超能力を使いこなすまでの手順

佐藤田中

第1話

私がどんなに、眠くても、朝はやってくるし、

私がどんなに、怠くても、働かなきゃお金は貰えないし、

私がどんなに、死にたくても、世界は簡単に終わらせてくれない。


今日も自らが吐き出した紫煙を眺め、


「ニートになりてえな…」


と呟く。


____________________


今日で26になるが、25歳から変わった事といえば体がまた衰えてきた事くらいで、26年間趣味も特技もなく、嫌いなことは多いけど、好きな事は少ない方だと思うし、都会でもド田舎でもない、所謂、地方都市に住んでいてずーっと何も変わらない生活を送っている。

強いて言うなら、20歳を超えたあたりから好物が寿司からタバコになったくらいだ。


かくいう今も仕事合間のタバコ休憩にここぞとばかりに肺に煙を入れる。

短いタバコ休憩を終え、ノロノロと持ち場に戻る。

毎回ここで1つ面倒くさいイベントが来る。


「はるき、おかえり〜〜!

喫煙者はタバコで息抜きできていいよね〜〜」


横から同僚のウトにチクチク言われるのだ。ウトは私とは正反対で理想の女子を具現化したような子だ。

ここにコマンド ▶︎席替え があれば迷いなく連打する事だろう。


「はるき、今日誕生日だよ!?

アラサー突入して彼氏もいないはるきに私から誕生日プレゼント!」


…うん、やっぱり席替えしたい。


「彼氏いないウトに言われる筋合いないし、まだ仕事中だから後にしてくれる?」


小言を言うウトを軽くあしらい、パソコンへと向き合う。

黙々と仕事をしていると考え事が増えるタチで、今日も例に習って考え事が止まらない。


考え事と言っても、タバコが吸いたいだとか、今日の夕飯だとか、上司が面倒くさいだとかたわいもない事だ。

多くの社会人がそうだと思うが、出来ることなら働きたくない。スーパーニートになりたい。


しかし、ニートになってもする事がない。ならいっそ一度死んだ方が何もしなくても楽なのか…?


……やめた。こんな下らない事考えても仕事はしなきゃいけないし、死ぬなら死ぬでその前に面白いことが起こってほしい。例えば、取引先のミスで今日の仕事ができなくなって帰宅とか。


こんな事を考えていても仕事が捗らないし、さっさと今日の仕事を片付けるか…。

午後の眠い時間を乗り切るため、エナジードリンクを体に入れ再びパソコンに向き合おうとした瞬間…



コツコツと高いピンヒールの音が近付いてきた。


これは、たぶん、いや、絶対そうだ。

私がこの会社で1番苦手とする理不尽上司の代名詞と言っても過言ではない、うちの女部長の足音だ。


横のウトもうんざりした顔でこちらを見てきた。

今日はどんな嫌味を言われるのかと身構えたのだが、入ってきて早々に女独特の耳に響く高い声で、


「〇〇さんのとこがちょっとやらかしたみたいで、今日は仕事にならないわ」


と、大きな独り言を呟いた。

○○はうちの会社のPC関係を任せている会社であり、そこがやらかしたと言う事はPC作業がメインの私たちは何もする事がなくなってしまうのだ。


もちろん、それ以外の仕事もあるが社会的にはまだまだ下っ端の私達なぞしけたタバコくらい使えないものだ。


つまりは…


「伊藤さんとウトさんは今日は仕方ないから給料泥棒せずに退勤なさい」


伊藤とは私の名字で、私とウトはうちの部署では一番の下っ端だ。

下っ端の私達にさせる仕事はないとみなしたのだろう。

先程の願いがいとも簡単に叶ってしまった。


しかし、○○がミスをする事などそうそうなく、よっぽどでなければ私たちに迷惑がかかるはずがない。

だか、今日は誕生日で、私がラッキーすぎるのだ。喜んで退勤させていただこうじゃないか!


今から、家に帰り、溜まったアニメの消化としばらくできていない家の掃除をしてゆっくり休も……


「はるき!!!飲みに行こ!!!誕生日だし!彼氏もいないし!めちゃくちゃラッキーじゃん!!!」


この女がやすやすと帰してくれるはずがない事を忘れていた…。


「嫌だよ。する事あるし。」


一応断りを入れるがこの女がそう言うことを聞くはずもない事は承知している。


「どうせ、家に帰ってアニメでも見てビール飲みながらタバコに溺れるんでしょ!?」


やはり、帰してくれないらしい。

1度深いため息をつき、今日は寝られない事を覚悟した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超能力を使いこなすまでの手順 佐藤田中 @oysm_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