第16話 勇者登場



 数日前

 とある王城にて、緊急会議が行われていた。

 その内容は、南部の町に強大な魔の者の力があり、その対処について話し合っていた。


 そのことに気づき、王城へ報告したのは教会だった。その教会は、女神ボス―メナを信仰する国教の教会で、感知能力にたけた聖女が所属している。今回のこともその聖女が発見したものだ。

 聖女は少しでもその正体を確かめるため、その能力を使用している。そして、新たにわかったことがあり、それによって勇者の派遣が決まった。


 強大な魔の者は、魔王の四天王だと判明したのだ。


「それでは、勇者セキミヤを派遣するということで、異論はないな?」

 反論するものはいなかった。




 カラーン。

 冒険者ギルドへと来た俺たちは、まっすぐに依頼ボードのところまで来た。そして気づく。


「カメリア、まずいぞ。俺は文字が読めないし、今はカメリアの言葉も理解ができない。依頼を選べないな・・・」

 カメリアは呆れたように何か言った。


 だから言ったのに。自動翻訳を取りなさいと。といった感じだろう。だが、俺はカメリアを育てたいんだ。自分を育てたいわけじゃない。だから、俺のことは後回しだ。

 しかし、カメリアを育てるためには、ある程度自分にも力を入れなければならないと、少し反省した。


「あー、ま、何とかなるだろ。依頼はカメリアに任せるよ。あ、でもアント種だけはやめてくれ。」

 その言葉に、もちろんといった顔をするカメリア。カメリアもだいぶこりたのだろう。



 カラーン。

 その時誰かがギルドに入ってきた。俺はなんとなくそちらの方を見て、入ってきた人物を確かめる。


 入ってきたのは男女2人組。彼らがすぐに仲間だということがわかる。なぜなら、2人も同じような仮面をつけているからだ。

 男の方は剣士のようだ。最低限の鎧を身に着け、動きを阻害しないように着けていることから、攻撃は回避するものとして戦うのだろう。着けているマントは青だ。

 女の方も、軽装で、こちらは武器まで小さい剣だった。真正面から戦うタイプではないような感じだ。こちらもマントを付けていて、色は赤だ。


 俺は、2人から目が離せなかった。だってあれは・・・


「なんで、こんなところに・・・カメリア、もう帰るぞ。」

 俺はそう言って、カメリアを懐に入れると逃げ足を使おうとして、捕まった。


 翻った赤いマント。俺の腕をつかむ細い腕。

 すぐそばに、仮面の女がいた。


「間違い、ない。」

 聞きなれた声は、なぜか片言だった。

 俺は、その正体に気づき、確信を得るために鑑定した。


 モリ・セキミヤ 人間 勇者の仲間(2)

モリ・・・色々ツッコみたいが、まずは置いておく。前の世界で、一緒に旅をした仲間・・・だと思っていた人間だ。


「セッキー。」

 懐かしい呼び名に、思わず返事をしそうになって、やめた。


「えっと?どちら様でしょうか?」

「え?」

 俺の他人のふりに、モリが動揺する。俺を捕まえていた手の力が弱まったのを感じ、俺は動いた。


「すみません、急いでいるので。」

 こっそりと、逃げ足と呟き、俺はその場を逃げ出した。




 宿に着くなり、部屋に戻って、俺は立ったまま、先ほどの出来事を振り返った。


 ギルドに昔の仲間が来た。以上だ。

 簡単にまとめればたいしたことはないのだが、詳細を確かめれば問題大ありだ。


 昔の仲間は、この世界の住人ではない。だから、遭遇するはずないのだ、普通は。おそらく、召喚されたのだろう。それとも、俺と同じリアルデス経由か?後でカメリアに確認しよう。


 そして、仲間だった・・・ま、思っていただけだが、モリを鑑定した結果にも驚かされた。モリ・セキミヤ。おい、なんだその名前は!俺と結婚でもしたのかお前は!

 そして、勇者の仲間(2)って、また勇者の仲間になったのかよ!もの好きだな!


