第2話 パートナー





 言われるがまま、奥へ奥へと進む。妖精たちの数はどんどん減っていったが、なぜか視線は目に見える妖精たちよりも多く感じる。


「奥にはあまりいないんだな。」

「そんなことはありませんよ。たくさんいるじゃないですか・・・あっ、そういえば見えないのでしたね。」

「見えない?」

「はい。通常妖精は人間の目に触れることはありませんし、言葉も通じません。ですが能力があれば、人間が妖精を見たり、逆に妖精が人間に姿を見せられるようになったりします。」

「つまり、見えない妖精は、あえて姿を現していないか、姿を現す能力がないってことか。」

 なぜか多く感じる視線の理由がわかった。


「そうですね。姿が見えないなど、論外でしょうから、いないものとして扱いましょう。気になる妖精はいますか?」

「・・・」

 目に見える妖精を一通り見る。ここでもほぼすべての妖精に称号が付いていたが、特に目の引く者はいない。何か面白い称号でもついていれば、それが決め手になるかもしれないが。


「そこの、青い髪の妖精は?」

 とりあえず、称号のない妖精について聞いてみることにした。


「彼女は下級の水魔法が扱えますね。」

「ふーん。見たまんまって感じだな。」

 青い髪は水。赤い髪は炎。そんな感じで得意属性がわかれているようだ。


「あとは気になる妖精はいないな。」

「そうですか。もうすぐ最奥ですので、そこでも見つからなければ、男の子のエリアに行きますか?禁断の扉開いちゃいますか?」

「いや、意味が分からない。なんで、男だと禁断の扉になるんだよ。」

「私、雑食なので、安心してください。」

「いや、話しが全く見えないんだが。ボス、俺と会話しているか?噛み合っていないような気がするんだが?」

「お気になさらず。さっ、行きましょう。」


 最奥は広間となっており、天井は高く塔の中のようだ。壁には穴が空いていて、数多くの穴が空いていて、妖精のねぐらにも見える。


「ここは闘技場です。」

 見当違いだったようだ。


「壁に空いた穴は観客席です。観客席から戦い方を学び、闘技場で実践するといった感じですね。定期的に行われる力比べでは、妖精たちの大好きなキャンディーを景品にして、血で血を争う戦いを繰り広げています。」

「妖精怖いな。」

 辺りを見回すが、人っ子一人・・・と言っていいかわからないが、とにかく誰もいない。ただ、視線は感じる。


「実は、ここにこそ最強の妖精がいたり・・・とかするのか?」

「いいえ。ここにいるのは、姿を見せる能力がない者たちばかりです。残念ながらお眼鏡に叶う妖精はいないようですね。」

 視線で、どうするのか問われた。俺は悩む。


 今まで見た妖精で、ピンとくるものはいなかった。なら、男の方を見るべきだとは思うのだが、やはり妖精と言えば女の子がいいだろう。妖精でなくても、個人的に一緒に旅をするなら女の子がいい。妥協するべきか?


 うん、妥協しよう。


「もう一度、見てみる。」

「わかりました。ノーマルもおいしいですから、私はかまいません。」

「・・・」

 ボスはたまに意味の分からないことを言う人だな。


 来た道を戻ろうとしたが、鋭い視線を感じた気がして、俺は足を止めた。


「何か?」

「・・・いや、なんか睨まれている気がして。」

「睨まれている?・・・あぁ、本当ですね。カメリア、おやめなさい。」

 ボスは、一番近くにある観客席という名の壁の穴に向かって声を上げた。おそらくそこに俺を睨みつける妖精がいるのだろう。


「ボス、なぜそいつは俺を睨んでいるんだ?俺が何かしたのか?」

「いいえ、あなたは何も。この子の問題です。彼女は少々問題児でして。」

「問題児?」

「・・・はい。お恥ずかしい限りですが、みんながみんな勤勉というわけではなく、あの子のように何も強くなる努力をせずに過ごす妖精もいるのです。」

「ふーん。ちょっと興味あるな。」

「え?」

「いや、どんな妖精なのかなって。見ることは出来ないのか?」

「できなくはないですが・・・いいでしょう。これをお使いください。」

 ボスが手をかざすと、ガラスの結晶のようなものが現れた。大きさは500mlのペットボトルくらいだ。


「これは7日間だけ、誰でも妖精の姿と声を聞くことができるようになるアイテムです。旅に出る際にお渡ししようと思っていたものなので、ここで使ってくださっても構いません。」

