27話 天気になあれ。

雨。


雨は好きではない。

好きなのは晴れが続いた時の農家くらいだろう。



私が朝起きた頃には既に土砂降り。

今日は電車で行くことを決め、支度を始めた。




土砂降りの中、傘をさして駅へ向かう。

雨のせいで駅は普段より混雑していた。


雨と人の多さで湿気がすごい。

車内は湿度MAX。

たった一駅が辛い。息苦しい。


学生時代、練習終わりの部室を思い出す。



やっと降りたと思えば

人の波に流されながら会社へ。





こんな始まりの一日は

淀んだ一日になりそうだ。


というか、なってしまった。




光が入らない仕事場は全体的に暗く

同僚達もテンションが上がらない。

仕事の時間はいつもより長く感じる。





仕事がようやく終わったと思ったら

まだ降っている雨を見てため息が出る。











さて帰るか。


そう思って外に出ると

1人の女子社員が立ち止まっていた。










「どうしよう。」













うん。

見るからに傘を忘れて帰れない感が出ている。


話を聞くと、全くその通りだった。

朝は知り合いに送ってもらったらしい。



私はカバンに入れてあった折り畳み傘を彼女に渡した。








「ありがとうございます!中村さん!本当に助かりました!」









彼女は晴れ晴れとした笑顔で私に礼を言った。

雨の中、その笑顔は眩しすぎる。










返すのはいつでもいいから、

と告げて私は先に帰った。


こんなどんよりした天気だが

人助けをするのは気持ちがいいな。


少し今の自分に浸りながら、私は帰った。













次の日。

昨日の雨はなんだったんだろうと

思うほどの晴れ。


昨日の雨のせいで少し湿気はあるが

気持ちのいい晴れ。



昨日の人助けと天気のおかげで私は上機嫌。

やはり人助けは気持ちがいい。






会社へ着くと

昨日、傘を忘れて帰れない感を出していた後輩と偶然会った。


私は上機嫌なテンションを隠し

昨日は雨にあたらず帰れたかさりげなく聞いた。




まあ、愚問。

なんたって傘を貸したのだから。






しかし、そう聞かれた彼女は

なぜかばつが悪そうにしている。















「美紀ー。おはよう!中村さんもおはようございます。

昨日大丈夫だった?傘なくて困ってたみたいだけど。」














彼女の同期の子が声をかけてきた。

一応、私が傘を貸したことをその子にも伝えようとした。

しかし、私が話し始めるよりも先にその子が話し始めた。











「中村さん、聞いてくださいよ。昨日、この子傘なくて困ってたらしくて。」






それは知ってる。














「しかも、誰かが傘貸してくれた人がいたらしいんですけど、

なんか壊れた傘を渡されたらしくて。笑っちゃいますよね。」
























私は笑えなかった。

この場で笑っているのは一人だけだった。




私は彼女に謝り、なぜか彼女も私に謝っていた。







私の心は今日も雨模様スタート。

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