 とりあえず、ツッコみたいことはツッコんだので、カメリアにリアルデスについて確認することにした。


「カメリア、いいか?」

 懐を見るが、カメリアがいない。嘘、と血の気が引いた俺の前にカメリアが現れた。とっくに俺の懐から出て行ってたようだ。


 どこかに落としたかと思った。


「俺以外に、ボスからこの世界に連れてこられた人間っているのか?」

 カメリアは頷く。なら、あの2人は、俺と同じように来た可能性もあるってことか。妖精がいれば間違いないだろうな。


 俺が納得していると、カメリアから突き刺さるような視線を感じた。どういうことだ、説明しろ、といったところか?それはま、気になるだろうな。


「・・・説明を聞くか?」

 一応確認すれば、当たり前だろうと頷かれた。


「昔の・・・知り合いだ。一緒に魔王を倒したな。女の方は、モリ。職業はアサシンだ。男の方は、カーター。職業は剣士だ。」

 それくらいかなと、俺は口を閉じてベッドに腰を下ろした。


「あーそうだ。他にも、マノスっていう、鎧男とアンっていう、魔法使いがいたな。あの2人までこの世界に来ているかはわからないが、一応一緒に魔王を倒したメンバーはこの4人だな。」

 なんだか、疲れた。


「俺、もう寝るわ。」

 靴を脱ぎ捨てて、横になる。

 すると、視界の端からカメリアがひょっこり現れた。それを見て、なんだかほっこりする。


「なんだよ、一緒に寝るか?」

 さらっと出た言葉に、カメリアの顔が赤くなって、俺の頭も混乱した。

 俺は何を言った!?


 何サラッと・・・女の子に、一緒に寝るか・・・って、恥ずかしいわ!絶対そいつ下心あるだろ!って、俺か!


「あー、別に深い意味はない。その、あれだ。従魔だし!?そうだ、従魔だもんな、カメリアは!はははふぐっ!?」

 誤魔かし笑いをしていたら、カメリアに顎を殴られた。地味に痛い。でも、カメリアの手の方が痛いんじゃないか?見れば、拳を反対の手でさすっていた。


「大丈夫か?骨は折れてないか?」

 声を掛ければ、顔を真っ赤にして、涙を浮かべた状態で頬を膨らませたカメリア。何これ。ただ可愛いのだが。


「なんか、やばい・・・俺、状態異常かも・・・本当に寝るわ。」

 目をつぶっても、どうしようもない思いは消えない。

 

 うちの妖精が可愛すぎる。てか、俺何に悩んでいたんだっけ?何に疲れていたのかも、よくわからず、数秒考えて思い出した。


 そうだ。モリとカーターのことだ。

 ま、他人の振りしとけばいいだろ。


 あっさりと方針を決めて、俺は眠りに就こうとしたが、なかなか眠れない。やはり起きていよう。


「そういえばさ、カメリアはなんで従魔になったんだ?俺としては冒険者になって欲しかったんだが。」

 育てたカメリアが、最高ランクの冒険者になる。最高のシュチュエーションだ。だけど、従魔になられては、それを見ることができない。


 すると、小さな呟きが聞こえて、俺は目を開けた。

 カメリアの方を見れば、顔を伏せてどこか落ち込んだ様子で立っていた。


「どうした、カメリア!?」

 俺は起き上がって、カメリアの様子をうかがう。

 カメリアは何事か言うが、全く分からない。なんてことだ。


「ごめん、カメリア。何言ってるかわからないんだ。・・・腹痛いのか?」

 調子が悪いのだろうと思いつき、女性の不調第一位と俺が勝手に思っている、腹痛かと尋ねたが、違ったようで睨みつけられた。


「えーと、なら。頭が痛いのか?いや、さっきの拳か!やっぱ、痛かったよな。」

 俺はアイテムボックスからポーションを出したが、カメリアに拒否された。


「・・・カメリア。ごめん。俺、あなたのこと理解できなくて。悔しいよ。」

 このままだと、カメリアに嫌われてしまうかもしれない。いや、もう嫌われているかも。


「俺のこと、嫌いか?」

 素直に聞いてしまって、俺は焦った。何を聞いているのかと。嫌いと言われたらどうする気だ?

 でも、俺の心配は杞憂に終わる。すぐさまカメリアは否定したのだ。


「本当か?」

 確認すれば、まじめな顔をしてカメリアは頷く。それが少しおかしくて、笑ってしまえば、またカメリアの機嫌は悪くなってしまった。


「悪い、安心したら、おかしくって。俺のこと嫌いじゃないんだな、よかった。」

 笑った俺を見て、カメリアは何を思ったのか、隣に来て寝転がった。


「え?」

 訳が分からず、寝転がるカメリアを見下ろした。


 白いシーツが、カメリアの長い黒髪を際立たせる。つやのある綺麗な髪だ。妖精だから、こんなにきれいな髪をしているのか?

