第3話:俺があいつであいつが俺で(物理)
「うぅ〜ん…」
「大丈夫か、颯輝」
俺は部屋で胡座をかいて必死に唸っていた。
正澄さんが声をかける。
「お前が俺の弟の佐吉ではないことに俺は驚いているが、その事に全く気付かない親父もどうなっているんだとしか言えない」
「…だよね。まさか猫で気付くとは思わなかったけどさ」
正澄さんは俺が正澄さんの言う佐吉じゃないと気づいたらしく、俺の話を聞いてくれたどころか、信じてくれた。
「正澄さん…「颯輝、俺の事は人前では“兄上”と呼んでほしい。佐吉がそう呼んでいるからな。その方で皆、通っている」
…兄上…か。
「分かった…頑張るよ…あ、兄上…\\」
そう言うと正澄さんはよくできましたと俺の頭を撫でた。
正澄さんが仕事の為に部屋から出て行って、俺はとりあえず今の状況を書きまとめておこうと思った。幸い、文机の上に紙と筆があったからそれに書いてみることにした。
ー今は天正元年の水無月元日
ー場所は近江国(今の滋賀県)
ー最近、浅井家が滅んでしまった
ー本来ならば木から落ちたのは俺ではなくて「佐吉」と言う名前の少年で、俺と瓜二つ
ー「佐吉」の兄が正澄で、父親の名前が正継
それと妹が2人いる
ー「佐吉」は近くの寺に勉強しに行っていて、今は家に帰っている(言わば休日)
ー「佐吉」は木から落ちたとき白い猫を助けようとしていた
ー結論ー
俺はその「佐吉」と時代が入れ替わったのかもしれない
「(うん…進展ゼロ‼︎)」
そう考えた俺はバタンと床に倒れこんだ。
ゴンッ‼︎
「いっ」
勢いよく頭を床に打ち付けた。床は畳じゃなかった。いってぇ…
※当時畳敷の部屋はめっちゃ金持ち、もしくはそれほど有力な大名っていう証拠みたいなもんだったらしい。当時は板間が普通なんだとか…
昔だから畳って当たり前かな〜って思っていたけど、違うんだな…と思いながら俺は板間の床にもう一度ゴロンと寝っ転がった。
そして少し目を閉じた。
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