「ありがとう。でも、なぜこれを配っているんだ?普通は、姿の見える妖精をパートナーにするんだよな?」

「そうですが、万が一見えない妖精がいいという方のためにお渡ししています。使わなければ換金アイテムとして利用すればいいので。」

「それもそうか。」

「割っていただければ、効果が出ますよ。通常は床にたたきつけて割りますね。」

 説明を聞くなり、俺はアイテムを床にたたきつけた。

 割れたアイテムが光の粒子となって消える。


 ざわざわざわ・・・


 殺風景だった景色が色鮮やかになる。赤、青、黄色・・・様々な妖精が飛び交い、一気に騒がしくなった。


「すごい。こんなにいたのか。」

 上を見上げれば、観客席は満席のようだった。


「もうすぐ力比べが始まりますから。今回開催されるのは、弱い妖精のみ参加可能というものでして・・・一度くらいは勝って、勝利の美酒もといキャンディーを手に入れたいと、ほぼすべての弱き妖精が集まっています。」

「キャンディーって、そんなに貴重なのか?」

「はい。なにせ、ここには甘いものがありませんから。もしも、妖精と喧嘩して困ったというときは、クッキーなど甘いものを与えれば、たいてい機嫌がよくなりますよ。」

 心のメモに書き留めた。


「そうやって、思い通りにすべての妖精が動くと思ったら大間違いよ、ボス。」

 可愛らしくも冷たい声が上から降ってきて、俺は目的を思い出す。そう、この声の主を見るためにアイテムを使ったのだ。


 顔をあげれば、俺と同じ黒髪の少女がいた。そのことに驚く。

 今まで見てきた妖精は、カラフルな髪の色をしていて、黒などなかった。そして、次に金の目を見て、俺の心は決まった。


「俺と、一緒に来ないか?」

 自然と手を差し伸べていた。


「え?」

「・・・ご冗談を。」

 目の前の妖精とボスから戸惑いの声が上がる。でも、俺の心は決まっていた。


 改めて、目の前の妖精を見れば、俺の心に間違いがないことを実感する。称号として見える2つの文字は、「怠惰」。面白い。このような文字が称号としてあると誰が思ったか。思い浮かぶのは7つの大罪で、ちょっと集めたくなってしまう。だが、今はコレクターの顔を見せてはいけない。


「なんなの?なんでこっちに手を伸ばしてるの?」

 なぜかよくわかっていない妖精に、ボスは説明した。


「あなたを旅の共にしたいそうですよ。説明し忘れていましたが、妖精側にはあなたの言葉は通じません。言語が違うので。あのアイテムは、妖精の姿が見える。声か聞こえてその言葉も理解ができるというものです。」

「あぁ、そうなのか。」

「別に、いいわよ。」

 ボスの説明が終わると、妖精は了承の声を上げた。


「カメリア?」

 怪訝そうに妖精を見るボスに、妖精は答える。


「ここにいるのも飽きたわ。どうせ、いつかは人間の奴隷になるのでしょう?なら、私がいいっていうこの男にするわ。」

「人間の奴隷・・・」

「カメリア!何ということを言うのです!あなたたち妖精は、彼らにとってパートナーですよ?」

「それが理想って話でしょう?実際、私たちをパートナーって思っている人間は、どれだけいるの?」

 馬鹿にしたように笑う妖精。そんな妖精の前で、手をあげた。


「俺は、あなたをパートナーにしたい。いや、あなたは俺のパートナーだ・・・カメリアでいいんだよな?これからよろしく、カメリア!」

「え、何?なんで手をあげるの?宣誓でもすればいいわけ?」

「カメリアのパートナーになると言っています。あと、よろしくと。」

 ボスの通訳で意味の分かったらしいカメリアは、一瞬顔を赤くした後、こちらを睨みつけた。


「よろしくしてもいいけど、私はかなり弱いよ?魔法だって、下級のが数個使えるだけだし。あんたがアイテムを使わなければ、姿すら見えない。言葉だって、一方通行だし・・・もう少し考えたら?私が言うのもなんだけど。」

 だんだん声が小さくなり、眉を八の字にするカメリア。どうやら本気で心配してくれているようだ。俺を。


「弱くても構わない。だって、別に魔王を倒しに行くわけではないし。」

「・・・何を言っているかわからないけど、それでも私を選ぶつもりなのね。」

 言葉は通じなくても、心は通じているようだ。


「顔を見ればわかるわ。」

 心の声が聞こえているかのようだ。


「いや、聞こえてないから。」

 ・・・え、マジで聞こえてる?

 焦る俺の肩に、ボスが手を置いた。


「全部顔に書いてあります。わかりやすすぎますよ。」




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