──第39話──

俺達三人は森の中を進んで行く。


深淵しんえんの森は奥に行けば行く程、人が入って来ない為、道が無い。

逆に森から出ようと外へ向かえば、徐々に道が出来てくる。


と言っても道らしきモノだが。


今向かっているのは、人間の国〈リシュベル国〉に続く道。


すると、並走しているネロが口を開いた。


『ルディはまだ森の外に出た事が無いんだよな。』


『父さんと母さんに止められてたからね。それがどうした?』


『いや、まぁ……人間の常識は知らないんだろうなって思ってな。』


言葉をにごしながらネロは失礼な事を言ってきた。


前世は普通に人間してたからな!

普通に人間って意味分からんけどっ!

でも、前世と今で人間の常識が一緒なのか怪しいんだよな……。


『あはは!だって、ルディだもん!しょうがないよ!!』


ちょっと待て、ラルフ。

俺だからしょうがないって何!?

俺、今まで非常識な事をした記憶が無いんだけど!


たわい無い会話をしていると、【索敵】に魔物以外の反応が示された。


『……ネロ、ラルフ。』


俺の言葉に二人はうなずくと、近くにある木の上に飛び移り、そのまま俺達は隠密の魔法を見にまとわせ、息をひそめて、その姿が見えるのを待つ。


姿が見えるよりも先に話し声が聞こえて来た。


「ねぇー!何でまた此処ここに来なきゃいけないのさ!」


「そう、お告げがありましたので。」


「前回の失敗も踏まえて準備したから、今回は大丈夫だろ。」


「ここから先、奥に行く程魔物共は強くなるからな!気を付けて行かねぇと。」


「もう、前回の様な失態はしない……。」


「あれは俺達を守る為だったじゃねぇか。」


「いや、それでも……」


「二人とも、それくらいにしろ。……前回は目的の人物に偶然にも会えたが、今回も会えるのか……。」


「お告げでは、今日森に入れば会えるとありましたが……。」


「っつっても、姫様まで来る事はねぇと…………」


わいわいと騒がしい五人組。


魔物がいるというのに、そんなに騒いでて良いのだろうか。


その五人組は以前ラルフと追いかけっこしていた人間だった。


俺は声を潜め、相手に聞こえない声でネロとラルフに問いかける。


『……どうする?』


『あの人達、僕、前に会った事があるよーな?』


『どうするっつってもな……無謀な人間だからほうっておいても良いんじゃねぇか?』


『でも、放っておいたら』

『生きて帰れるか五分五分だな。』


俺の言葉にネロは被せて来た。

ネロはその人間を見て一考してから、ラルフに声を掛ける。


『そういや、ラルフはあの人間を知ってんのか?』


『うん!この前一緒に遊んでたー!』


『……ラルフが一方的に、な。』


『……ラルフ。お前馬鹿だろ。』


『えぇー!?ネロまでそんな事言うの!?』


『あの人間が誰だか知らないのか?』


『しらなーい!』

『……ネロは知ってるのか?』


『俺を誰だと思ってるんだ?』


ネロはネロだと思う。


不適な笑みを浮かべたネロは姿が見えて来た人間を一人一人ゆびしながら説明してくれた。


『あの長剣を持っている男が騎士団長。その隣にいる大楯を持っている男が騎士団長補佐。杖を持っている女は期待のホープと言われている魔術師。そして長剣を構えている女がエルフ族の魔法剣士。』


『へぇ、エルフ族がいるのか。』


『他の四人は人間だがな。』


『ふーん……。』


『さっき説明した四人は強いって言われている奴らだな。ただ……』


『?』

『どーしたの?』


『あの四人に守られる様にしている女が……俺の見間違いで無ければ王女様、なんだよな……。』


『…………。』

『…………。』


はぁ!?

王女様!?

ビックリし過ぎてラルフまで黙ってるじゃん!


『何で王女様が?てか、どこの命知らずな王女様だ。』


『…………俺達が向かっている〈リシュベル国〉の、だな。』


『……まじかよ。』

『……えぇー!?』


驚き過ぎて言葉が出ない。

だが、ネロはどうでも良さそうな声で話を続けた。


『俺はあいつら人間がどうなっても良いんだけどな。……ルディはどうしたい?』


『俺もどうでも良いって言ったらどうでも良いんだけど……』


『けど?』


ネロは俺に決定権をゆだねていた。


何かが引っ掛かるんだよな。

またこの人達に会ったのは偶然なのか……。


カルロスの言葉を思い出してみる。


────その時、時期がくればルディを導いてくれるだろう。その瞬間を逃さぬ様にしてくれれば良い。

────すでに人間とのえにしがあったようだしな。

────すぐに分かる時が来る。


人間とのえにしってこれの事なのかな……。

他に知り合った人間もいないし……。

もしそうなら、その瞬間を逃すなって言われている以上、無視出来ないんだよな……。


俺はネロのうながしで、少し考えてから答えを出す。


『放っておいたら駄目な気がするんだよな……。』


『…そうか、ルディがそう言うならそうなんだろ。』

『そーなの?ルディがそー言うならそうしよう!』


二人とも無条件に俺を信用し過ぎでは無いですかね?


俺は嬉しさで口元が緩むのを堪えて、五人組の前に降り立つ。

続いてネロ、ラルフも俺の両サイドに降りた。


突然現れた俺達に人間は臨戦態勢りんせんたいせいをとる。


「ななななな!?どこから!?」


「気配も何も無かったぞ!?」


慌てた様子の声を出す、杖と大楯の人間。

俺達は動揺が収まるのを静かに待った。

















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