の最初の大舞台だからか、各国から多くの貴族が見に訪れ、大会の様子は魔法国全土で観られる様に魔導具へ転写される為にほぼ全員という人数が参加する。


 つまり、活躍すればそれだけ貴族との婚約話や顔と名前を覚えてもらえ、学園を卒業した際に商団などへスカウトされる事もある。


 だが、失態を晒せば良い恥差しとなるわけだ。


 期限は今日から三日後まで。


 それまでに総務会に出場書類を提出しなくてはならないのだが――――


「あぁ、対抗戦ですの。そう言えば、リンダ先生が言ってましたわね」

「というより、まさかあんなルールがあるとはね。あの時のラウの顔は忘れられないわ」

「オリジンの一位のみ、他のオリジンと組めないなら仕方無いんじゃない? というより、中々厳しいよね」


 そうなのだ。


 当初は私、ミリア、クアンの三人で組み、後からビクトリアやリィナを加えようと計画を練っていたのだが、話を詳しく聞くとオリジンの一位――――エーナは他のオリジンと組む事も出来ず、パーティに出来るのは一人のみ。


 言ってしまえば、それだけ優遇しているのだから他者より圧倒的な結果を残せと言うことなのだろう。


 だが、他のオリジン達も何のかせが無いわけでも無い。


 オリジン二位から下はパーティー内にオリジン同士を入れる事が出来るが、入れる場合はオリジン一人当り、生徒五人の戦力を見なす。


 つまり、最大でも二十五人パーティーの戦力にしようと思ったなら、オリジン五人は入れられる。


 だが、通常、そんな事は滅多に起きないらしい。


 只でさえ、自分こそが強いと思っているオリジンの中で彼等を一つのパーティーに押し込め、共闘させるには従わせ、纏める力がいる。


 今までで、それが出来たのは総務会の現会長――――ユリア・フォードロヴァナただ一人だけ。


 そんな事だから、私の計画はすぐに頓挫した訳である。


「はぁ……、だってまさかエーナになるとオリジン同士が組めないとか思わないじゃん」

「でも、ラウがいつも言っている強い人と戦いたいっていうのは叶うわよ?」

「……確かに。因みに、クアン達はどうするの?」

「私達は三人でパーティーを組むわよ?」

「なっ!?」

「ズルいとか思わないでよ? 仕方無いじゃない、そういうルールなんだから」

「リィナも誘ったんだけどね」

「全力の拒否だったわ」


 その時、疲れた様子のリィナがメイ達に連れられて帰ってきたが、その後ろに見知らぬ女子生徒ともう一人、見覚えのある顔がある事に気付く。


「つ、疲れましたぁ……」

「貴女、いつもあんな無茶苦茶な事をしているのですか?」

「今日はまだマシな方ですよぉ、いつもなら……口にするだけで恐ろしい」

「あ、貴女も大変ですね……」

「へぇ〜、ここがラウちゃんの屋敷なのね。それに、こんな美人さん二人も……もしかして、ラウちゃんって王族の人か何か?」

「あっ、ラウちゃんー! やっと、癒しに逢えましたぁ!」

「えっ、あぷっ!」


 私を見つけるや否や、突如として走り寄ってきたリィナに抱きしめられ、その豊満すぎる程に育った胸に顔を埋めた。


「あ〜、癒されますぅ。何でこんなに可愛んですかぁ?」

「ぷはっ! ちょっと、リィナ。テンションおかしいよ? ちゃんと寝てる?」

「あははー、何のことですかぁ? ちゃんと昨日だって…………あれ?」

「今すぐ寝てきなさい!」

「それと、リィナ。いい加減、ラウ様から離れなさい。それ以上やるなら容赦はしませんよ?」

「ラウ様は私達のなんだからっ!」

「ひぃぃ!」

「えっ、うぎゅ!」


 直後にリィナの胸から救出されては、今度はアミルの胸へと移る。


 柔らかさと共に私と同じ匂いがする。


 同じ屋敷で住んでるんだし、当たり前か。


 アミルの胸から顔を離し、代わりにアミルの両腕を私を抱き締める形へ移動させながら、歩いてきた女子生徒二人へと視線を向けた。


「えっへへ〜、ラウ様〜! スーハースーハー」

「それでリィナ、その人は? 知り合い? 一人は知ってるけど」


 デレデレなアミルはいつも通りなので、置いといて、先に二人を紹介してもらおう。


