──第62話──

「それで……その人たちは?」


ニーナとウィルを見送った後、俺はエヴァンに問い掛けた。


ウィルが食堂に入って来た時に一緒に来た二人。


一人はあの森で出会ったエルフの魔法剣士と、もう一人はフードを被り、顔が見えにくくなっているが……。

もしかして……。


「お久しぶりです。」


フードを少しずらし、覗かせた顔は王女様だった。


後ろから「やっぱりな」とネロの声が聞こえてくる。


え、ネロ分かってたの?


エヴァンが王女様に俺達の名前を伝えると、王女様は俺に向かって頭を下げる。


「ルディ様、以前はニーナが大変失礼致しました。どうか、お許し下さいませんでしょうか……?」


いや、うん。

あのね?

もう、その件はすでに終わってるんだよな。


「えー、と……俺は、怒って無いよ。その……とりあえず、座る……?」


王女様を立たせたままには出来ないので、先程までニーナが座っていた席を指し、促す。


王女様はその指示に嫌な顔どころか、笑顔で「優しいのですね。」と言ってから席に座る。


「あの、何で王女様がここにいるのか……聞いても……?」


王女様が座ったのを確認してから、俺はたどたどしくも問い掛けてみた。

その問いに王女様はゆっくりとした口調で答える。


「はい。ウィルから、ルディ様が居られる場所が分かり、今なら話を聞いてくれるかもしれない、と伺いましたので、城を抜け出して来ました。」


……。


簡単に抜け出すなよっ!!

警備はどーなってるんだ!?


「別に、抜け出さなくても良かったんじゃ……?」


「いえ。私も一国の王の娘。外に出る為には、それ相応の理由が必要になります。今回は、急を要する事でしたので、ウィルとここにいるクリスに手伝って貰いました。」


王女様はクリスと言葉にした時にエルフの女性をちらりと見る。

どうやら、エルフの名前はクリスと言う様だ。


て言うか……。

分かってるなら、そんなにホイホイ出るなよ!

やんちゃ過ぎないか、王女様!?

周りが迷惑してると思うぞ?

……別に俺には関係無いか。

いや、あるか?

王女様がいなくなったって気付かれて、捜索隊が出たりして……。

俺が誘拐したとか言われるのは勘弁してもらいたいな。

早く話を聞いて、さっさと帰って貰おう。


俺が考えている間にネロが王女様に言葉を投げ掛けていた。


「話は聞くが、協力するかどうか決めるのは、話を聞いてからだ。」


「はい。それで構いません。」


「それでー?話ってなーにー?」


ネロの言葉で顔が強張こわばっていた王女様だが、ラルフの笑顔で少しばかりほぐれた様子で口を開いた。


「以前、森でお会いした時にも申しましたが……ルディ様に……いえ、ルディ様達に我が国で起こっている問題の解決にご協力して頂けませんでしょうか?」


「その問題って言うのは、エヴァンが言ってた……捕まえてもすぐに死んじまう奴らの事か?」


ネロの問いに王女様はこくりと頷き、話を続ける。


「エヴァンからお聞きになったのですね。……その通りです。同じ様な事が立て続けに起きているせいで、王宮の中では、隣国のスパイでは無いか、テロを起こそうとしているのでは無いか等の声が上がり、戦争を始めようとする方々が増えつつあります。私は、戦争を望んでおりません……。」


「でも、前から……十年だったか?それくらい前からあった問題なんだろ?」


「ネロ様の言う通りです。ですが、私達……王宮に住む者が知る様になったのはここ数年の出来事なのです。それまではエヴァン達が調べ、動いていたのですが……」


「何も進展が無いんだな。」


ネロの言葉に王女様は俯いて肯定する。

すると、ラルフは頭に疑問符を浮かべながら王女様に問う。


「んー……。何で王宮の人たちが知っちゃったのー?」


「それは…………随分前に行方不明になった使用人が、最近になり帰って来たのですが……様子がおかしく、言葉もまともに話せない様子でした。その使用人が王宮の中で武器を振り回し、重役の何名かを傷付けてしまい……お亡くなりになられた方もいます。」


「でも、その使用人一人が重役を殺したとしても、隣国のスパイだなんて話にはならないんじゃないのー?」


「ええ。ラルフ様が言う通り……最初は……お恥ずかしながら、誰も気にしてはおりませんでした。誘拐された先で精神をやられてしまったのでは、と思っていたのです。ですが、その一年後、そして半年後と王宮の重役ばかり狙う黒いローブを着た人達が現れたのです。…………最初の使用人も同じローブを着ておりました。」


「それで、隣国がこの国に何かしてきてるのかもって事?」


「ええ。その様に考えている方もいます。……ですが…………私は、はっきり申しますと、隣国かどうかは関係無いのです。」


「どーいう事?」


「私は、あの方々は何か洗脳されているのでは、と思っております。その様な人達をこれ以上増やす訳にはいきません。」


「えっとー……使用人達が洗脳されてるって事ー?」


「はい。何か……違和感があったのです。私は目の前で見た時に、自分の意思とは関係無く動かされているのでは無いかと思いました。そして、神に助言を求め、ルディ様達なら解決出来るとお聞きしました。」


「僕達が解決するかは置いといてー……もし、王女様の言う様な……黒幕?がいたとして……それが隣国の人なら戦争になるんじゃないかなー?」


「いえ、黒幕を捕らえられれば、戦争を回避する選択肢がいくつか出来ると聞きました。ただ、現状は……憶測や推測で物事を進められています。このままでは戦争を回避出来なくなるのも時間の問題でしょう。」


「んー……そっかー。黒幕が隣国の人間じゃなかったら戦争にはならないし、もし、隣国の人だったとしても、その人を盾に隣国の人とお話出来るもんねー。」


「あ、あの……私は……その辺りはよく分からないのです……。私の父がそう言っておりましたので……。申し訳ありません……。」


王女様は恥ずかしそうに頬を染めて俯いてしまった。


ネロとラルフは質問をしたりし、色々と言ったり聞いたりしているが、俺はひたすら聞く側に回っていた。


誰か、要点をまとめて俺にくれないかな……。


一人取り残されている感じがするが、後でネロとラルフに聞こうと俺は心の中で思っていた。













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