 こちらを見つめる、はちみつ色の瞳。黄色といえば、蛇の目なんかを勝手に思い浮かべて、きつい印象に感じていたが、今はそう感じない。魅力的な瞳だ。

 ピンクの服から覗く白い肌。そこへ視線が行くには仕方がないことだ。自然の摂理なのだから。


 まて、俺。落ち着け。


 今の状況を整理しよう。

 カメリアが俺のことを嫌っていないということを確認したら、カメリアが隣で寝転がった。間違いないよな?

 え、どういう状況だよ?


 俺とカメリアの関係って、なんだっけ。


 俺が悶々と考えていると、カメリアの怒ったような声が聞こえた。何を言っているかわからないが、怒っているのはわかる。


 早くしろ的な?

 いや、ないない。だいたい、カメリアのサイズを見ろよ。

 俺の手のひらに乗れるぞ?


 俺は悩んで、とりあえずカメリアから目をそらした。あまりじろじろ見るのは良くないからな。


 考えたがカメリアの意図がわからず、俺は神に助けを求める。別に神じゃなくてもいい。誰か俺を助けてくれ!


 そして、その声は届いた。



 コンコン。と部屋をノックする音。

 俺はすぐさまベッドから降りて、靴も履かずに扉を開けた。


「こんにちは。お前、セキミヤ、間違いないか?」

 そこに立っていたのは、先ほど俺が逃げた理由の片割れ。仮面の男、カーターだった。後ろには、モリもいる。

 俺は一応鑑定をして、カーターを確認した。


 セキミヤ・カーター 人間 嫉妬の勇者


「・・・」

 これは、もう先にツッコもう。

 まず、名前!お前、自分の名前がファミリーネームになってるって、どういうことだよ!てか、乗っ取りか?俺を乗っ取りたいのか?

 そして、お前が勇者かよ!しかも嫉妬の勇者!俺も嫉妬は単体で持ってるから、そこは仲間だと思ってやるよ。


 てか、勇者は大罪関係の称号か!?俺は憎悪で、カーターは嫉妬って・・・


「はい、私がセキミヤですが?」

 心の中でツッコミを終えた俺は、方針を思い出して他人のふりをした。


「やはり。覚えているか、俺。カーター。」

 カーターもモリと同じく片言だ。そういえば、なぜこいつらと会話できるんだ?いや、こいつらこの世界の言語を話していないだけか。きっと、俺は前の世界の言語なら理解できて話せるのだろう。


「カーター。覚えていないのか?」

「モリ。あなた、仲間。覚えている、はず。」

 何をふざけている?

 仲間、その言葉を聞いて、俺の怒りがあふれ出す。次から次へと恨み言が飛び出しそうになるが、笑った。困ったように笑った。


「すみません。私、記憶喪失でして。」

 言ってから失敗したと思った。記憶喪失だと、俺が昔のセキミヤだという可能性が上がる。それだと、こいつらとの縁が切れないかもしれない。

 ここは、他人の空似だと思わせた方がよかっただろう。


「嘘。」

「嘘ではありませんよ・・・どこにそんな根拠が?」

「意味、違う。疑う、ない。」

「・・・あぁ、信じられないという気持ち、ということですね。」

 一瞬ばれたかと思って、ひやりとした。とにかく、この2人を帰らせないとな。


「入る、いい?」

 まずい。侵入を試みようとしてるぞ、こいつら。


「それはちょっと。あなた方は今日初めてお会いした人ですし。それに、今日はもう寝るところなんですよ。帰っていただけませんか?」

「・・・記憶、失う、前、仲間。」

「すみません、帰ってください。」

「セキミヤ。」

 マジで帰ってくれ。こんなにはっきり言っているのに、なんで帰らないんだよ。いらだちが募るが、面には出さない。


 仕方がないか。


「後日お会いしましょう。話はその時聞きますから。」

「約束。」

「えぇ。では。」

 俺は迷いなく扉を閉めた。そして、耳を澄まして2人が去るのを待ち、去ったのを確認した後、振り返った。


 そこには呆然としたカメリア。


 神の助けは無意味だった。



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