──第38話──

あれから、あっという間に七日が過ぎた。


俺にとっては凄く長く感じた日々だった。


ネロやラルフとは未だに険悪けんあくなままだ。


それはそうだ。

俺から二人が遠ざかる様にしたんだから……。


二人で広間にいる姿を見た時、いつもなら駆け寄る光景を前に、俺はきびすを返すしか無かった。


もう昔みたいに二人の元に駆け寄れないのか、と思うと、あの時の選択は間違いだったのか、と後悔する。

だけど、これで良かったのだとも思う。

二人が危険にさらされないなら、俺の選択は間違いでは無かったと感じる。


頭で考えていても仕方ないと分かっていても、ついつい考えてしまう。


本当にこれで良かったのか、と。


口から出た言葉は取り返しが効かない。

手紙やメールだと書き直しが出来るのに、言葉はそうはいかない。


勢いに任せて出た言葉。

何を言ったのか、俺はあまり覚えていない。

だけど、ネロとラルフは覚えているだろう。

言った方よりも、言われた方が傷つくのだから……。


そして、俺の出発の時刻は刻一刻こくいっこくせまっている。


太陽が森を明るく照らす時刻。

明け方より少し過ぎたこの時間は空気が柔らかく、頭をスッキリとさせてくれる。


その空気を肺にいっぱい吸い込み、息を吐く。


よし、行こう。


里の出口にはライアにカイン、ジョセフや里の人達が集まり見送りをされる。


大袈裟おおげさだなぁ。


つい苦笑を漏らしながらも、嬉しく思う。


『本当に行くのかの……?』


涙を浮かべながらライアが声を出した。


『うん、行くよ。……そんな、今生こんじょうの別れじゃないんだからさ。また帰って来るって。』


『だがの……朝起きてルディの顔を見れないと思うとな……っ!』


『これ、ライア。ルディを困らすんじゃない。』


カインはライアの肩を抱き寄せながら苦笑していた。


『ルディ、何かあったらすぐに帰って来なさい。』


『その通りじゃ。ルディは【念話】もサンルーク達に教えて貰っておったじゃろ。すぐに妾達……母さん達に言うのだぞ!』


『あはは……分かったよ。父さん、母さん。』


『ルディー!気を付けての……』

『頑張るんだよ。』


二人に抱き締められ、無意識にあの二人の影を探してしまう。

ここにネロとラルフがいない事を寂しく思いながら抱きしめ返す。


ゆっくりと二人の腕から離れ、カイン、ライア、そして里の皆に一礼する。


『行ってきます!』


口々に見送りの言葉を貰い、それに対し笑顔で答える。


そして俺は歩むべき道を真っ直ぐに見た。


『俺達に挨拶も無しに行くのか?』


『そーだよー!ひどいよー!!』


そこにはネロとラルフがいた。

ネロは腕を組み、ラルフは腰に手を当て怒っているポーズをしていたが、声色こわいろからは怒りの感情が感じられなかった。


いつの間にそこにいたんだろう。


さっき影を探したけど、いなかった筈。

いつ俺の後ろに回り込んだのだろうか。


『え……なんでここに……?』


俺は驚きを隠さずに二人に聞いた。


『俺達も行くからに決まってるだろ?』


『そうそう!』


二人は髪色を変えるチョーカーを付け、防具に大きな袋まで持っていた。


は?

今、なんて??

一緒に行く?

何の為にあの時二人を遠ざけたと思ってるの?


俺は、あの時様に怒りをにじませた声を出した。


『だから!お前らとは一緒にいかないって!!』


『ふざけんのもいい加減にしろよ?』


『……なっ!』


『ルディがねー、何を心配してるのかなってネロと話たり、皆に聞いたりしてたんだよ!』


『まさか、ルディに心配されてる何て思わなかったけどな。』


『ネロの嘘つき!一番ショックを……』


ゴチンッ!


『いたーい!!ネロ!?何で殴るの!?』


ネロの容赦ようしゃの無い一撃がラルフの頭を襲う。


『うっせぇ!!』


目の前にいる二人は、いつもの二人だった。

いつも軽口を叩いては、じゃれあう……あの雰囲気。


二人を遠ざけなければ……と思う反面はんめん、あの頃の様に二人と会話したいと感じていた。


二人を無視し、無視された七日間。

俺は無理矢理作っていた怒りを維持いじ出来なくなっていた。


『ルディ……お前が俺達の命に責任を感じる事も、持つ事はない。』


『そうだよ!僕達だって、自分の身くらい守れるもん!』


『持つ必要の無いモノは持つな。』


『ルディが大変な時に黙って見てられないもんね!』


『だけどな……』


ネロとラルフは交互に俺に言葉をかける。

その言葉は凄く暖かかった。


『ルディがどう言おうが、これは俺が決めた事だ。お前に責任は無いし、重く捉える事もない。』


『ルディは考えすぎなんだよ!もっと楽しく行こう!』


『……お前ら…………馬鹿だ、なぁ……。』


俺の頬に暖かい何かが流れて行くのが分かった。


人間の国に行くと決めたあの日に流れ無かった暖かいモノが流れ、俺の渇いた心を潤していく。


『ったく。この前、散々言ったクセにまだ言うか。』


『……本当に、馬鹿だよ……ネロも、ラルフも。』


『あははは!』


『ふん、汚ぇ顔。』


馬鹿が付く程、二人は優しい。

右手で俺は乱暴に顔をぬぐう。


『……後悔しても知らないからな。』


『する訳無いだろ。』


『だいじょーぶだよ!』


ネロは不適な笑みで───。

ラルフは満面の笑顔で───。


やっぱり二人が一緒だと安心するな。

恥ずかしくて、絶対に口に出しては言えないけれど。


一人じゃなく、三人で。

俺達は笑顔で里を後にし、人間の国へと向かった。


















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