 それで声を掛けたのだが、忘れていたのか、「そうでしたぁ!」と声を上げると、女子生徒へと視線を向けた。


「こんにちは、ラウちゃん。久しぶりかな? あの時はありがとうね」


 開口一番、挨拶したのは以前私が入学試験の時に出会ったレシャさん。


 一学年上の中等部に在籍している美人お姉さんだ。


 そして、もう一人。


「私は初めてとなりますね。私の名前はアーキス・ボスカン。アーキスとでも呼んでください」

 

 薄暗い色のショートヘアにキリッとした鋭い瞳。


 よほど体の体幹がしっかりしているのだろう、立ち姿もキチンとしており、全くぶれる事がない。


 なんだか、凄い出来る雰囲気がビシビシと感じられる人が来たと思っていると—————


「まず最初に、我が総務会に在籍する書記担当、レシャ・ペルシュキナを助けて頂いたようで、感謝をここで述べさせて頂きます。それと、私達がここに来たのはラウ・ベルクリーノ並びにミリア、クアン・リンライト。以上三名を我が総務会に勧誘しに来たのです」

「えっ!? レシャさん、総務会の人だったの?」

「ごめんなさい。あの時は入学試験当日って事もあって、学園側に干渉出来る総務会所属って事を話すと自分が合格出来る様に賄賂を渡す生徒がいるから入学前には言う事を禁止されてたの」


 以前、レシャさんが言った様な出来事が多く起こり、学園入学前に問題の生徒同士が賄賂を通じて共犯関係にあったとして摘発されたそうだ。


 しかし、前例が出来れば裏でやる生徒が出て来る。


 その為、試験は主に総務会等の三会が担当する事になり、総務会は以前の様な事が起こらない様に先程の規則を作ったのだとか。


 しかし、今でも密かに行われているという噂は消えてはいない。


「それで、なんで私達?」

「簡単に言えば、私達が所属している会長がそれを望んだのです。貴女達の元へはもっと早くに行くつもりだったのですが……、いえ、これ以上言っても仕方ありませんか」


 私には、そのほんの一瞬、若干の苛立ちを他の誰かに向けた様に見えた。


 だが、その数瞬後にはキリッとした彼女に戻っており、「そうですね。此方から提示するのは総務会への勧誘ですが、それに伴って貴女達に利点も提示しましょう」と続ける。


「聞けば、貴女達は戦闘が好きなのだと……どうやら、違うようですね」

「ん?」


 私達を見た後に、なんで、私個人へ視線を寄越したのか謎だけど……まぁ、いいや。


「では、どうしましょうか。……そうですね、いきなり総務会に入るというのもアレでしょうし、試しに数日入ってみるというのはどうでしょう? 無論、無理にという話ではありません」

「ちなみに、どんなことやるの?」

「詳しい事は引き受けてくださった時に纏めてお話ししますが、簡単に言えば、主な業務は生徒からの意見に対する対応やトラブル処理、試験官等。無論、迷宮や敷地内で生徒に手の負えない魔物が出現した場合、その処理も含まれます」


 一般的に魔法学園の迷宮は、この学園内に存在する二つの迷宮の事を指すが、ルカシャさんに言わせれば本当は三つ存在するのだと言う。


 そして、それは長らく封鎖されているため、普通の生徒達は二つの迷宮しか知らない。


 だが、その最後の迷宮に総務会は優先して入れるのだという。


「じゃあ、その迷宮に入れたりとかは?」

「えぇ、可能ですよ。実力は我が会長が体験済みなので文句も特に無いでしょう」

「なら、やる!」


 結局の所、最後の迷宮に興味を惹かれた訳だが、同時に迷宮内にどんなのがいるのかも気になっている。


 それに、一般の生徒が入れないとなると


 魔物を倒した際に出る魔石も売ればお金になるし、その分、他の事にお金を回す余裕が出来る。


 そんな事を考えていると、クアンとミリアも私に続いて了承し、お試し期間が終了したら、入るか否かを決めるという事になったのだった。


「では、最初という事もありますから、一番初めの迷宮『カリスの迷宮』へと行きましょうか」

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