──第45話──

里を出てから四日目。

本来なら昨日の夜、〈リシュベル国〉に着く予定だったが、ユニコーンとの出会いにより予定よりも遅くなっていた。


ユニコーンに貰ったミサンガみたいなモノは左手首につけている。


何の効果があるのか今一いまいち分からないが、前世だとパワーストーンとかは左手に着けた方が良いって聞いた記憶がある。

何でも人間の気の流れは左で受け取り右に流れて行くとかなんとか……。

よく覚えてない。

しかも、これパワーストーンじゃなくてユニコーンのたてがみだしな。

何の効果も無いかもしれん。


考えながらも俺達は森の中を進んで行った。

森を抜けた先に見えたモノは、そびえ立つ大きな壁。

壁は円形状になっているからか、壁の先を左右に見回しても終わりが見えない。


『ルディ、こっちだ。』


『はやく、はやくー!』


ほうけていた俺に気が付いたネロとラルフが、少し歩いた所で振り向き、待っていた。

俺が二人の元に駆け寄るとそのまま歩き出す。


辿たどり着いた先には大きな門があり、甲冑かっちゅうを着た兵士が立っていた。

門の左右には大きな柱があり、柱には窓がついている。

出入りする人はそこで何か言葉を交わしている様子だった。


『ここを入ったら〈リシュベル国〉だ。あそこの小窓で身分証を見せる。入る時も出る時も見せるのを忘れない様にしろよ?』


ネロの説明を聞きながら歩いて行く。

人も多く無く、すぐに兵士の元に到着し、小窓の中から兵士が顔を覗かせた。


「では、身分証を……」

「あ、あなた様は……王女様がお迎えに上がったはずでは……?」


小窓の兵士の言葉をさえぎる、門の横に立っていた兵士。

その兵士の言葉で俺達は顔を見合せ、俺が答える事にした。


「置いてきた。」


「え……王女様を置いて……?あの、一体なぜ……?」


困惑している兵士を目の前に、俺はただ面倒事に巻き込まれなく無かったと素直に言って良いのか悩んでいた。


だって、リシュベル国に何か問題が起きてるから迎えに来たとか言ってたんだよ?

そんな会話してたってなったら無理矢理にでも王女様に会わせられそうじゃん。

ここは何も知らないていで行こう。


「なんとなく?」


「で、では、何も聞かれていないのですね……?それでは、すぐに城への案内人を……」

「いらない、いらない。」


そんなに俺を巻き込みたいのか!?

勘弁してくれよ……


「俺は自分の目的の為に来ただけで、城に行くつもりも、その予定も無い。」


「その、目的とは……?」


「別に言う必要ないだろ?この国に迷惑掛けるつもりは無いし。」


「で、ですが……」


俺はどう、しらばっくれて乗り切ろうか考えていると、見かねたネロが口を挟んで来た。


「うるさいなぁ。用事があるなら向こうから来いよ。しばらくはリシュベル国にいるんだからさ。」


ネロ、ありがとう。

だけどね?

用事があるから来た王女様を置いて来たの俺達だと思うんだ。

それをまた来いって。

ネロ凄い事言ってるの気付いてる?

まあ、良いけどね。

それがネロだし。


「しかし……あ、あの、滞在中に不便があるかも知れませんから、案内人だけでも……」

「いらねぇよ。案内は俺達がやるからな。それで?こいつ、まだ身分証持って無いんだけど。入国させるの?させないの?」


「す、すぐにご用意致します!……おい!お前っ!」

「は、はいっ!」


兵士達が わたわた しながらも仮の身分証を発行してくれた。

ネロとラルフも身分証を見せ、俺達は門の中に足を踏み入れた。


え?何か問題あった?

特に無いよね、うん。

後ろの兵士が少しうるさい位で特に何も問題無いな。


目の前に広がる、活気溢れる街並み。


ちゃんと家が地面の上にある。


今までエルモアの里しか見ていなかったせいか、全てが新鮮に感じられた。


地面には石畳があり、木造の家やレンガの家、お店は露店の様になっていて、買い物する人や冒険者の様な俺達と似た格好の人が入り乱れ、騒がしくも楽しそうな雰囲気。


ネロが、まずは俺の身分証を作る為に冒険者ギルドへ行くと言うので、そこに向かっていたのだが……


俺を見た人は、小声でヒソヒソと話したり俺から一定距離いっていきょり離れる様に歩いていた。


俺達の周りだけぽっかりと穴が空いた様に人がいない。


まるでモーゼの様だ。

いや、モーゼみたいに誰かを助ける為に海を割るなんて、そんな大層な事じゃないけど。


俺は小声で二人に聞いてみる。


『なぁ、レベルが高いと魔物だけじゃなく、人間も近寄らないもんなのか?』


『僕が前に来た時は普通だったよー?』


『……。』


俺の問いにラルフが答えてくれる。

が、なら何故?


ネロは口に手を当て耳をませている様子だった。

俺もそれに習い、耳に意識を集中させる。


───銀色の髪?

────瞳も紅いぞ。

──ならあの子が?

──もしかして───


俺達……と言うか、俺を見て小声で話している人間の声を拾う。


ガシッ!


突然頭に何かが来て前のめりになってしまった。

原因はネロの手だった。


集中してんだからビックリするだろ。


ネロの手が俺の頭を掴み、頭を下げさせられていた。


ネロは小声だけど、はっきりと俺に向かって言ってきた。


『ルディのこの髪のせいだっ!』


『あははははは!人間ですらあり得ない色だもんね!』


『ネロもラルフも同じ色だろうがっ!!』


『僕達は変えてるもん!』


『あぁ!もう!ルディ!!何とかしろ!!』


『俺、悪くなくない!?ネロとラルフだけ髪色変えられるのずりぃよ!!』


『どうしよっかー?』


『チッ!身分証作ったら服買いに行くぞ。このルディの目立つ髪を隠せる様なヤツ。』


『ネロ……俺、そんなに金ねぇよ?それに問題もねぇし。』


カインからいくらかは貰っていたが、あまり無駄には使いたくない。

別に遠巻きに見られるだけなら特に問題も無いと思う。


『ルディ、……馬鹿だろ。』


『んだと?』


『これから、色々調べて行くのに目立ってどうすんだよ!!』


『あははははは!』


『服くらいなら俺が出してやるから!!さっさと行くぞ!』


『ネロってば、素直にルディに買ってあげたかったって言えば……』

ゴチンッ!

『いたーい!?』


ネロの鉄拳がラルフの頭に落ちた。


『うっせぇ!別に初めて外に出たからって訳じゃねぇよ!さっさと行くぞ!!』


なるほど。

初めて外に出たお祝いに何か理由をつけて買ってくれようとしてたんだな。

本当、素直じゃないな、ネロは。


俺が口元を緩ませると、目敏めざといネロの鉄拳を食らってしまった。

痛くて涙目になってしまったが、早足で歩くネロの後ろを俺は笑いながら着いて行った。









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